18.集まって来た人間の子供達
出来上がった干し肉と何かに使えそうな骨を、俺はいそいそと空間の中へと仕舞っていった。
「あっ。味見するのを忘れた」
大切なことを忘れていた。空間から一番小さな干し肉の塊を出してみる。右手に持った干し肉へと視線を移した俺は、その視界におかしなものが映り込んでいる事に気が付いた。
パチパチと瞬きをしながら、もう一度よく見てみる。
何度見ても間違いない。肉を持つ俺の手の下に、薄汚れた茶色い髪の毛が見えていたのだ。ゆっくりと手を動かして見ると、その手を追って瞳を動かす一人の男の子がいた。
「ウワッ!なんだ、お前。えっ?どこから来た?」
驚いた俺の顔を、男の子がジッと見つめる。
髪の毛も汚いが、顔も汚い。着ている服もボロだし、どうやら身寄りの無い子供の様だ。俺に向けられていた瞳は、また肉の塊の方へと移動する。そしてジッと見つめ続けた。
「なんだ。腹減ったのか?もっと早く言えば、乾燥しなかったのに……」
もうカリカリにしてしまったのだから致し方がない。まな板とよく切れる包丁を取り出した俺は、干し肉を小さく切っていった。そして、その肉を男の子に手渡した。
「ほれよ。これでも食っとけ」
干し肉を差し出すと、男の子はコクリと頷きを落としてから受け取った。歳は五歳くらいだろうか。カリカリにしすぎて噛みきれない様だが、かなりお腹を空かせているようで、必死に齧り付いている。
この子は見るからに人間の子供だ。何故こんな所にいるのかは知らないが、取り立てて嫌な感情を持つ事はなかった。
ドワーフだけの記憶を持っていた俺は、人間に対してとても嫌な感情を持っていた。でも人間の記憶が戻った今は、その感情が薄れているのがよく分かる。人間の子供に対して同情に近い、可哀想だと慈しむ気持ちは、決して悪い感情ではないだろう。
俺は、まな板にある他の肉を手に取り口の中へと放り込んだ。結構硬い。子供が食べられるのかは微妙だ。
口の中で肉を咀嚼していた俺は、ふと男の子とは反対側に気配を感じて振り向いた。そこには、女の子と男の子が合わせて五人近付いて来ていた。この子達も、干し肉を必死に食べている男の子と大差ない汚さだ。
「なんだ?えっ?お前達も腹が減っているのか?」
コクリと頷きを落とした子供達を見て、それならばと、干し肉を切り分け、手渡していく。すると藪の中から、次から次へと子供達が姿を現し始めた。いくら渡しても、後から後から姿を現す子供達。
「おい、ちょっと待て。一体何人いるんだよ!」
肉が足りなくなったので、また小さな塊を空間から出して切り分けていった。子供達は全部で十九人も居た。何故こんな場所に、これだけの数の子供がいるのかが分からない。俺は、最初に近付いて来た男の子に尋ねてみた。
「お前達の家は何処だ?」
男の子は薮の方を指差した。示された方向へと歩いて行くと、藪と藪の間の地面に、隠す様にぼろ布が敷いてある。
「えっ?これが家か?」
俺について来た男の子は、コクリと頷きを落とした。
機能性が全くない、実にワイルドな家だ。隠れることは可能だと思うが、匂いで判断出来る魔物や肉食動物には、全く意味をなさないだろう。
そう言えば、レッドキラーを発見する前、小さな悲鳴の様なものが聞こえた気がしたが、この子達の声だったのかもしれない。
「もしかして、あの魔物はお前達の獲物だったのか?それなら、俺が倒してしまって悪かったな」
俺が謝ると、男の子は首を左右に振った。
これはどう言う意味なのだろうか。魔物は自分達の獲物じゃなかったってことか?それとも、気にしないでって意味なのか?どちらの返事なのかは、結局分からなかった。