14.高校生男子の苦悩
俺の名前は、真須平 誉鷹。十七歳。誉れ高き鷹と言う意味合いで付けられた名前負けしている当て字男だ。
その日俺は、生きていく上で必要とされている一日の精神的な苦行、学校生活と言うやつを終えて帰路についていた。
ぶっちゃけ、学校は嫌いだ。学校に行った時に喋るだけの友達はいるが、取り立てて仲が良いと言う訳でもなく、友達はいないと言っても過言では無い。
インドア派で内向的。趣味は石集めとゲームと言う、完全に陰キャでしか無い。
「はぁ……」
ため息を吐きながら歩いていた俺は、道端に落ちていた石をコツッと蹴った。アスファルトを転がる石を見つめながら、その音を耳で追っていく。
こんな陰キャな俺でも、学校に好きな女の子くらいいた。顔は可愛いし、誰にでも優しくて明るい女の子。俺なんかが話しかける事なんて出来ないくらい、人気のある子だった。
そんな彼女に、彼氏が出来たらしいとクラスの奴らの噂で聞いた。相手の男は、これまた女子に人気のあるイケメン男子。バスケ部に所属していて身長は178センチ。
自分より背の高い人が好きだと言う彼女の好みまで耳にしてしまい、彼女と同じ身長で162センチしかない俺涙目。ただでさえ、ほぼ止まってしまった身長は、俺のコンプレックスだったのに。
イケメンと美少女。誰がどう見てもお似合いのカップルだ。非の打ち所が無いカップルだからこそ、逆にイラついたりもする。
「ああ!クッソ。もう学校行きたくねぇ!」
俺の楽しみが全て消え去ってしまった。接点のない彼女が、たまたま笑っている顔を偶然見かけたりなんかすると、今日はいい日だとテンション上げてた可愛い俺。
行きたくも無い学校になんとなく毎日キチンと通っていたのは、そんなちょっとした幸せの為だったってのもある。そんなちょっとした幸せを失った俺のメンタルは、完全に崩壊していた。
家路を急ぐ俺が、ふと止まった信号機。そんな俺の後ろでは、男と女が何やら揉めていた。男は二十代前半くらいで、女の方は制服を着ているから女子高生だろう。バカップルの喧嘩か?と、少しイラッとさせられた。
人目を気にしたのか、男は嫌がる女の子の手を引き、建物と建物の間にある狭い路地裏へと入って行こうとする。その時、女の子の今にも泣き出しそうな、か細い声が俺の耳に届いた。
「やめて下さい……。離して……下さい」
「えっ?」
思わず俺は声を出してしまった。
(あれは本当に、バカップルの喧嘩なのか?なんか変じゃねえ?)
チラリと後ろを見ると、震えながらもなんとか手を振り解こうとしている女の子と目があった。彼女の瞳が、俺に助けを求めている。ふとその横を見ると、彼女の視線に気がついた男が、俺を睨み付けてきた。マズッ!と、俺は急いで前を向き直した。男は辺りを見回しながら、それでも彼女の手を離さない。
「早く来い!」
苛立つ男の声と共に、女の子の小さな嗚咽が聞こえて来る。俺は震える両手をギュッと握り締めた。
他校の子だし、俺が助ける必要なんて無い。だって相手の男、背が高くてガタイも良いし、かなり強そうだしさ。それに、もしかしたら俺が何か勘違いしているってだけかもしれないだろ?
例え本当に絡まれているのだとしても、誰か他の奴が助けてくれる筈だ。うん。俺じゃあ、小さくて弱いから、役になんか立たないし……。だから……だから。
頭の中で目一杯、彼女を助けない言い訳をしていた俺は、いつの間にか走り出していた。後一歩で路地裏に引き摺り込まれそうだった彼女の手を取り、男の背中を思いっきり蹴り飛ばす。バランスを崩した男は、地面に激しく転倒した。俺は驚いた顔を向ける彼女の手を引いた。
「走れ!!」
俺と彼女は、目一杯走った。案の定、男がすぐに立ち上がって、俺達を追って来ている。
俺と彼女の足の速さでは、直ぐに追いつかれてしまう。並んで走る俺達は、男に追い付かれてしまうのでは無いかと言う恐怖から走り続け、道路へと飛び出した。
激しいブレーキの音。ドンッと鈍い音と共に、俺の体に衝撃が伝わった。
所々飛ぶ意識の中で俺が覚えているのは、道路に広がっていく自分の血と、俺の横に倒れたままの彼女が、泣きながら俺に謝っている光景だった。
「私の所為で……ごめ……なさい」
何度も謝る彼女。さっき逃げる為に繋いだ手は、今でも離さないまま、俺と彼女を繋いでいた。彼女の後ろには、ピカピカした赤い光が見える。
「お願い……。この人……助け……。知らない……人から……助けて……」
駆け寄って来た救急隊員に、彼女が必死に訴えている。自分も怪我をして痛そうなのに、俺の為に頑張ってくれている彼女。救急隊員が俺達の手を離して、容体の確認をする。
離されてしまった手を、必死に伸ばしている彼女を見ながら、俺は静かに息を引き取った。
一話限りの日本人編です。
一応、転生話なので……。