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19.畑というより地面

 疑問に首を傾げる俺の背後から、子供達の大きな声が聞こえて来た。


「「ああぁあぁぁ!!」」


 何事かと後ろを振り向くと、子供達が俺の方を見ながら涙目になっている。


「なんだ?どうした」


 俺が尋ねると、涙目の子供達は俺の足元を指差した。


「お野菜……」

「えっ?野菜?」


 俺は慌てて足元へと視線を移した。俺の足元には、野菜の様な物は見当たらない。あまり元気のない雑草が、沢山生えているだけだった。


「野菜なんて、何処にあるんだ?」


 キョロキョロと視線を彷徨わせていると、子供達は俺の足元に寄って来てしゃがみ込んだ。それを見た俺もしゃがみ込む。


「これ!これが野菜なの」

「これか?」

「うん」


 子供達が指し示したのは、雑草の中にある雑草。それもあまり元気の無い雑草だった。


「いや……。これは野菜じゃなくて雑草だぞ?」

「違うもん。野菜の苗だもん」

「苗か……」


 ドラグスの記憶だと、野菜の苗なんて見た事がない。誉鷹の記憶でも、マジマジと野菜の苗を見た記憶は無いので、雑草と見分けがつかなかった。


「悪かったな。俺は野菜の苗を見た事がなかったから、知らなかったんだ」


 一応、子供達に謝罪をする。

 だがしかし、納得がいかない部分もあった。それは、野菜の苗だと言われている雑草が植えられている場所だ。


 その周辺の地面を触って見たが、耕されていないので、かなり硬い。見掛けも明らかに畑ではない平地なので、植えた奴以外に、これが苗だと分かる奴はいないだろう。こんな状態で、本当に野菜が育つのだろうかと心配になってしまう。


 ふと横を見ると、別の場所にしゃがみ込んだ子供達の前に、萎え萎えっとした元気の無い芽が二つ並んでいるのが見えた。


「……それは、なんの野菜を植えてあるんだ?」

「お芋」

「芋!?」


 俺は唖然としてしまった。芋と言うのは、確か地面の中に出来るのではなかっただろうか。日本人だった頃にジャガイモやサツマイモなどを植えた記憶では、柔らかい土の山に等間隔で植えて軽く土をかけた覚えがある。

 幼稚園生や小学校の低学年でも、植える事ができた位、土は柔らかかった筈だ。


「……こんなに土が固いと、芋は出来ないんじゃないか?」


 芽の生えてる場所を、指で軽く掘ってみると、直ぐに種芋が顔を現した。種芋を植える時に、あまり深く埋めなくて良いと言われていたが、これは浅すぎるのでは無いだろうか。

 首を傾げ気味に芋を見ていると、しゃがみ込んだ子供達が、シュンッと落ち込みを見せた。


「土が硬くて掘れないの……」

「手で掘ったから……」


 ああ、成る程っと、俺は納得をした。

 ガリガリの子供達の力では、この固い地面を掘り起こすことは出来なかったらしい。シャベルや鍬があれば良いのだが、そんなのを買うお金があったら、食い物を買っているだろう。それならばと、俺は立ち上がった。


「分かった。俺に任せろ」


 苗を踏んでしまった謝罪として、子供達でも簡単に植える事ができる畑をプレゼントする事にした。俺は空間から鉄の塊と鍛治道具を取り出して地面に置いていく。


「おい、お前達。危ないから、少し離れた場所から見ていろ」


 何が始まるのか分からず、不思議そうな顔をしていた子供達だったが、素直に俺から離れていく。距離をとって座った子供達を見て、俺は左手に鉄の塊を持って炎を出した。真っ赤になった鉄を、思いっきりハンマーで叩き始める。


 俺の超高速スキルを発動させている為、あっという間に鉄の塊が鍬の形になっていく。出来上がった鉄を、水に入れて一気に冷ます。鉄を持って確認した俺は、こんなもんかと納得をして仕上げを済ませた。


 鍬の先端を作り終えた俺は立ち上がり、切っても平気そうな木の枝を探して切り落とした。それを工房魔法で乾燥、形を整えながら加工して細長い棒状にするとヤスリをかける。

 

 一般的に開墾鍬(かいこんくわ)と呼ばれている鍬が出来上がった。


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