20.子供達の畑
鍬は俺の身長に合わせて作ったので、少し短めだ。
その鍬を持ち、大雑把にこれくらいの広さの畑と、地面に目安をつける。鍬の持ち手をグッと持ち、そして再びスキルを発動させた。
「超高速スキル発動!」
俺はスキルを発動したと同時に、とても硬い土を一気に開墾し始めた。自慢の力強さとスキルのおかげで、人の十倍以上の早さで土起こしが出来る。
大きな石や小さな石が次々と土の中から発掘され、それらを退かしながら畑を作っていった。
あっという間に、五メートル×五メートルの畑が完成した。三十センチ間隔で、土山と通路を交互に作ったので、これなら子供達でも野菜を作る事ができるだろう。
先程の種芋を掘り起こし、土の山へと移動させる。そして、俺を見続けている子供達へと視線を移した。
「こうやって、この土の山に野菜を植えるんだ。こうすれば、野菜が出来るからな」
パーッと表情を明るくさせた子ども達は、嬉しそうに彼方此方に走って行った。そして植えてあったらしき、野菜の苗などを持って来て、畑へと植え替えていく。俺は空間から取り出した水を、苗に掛けていった。
畑の三分の一に野菜の苗を植え終えた辺りで、子供達の動きが止まった。どうやら全て移し終わったらしい。
まだ元気が無い苗ばかりだが、これならさっきよりはマシだと思う。嬉しそうに畑を見つめている子ども達と一緒にしゃがみ込んでいた俺は、ホッと吐息を落として立ち上がった。
「良かったな。あとは、肥料をやったり水をやったりするんだぞ」
俺は辺りを見回して、忘れ物がないかを確認する。
鍬を子供達にあげようかとも思ったが、それはやめる事にした。第一血統の俺が作った事で、先端がかなり切れ味の良い武器並みの鍬になってしまったからだ。パパッと作った割には、武器ランクの★6以上はあると思われる。子供に持たせると危ないので、持って行く事にした。
「じゃあな。俺はもう行くよ」
歩き出した俺は「えっ?」っと小さく言葉を溢した。俺の足に、子供達が纏わりついて来たからだ。
「おい、離せって。危ないだろ」
「嫌ぁ!!」
「行っちゃ駄目!!」
「行っちゃ駄目って……。俺は行く所があるんだよ」
「やだぁ!!」
いくら言っても、子供達が手を離してくれない。俺の脚にしがみつく一人の手を外すと、別の子の手が即座にしがみついてくる。右足も左足にも、子供がぎっしり鈴なり状態だ。
俺の力はかなり強いので、あまり乱暴に引き離したりすると、このガリガリな子供達には致命傷になりかねない。その為、優しく引き離すしかないのだが、まるでタコの吸盤の様にしつこく引っ付き、離しても離してもまた新たな手がしがみつく為、無限地獄となっていた。
「おい。いい加減に離せ!」
「いやぁ!!!」
「やだぁ!!!」
子供達の声が響き渡った、その時だった。
「そいつらを離せ!!!」
「えっ?」
驚きながら顔を上げた俺の目の前に、五人の男の子達が姿を現した。年は恐らく十二、三歳。日本で言うと、中学生に上がったかどうか位だろう。彼らはその辺に落ちていたらしき棒切れを持って、俺を睨み付けている。
だが、その表情は次第に戸惑いに変わっていった。それもその筈。俺が連れて行こうとしている訳ではなく、子供達が俺から離れないのだから。
「えっと……。これはどんな状況なんだ?」
「えっ?分かんない」
「奴隷商人じゃ……無いよな?」
彼らは困惑した表情で顔を見合わせている。おそらく年齢から言っても、彼らはこの子達のまとめ役のようだ。これは天の助けだと、俺は彼らに助けを求めた。
「助けてくれ。この子達を俺から離してくれ!」
「やだぁ!行っちゃ、やだぁ」
子供達がワンワンと泣き叫び、大合唱を始める。
俺や後から来た彼らが何を言っても、子供達は泣くばかりで手を離してくれなくなったし、収拾がつかなくなってしまった。
とにかく落ち着かせなければならないと、俺はその場に座る事にした。




