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Day 1 彼女の葬儀

 どれだけ喚こうが美香は戻ってこない。美香の遺体は僕の圃場から葬儀場へと運ばれた。


 彼女は僕の家に住んでいた。彼女の両親は二人とも白血病で他界していた。彼女が同じ病気で亡くなったことに、僕はやり場のなさを感じた。心の準備はできていなかった。分かっていても早すぎた。


 美香が死んだなんて理解できない。僕は彼女の好きなリンドウを自室に飾る。リンドウが必要だ。リンドウさえあれば、彼女が目を覚ますと思った。彼女の命を永遠のものにしたい。冷たくなった肌を確かめた。顔に白い布もかけた。だが、認めない。線香が焚かれている。美香にそんなことをするな! 美香はまだ、あっちには逝かない。僕を置いていくわけがない。


 フラワーセッティングは、業者に頼まずに僕がやった。遺影の周りはすべてリンドウで埋め尽くした。


 手伝いに来てくれた僕の母は「ほかの花も入れてあげたらどうかしら?」とおせっかいを焼いたが、「リンドウさえあればいいんだ」と僕は突っぱねた。


「少しは落ち着いて。ねえ。あなたも早く喪服に着替えて」


「僕の喪服はこれです」


「青はやめときなさいって。それか、せめて紺にしたら」


 僕は青いスーツのまま葬儀をはじめることになった。


 お経が読まれる。


 焼香のとき、ふと祭壇いっぱいのリンドウを見上げる。リンドウだけの葬式は異様な光景だっただろう。といっても、美香の親族は誰一人来なかった。


〈ずっと傍にいてくれるの?〉


 僕はリンドウから美香の声を聞いた気がする。


 僕は頷く。離れるわけがないよ。


 棺をリンドウでいっぱいにした。彼女の青白い顔がさらに青くなる。美香はこれから焼かれてしまう。彼女ともっと分かり合いたかった。


〈私、これから灰になるの?〉


「美香。やっぱり耐えられそうにない」


 僕はリンドウに語りかける。彼女は美しい、美香と共にある。美香とリンドウが焼かれて一つに交じり合う。そう思うと胸が張り裂けそうだ。美香に青い花をまとわせるんだ。死してなお、美香は美しくなるんだ!


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