25.カイト達のお仕事
ホダカと子供達が村に住み始めてから、半年が経過した。
今日、カイト達五人は、村で自分達が作った野菜を街の八百屋へと売りに来ていた。成長の早い野菜は、ダメになるのも早いので、収穫しては食べる分以外を全て売る事に決めている。
荷車に積まれた野菜を見て、八百屋のおじさんが査定し始めた。最初はカイト達に警戒していた八百屋のおじさんやおばさんも、最近ではごく自然に受け入れてくれるようになった。
ホダカが生活面や衛生面をキチンとしてくれている為、もう路上にいた頃のように薄汚れた服を纏うガリガリでは無くなった事も、評価の改善となったのだろう。栄養面でも、野菜は自分達の畑から、お肉はホダカが魔物を取って来てくれるのでバッチリだ。
成長期のカイト達は、十分な栄養のお陰で、最近では急激に身長も伸びてきた。最初はホダカと同じくらいの身長だった彼らは、今では頭一個分、ホダカよりも大きくなっている。しかもまだ、少しずつ伸び続けている最中だ。
そんなカイト達を横目に「ウガァァァァァ!!」っと悔しがりの雄叫びをあげているホダカだが、これからは食事の量を増やすと言って、彼らに十分すぎるほどの肉をまた用意して来てくれる。カイト達は、そんなホダカが大好きでしょうがなかった。
野菜を買い取って貰った彼らは、お金を五人で分けて持ち、街の中を歩き始めた。これは昔からの習性で、誰か一人のお金が取られたとしても、他の四人のお金は無事だと言う防犯面からだ。
ホダカを無条件に信じて慕う彼らだが、仲間以外の他人を信じてはいない。元々この街に住んでいた事で内情も知っているし、警戒心はとても強くなっていた。サッサと用事を済ませて、ホダカ達の待つ村……家に帰ろうと、荷車を動かし始めた。
空になった荷車は軽いので、彼らの中で一番体が大きくて力のあるタンダが一人で引いている。ガラガラと音を立てる荷車の横を歩きながら、リックがセリオの顔を見た。
「なあ、今日は何を買って帰るんだっけ?」
「リト達の服だよ。これから寒くなるから、少し暖かそうな奴って、ホダカが言ってた」
「ああ!そっか。安いのあるかな」
「取り敢えず、古着屋に行ってみようぜ」
「ああ。そうしよう」
街にある古着屋へと向かったカイト達は、小さな子供達用の服を見て回った。子供達より、少しだけ大きいサイズの子供服を何枚か買う。この街にいる頃だったら、小さな子供達でも、カイト達が着るくらいの大きさの服を着ていた。その方が何年も着られて、お金が掛からないからだ。
でも今は、ダボダボな服はだらしがなく見える!とホダカが怒るので、少し大きいだけのサイズの服を買っている。例え中古の服だとしても、とっても贅沢をしている気になるものだ。
服を買って荷車に積み込んだカイト達は、村に帰る事にした。街中を足取り軽く歩いて行いたその時、一番前を歩いていたカイトが「あっ!」と大きな声を上げた。
カイトの声に顔を向けたリック達は、カイトの視線を追って、同じく「あっ!」と声を上げる。先程まで警戒心マックスだったその表情は緩み、ニヤッと笑みを見せる。
顔を見合わせたカイト達は、荷車を引くタンダ以外の四人が一斉に走り出した。
よく見慣れた背と体つきをした男性。背中を向けていても分かるドワーフの体型をした彼に、皆んなで駆け寄り抱きついた。
「ホーダカァ!!!」
「何してんの?」
「街に来るなら、一緒に来ればよかったじゃん」
一斉に話し掛けた彼らは次の瞬間、思いっきり腕を振り解かれ、全員が地面へと倒れ込んでいた。痛みを堪えながら顔を上げた彼らに、目の前に立つドワーフが冷たい瞳を向ける。
後ろから見た時はホダカだと思ったが、顔を見ると全然違う。他のドワーフだったのかと、カイト達は驚いた。
ドワーフは基本的に、自分達の国からはあまり出てこない。だからこれだけ大きな街でも、今までホダカ以外のドワーフを見た事はなかった。その為、他のドワーフが居るとは考えてもいなかったのだ。
謝らなければと、急いで立ちあがろうとしたカイト達の前に、ババッと五人の男達が立ち塞がった。
「汚らしい人間の平民風情が!」
「ドワーフの第二血統様に抱き付くとは、何たる不敬!」
「この場にて処分してくれる!」
立ち塞がった男達は、全員が騎士のような格好に帯剣しており、護衛の者達であると直ぐに分かった。あのドワーフは、人間で言う貴族に値する方だったのだと、カイト達の顔から血の気が引いていった。慌てて地面に膝をつき、頭を下げる。
「申し訳御座いません」
「知り合いのドワーフと勘違いをしてしまいました」
「本当に申し訳ございません。どうかお許し下さい」
必死に謝るが、護衛の者達は話を聞かずに剣を抜いた。このままでは全員手打ちにされてしまうと、カイト達は目と目で会話をする。
こういった時は、もう逃げるしかない。全員が無事に逃げ出せる確率は低いが、全員死ぬよりはマシだ。仲間の無事を祈りながら、全速力で走って逃げる。もうそれしか、道は残されていなかった。
少し離れた場所にいたタンダは、荷車を動かし始め、彼らの横を素知らぬ顔で通り過ぎて行く。
ガラガラと鳴り響く車輪の音を聞きながら、目を合わせない彼らは、心の中で別れを告げ合った。




