23.村を作ろう
「超高速スキル発動!木製杭、乱れ打ち!」
ガンガンガンガン、ガンガンガン!
簡易的な足場に乗った俺は、ジャンプをしながら、大きな木製ハンマーを振り下ろす。俺の身長の三倍はあるであろう大きな木の杭を、隙間なく次々と地面に打ち付けていく。
半日以上の時間を掛けてようやく、東京ドームくらいの広さがある土地をグルリと一周取り囲む、強固な木製壁を作り終えたのだった。
フウッと吐息を落とした俺は、壁の中を見つめた。
子供達に出会ってから、早いもので一ヶ月が経過した。
あれから俺は、子供達と一緒に生活をしている。保護者のいない子ども達を、そのまま放置して立ち去る事は出来ず、皆んなで安心して生活できる村を建設する事にしたのだ。
本当は材料採取の旅に出るつもりだったのだが、当初の目的でも、俺は良い土地を見つけて家を建てるつもりだったのだからと無理矢理気持ちを納得させた。
手始めに、ランフォルトの土地にある森の木々を伐採して、開拓をした。土地はかなり広めに作ったので、まだ四分の一も使っていない。これから少しずつ村に必要な物を取り入れていくつもりだ。
大きく開けた平野の左側には、子供達の為にあの日作った畑。そして、その他にもいくつかの畑を作成した。そして少し離れた場所に、みんなで生活をする為の大きな家を建築した。
取り急ぎ、子供達が安心して過ごせる場所を作りたかった為、大きな家と言うよりはとても頑丈な体育館の様な建物となっている。これはそのうち倉庫として使う予定で、もう少し落ち着いたら、家を別に建て直すつもりだ。
開拓する為に伐採した沢山の木は加工して、家の基礎に使ったり、村や子供達を魔物から守る為の防御壁に使用する。
いままさに俺が作っていた壁がそうだ。手付かずの森の木々は、どれも大きく育っているので、材料には困らない。
村にいる子供達は、全部で三十五人。年長者達がまとめ役になり、みんなで仕事を分担している。小さな子供達も皆んな平等に仕事を割り振られ、水を撒いたり、雑草を抜いたりしながら、一生懸命畑仕事に精を出している。
どんなに小さな子供達だって、生きる為には働かなければならない。厳しいかもしれないが、俺はこのやり方を変える気はない。でもその分、俺は出来る限り、彼らの力になろうと決めている。
一ヶ月前、此処に皆んなで住もうと提案した後、一人一人の自己紹介が始まった。流石に、三十五人もいると、一気に全員覚えるのは至難の業だ。だから少しずつ覚える様にしている。
最初に覚えたのは、子供達のまとめ役の年長者。その中でも、主要メンバーは五人だ。
リーダーのカイトを中心にリック、タンダ、テッド、セリオで、十二、三歳の男子達だ。
そして、俺に一番最初に近付いて来た五歳くらいの大きさをした男の子。あの子はテッドの弟でリト、八歳。声は出るが、あまり話をしようとしないらしい。目の前で両親が盗賊に殺された事が原因らしく、大人に恐怖心を持っており、いつも小さくなって隠れているのだとか。でも何故か、リトは俺を怖がらない。その理由は分からないが、身長からくるもので無い事を祈るばかりだ。
勿論俺も、子供達に名前を伝える事にしたのだが、その時俺はドラグスとは名乗らず、日本名のホダカと子供達に名乗った。
ドラグスと言う名は、家柄の関係もあり、ドワーフの中で少し有名過ぎるからだ。王国を追い出された俺は、ドワンライト王国のドワーフではない。ただのホダカという地位も名誉も無いただのドワーフなのだと、自分の中でケジメをつけたかったと言う意味合いもある。
「おーい、ホダカ!」
「買って来た野菜の苗、全部植え終わったよ」
「おお!ご苦労さん」
俺は駆け寄って来たカイト達へと、視線を移した。近くまで来たカイト達は、たった今、補強まで終えて完成したばかりの木製壁を見上げている。大人でも見上げるほど高さのある壁がグルリと囲む大きな土地は、圧迫感もあるが、安心感をも与えてくれる。
この村の近くには森が広がっており、魔物も多く生息している。これだけ頑丈な防御壁があれば、子供達が安心して建物の外に出られるだろう。
「凄え……」
「こんな頑丈そうな壁、あっという間に作っちゃうんだな」
「やっぱ、ホダカは凄えよ」
子供達からは、称賛の嵐だ。
褒められた俺は鼻高々、得意げになる。材料である材木の上に立ち上がり、両手を腰に当てた。
「そうだろう、そうだろう!もっと俺を、褒めて称えて尊敬するが良い」
ワッハッハ!と大きな声で笑う俺を見て、カイト達も笑顔を返す。
「確かにこれは、称賛ものだよな」
「うんうん。本当にホダカは凄いと思う。カッコいい!」
「まあ……ちょっと、背はちっこいけどな」
「な、なんだとぉ!!!」
「ヤバッ。逃げろ!」
カイト達は、慌てて逃げ出して行った。
こんなにも親切で優しい俺に対して、なんて失礼なガキどもなんだ。プリプリと怒る俺が、材料の上にもう一度腰を下ろすと、カイト達が足を止めて振り返った。
「「ホダカァァァ!!!」」
「んあ?なんだぁ?」
「一緒にいてくれて、ありがとう!」
「俺達、ホダカの事、大好きだからなぁ!」
「えっ?」
予想外の言葉に、俺が呆気に取られていると、カイト達は笑いながら他の仕事へと戻って行った。
俺は照れ隠しにポリポリと頭を掻いた。




