10.ロブント鉱石
日が暮れて辺りが薄暗くなって来た頃。
時間も忘れ、収集に明け暮れていた俺は、ゴロゴロと落ちている沢山の石の前で、座り込んでいた。拳よりも大きな石を一つ一つ手に持って観察していく。
「これは……ただの石か。こっちは……これも石だな」
期待はずれの石は、ポイポイと後方へと投げていく。俺の後ろには、小さな石の山が出来上がっていた。
「やったぁ!!これは、ロブント鉱石だ!」
右手に持った拳大の石は、ロブント鉱石。普通の石と見分けがつかない鉱石なのだが、ある特殊な香料と一緒に混ぜ合わせる事で、美しい真紅の色を発色する。
ただ、この鉱石だけでは他に利用出来ない事から、そこまで価値は高くない着色系の鉱物だ。レア度的にはギルドで定められた素材の10段階である星評価で、★4と言った所となる。
星の評価は、何処でも入手可能な★1から、ほぼ入手不可能な超スーパーレアの★10となっているので、★4は入手するのに困難な素材ではない事が分かると思う。
とは言え、山に入ってから見つけていた素材は、大抵2から3のレア度だったので、これは大発見とも言える。
常に★6以上の高級な素材ばかりを扱ってきた俺からすれば、特にレアな素材という訳では無い。それでも、素材を自分の手で見つけた嬉しさは格別だった。
薄暗くなった山の中で一人、喜びに浸っていると、俺の背後の地が小さく音を立てた。ピクッと反応した俺は、スウッと瞳を細める。大切なロブント鉱石を空間へと仕舞い、左手に持っていた石を見つめた。これは、間違いなくただの石だ。
俺を標的に忍び寄って来た何かが、地を蹴り飛び掛かって来た。俺はそのタイミングで立ち上がり、振り返りざまに右手に持ち替えたただの石を、渾身の力で思いっきり投げつけた。
俺の素晴らしい腕力とコントロールをもって投げ付けられた石は、見事に敵の顔へとヒットする。ギャア!!と呻きを上げた敵を見て、俺はニヤリとほくそ笑んだ。
「ザンキーラか」
中型の肉食魔獣ザンキーラ。
二本足歩行が特徴で、両手には鋭利な爪、ワニの様な長い口には鋭い牙を持つ。目の前にいるコイツは、一般的な大きさ、体長二.五メートルと言った所だ。
魔法は使えないので、主な攻撃は噛みつきと爪による斬撃、尻尾と突進による打撃のみ。足はそこまで速く無いので、倒す事に苦労は無い。そして何より、こいつの肉はとても美味いのだ!
「態々そっちから来てくれるなんてな。そう言えば丁度、腹が減っていたんだ」
俺の右手は空間の中から、大きなドワーフハンマーを取り出した。プラチナ色に輝く大ハンマーは、ハンマーの頭の両辺が真っ平な両口ハンマー。見事な細工が施されてはいるが、見掛けよりも全然軽るく、何より硬い。キラリと光るブラウンの大きな地輝石が、中央で輝きを放っていた。
敵に一撃を喰らわせれば、その箇所の骨を確実に粉砕する威力を持っている。数ヶ月前に俺が作った、俺専用武器、武器ランク★9のドワーフハンマーだ。
国から出る事が出来ない第一血統だが、戦闘経験はかなりの物となっている。その理由は、自分が作った武器は、自分で一度使って見る必要があるからだ。第一血統の為にドワンライト王国内に設置された巨大な闘技場では、捕獲されてきた魔物と第一血統による戦闘が、連日繰り広げられている。
自身の作った武器で魔物と相対する事で、欠点を見極め改善していく。そして、他の人達の戦いや武器を見る事で、新しいアイディアや自身に足りない物を見極めると言った勉強にもなり、第一血統内で皆が切磋琢磨することを願い目的とされている。
魔物や魔獣にもランクがあり、下はGの問題外と言うランクから、F.E.D.C.B.A.R.SR.SSRの、十段階となっている。第一血統の相手ともなると、最低でもCランク以上のが求められ、俺の家柄的に選ばれる魔物は大抵SRかR。最低でもAかBランクの魔物と戦っていたのだった。
と言う事で、目の前にいるEランクのザンキーラ程度の魔物と戦う事は、俺にとって全く問題はなかった。
走り込んで来たザンキーラの顔に、横振りした俺のハンマーが直撃する。横へと吹っ飛んだザンキーラの頭蓋骨は粉砕。一撃で死に絶えた。