1.ドワーフ王国のドラグス
ここはドワーフの国、ドワンライト王国。
ドワーフとその家族だけが住める国だ。
この国のドワーフ王、賢王と呼び声の高いルドワガーフ国王陛下は、病床にふせっている為、今は第一王子が執務を代行している。
城の北側の端にある千人は入れるであろう広くて豪奢な一室。先代達の最高傑作とも言える作品の数々が装飾品として飾られているこの大広間は、特別な雰囲気を醸し出している。
両側にある傍聴席からは、沢山の人達の期待に満ちた瞳。彼らのその熱い瞳は、中央に立つ俺と、俺の左横に立つ一人の男に向けられていた。
俺達の前にある壇上には、この国の第一王子ザリュードワ、第二王子ネリュードワ、そして俺の幼き頃からの婚約者である末娘の第一王女サリューネが着席した。会場内の全ての準備が整い、王族の座る壇上のすぐ下に立つこの国の宰相が声を上げる。
「只今より、選定の儀を執り行います」
ワァー!!っと、割れんばかりの歓声が室内に響き渡る。
チラリと傍聴席に瞳を向けると、一番前の席に威厳たっぷりな親父が座っていた。力強い親父の瞳は、お前を信じていると俺に告げている。無言のまま頷きを落とした親父に、俺も小さく頷きを返し、そして前を向いた。
「今回の選定の儀、希望者は二名。両者の作品を前へ!」
宰相の言葉を受けて、国の騎士達が背後にある扉を開け、大きな白い箱の乗った台車をゆっくりと押してやって来た。王族達の前に並べられた台の上に移された白い大きな箱を見て、傍聴席に座るドワーフ達がゴクリと喉を鳴らした。
「第一血統のドラグスの作品だ。この目に焼き付けなくては」
「貴重な瞬間に立ち会えた。俺は幸せ者だ」
周囲にいるドワーフ達の興奮は最高潮に達している。聞こえて来る彼らの声に、俺は心の中でそっと呟いた。
(寡黙な親父も絶対に唸りを上げると、自信を持って言える会心の出来栄えだ。期待していろよ!)
コッソリと笑みを浮かべた俺は、意識を宰相へと戻した。並べられた箱を見て、宰相は大きな声で告げた。
「今回の題目は、ハーフアーマーの作成。選定基準は、鉄鉱石を60%使用する事、それ以外の材料については自由。重さは十キロ以下。この条件の元、彼ら二人は、ドワーフ神殿にある命の間にて五日間、外部との接触を完全に経ち、作品の制作に打ち込みました。命の間の前には、二十四時間常に見張りが立ち、他者の介入がなかった事を、国が証明、保証致します」
宰相が告げると、壇上の真ん中に座る第一王子ザリュードワが立ち上がった。
「これから披露される作品は、彼ら二人が自身の手で製作した渾身の作品である事を、国王代理、第一王子ザリュードワがここに保証する。これに異議のある者は、挙手にてそれを示せ!」
王子の言葉を聞き、俺を含めた会場内にいる全てのドワーフ達が右手を胸に当て、瞳を瞑って頭を下げた。シーンと静まり返った沈黙は、厳粛な管理の元、この選定の儀が執り行われたと、皆が認めた事を意味する。
王子の着席をもって、これは決定事項となり、これ以降で不服を訴える事は完全に出来なくなった。皆の同意を得た事で、宰相が再び声を上げる。
「それでは、選定の儀を始めます。先ずは右方、第三血統カヌバム!」
「はい!」
名前を呼ばれたカヌバムは、深緑色をしたストレートの髪を靡かせながら、自身の作品の入った箱へと歩みを進める。動き出した彼を見て、傍聴席の前方に座るドワーフ達が大きく騒めきを上げた。
「身の程知らずの第三血統め。恥知らずもいい所だ」
「全くだ。第一血統の中でも高位に属する、グラフォイド家の跡取りの婚姻に待ったをかけるなんてな!」
彼らは次々とカヌバムへの非難を口にしていく。聞いていて気持ちの良いものでは無いが、この事には俺も少しイラついているので同意したくなる。