4/8
Day 4 彼女の幻聴
「黙れ！ 黙れ、黙れ、黙れ！」
リカ、ナナ、マナ、ヒナ、ハナ、ミチ、みんな黙れ！
リンドウがざわめく。どれも彼女ではない。アトリエはリンドウで埋め尽くされた。僕は天井まで伸びたリンドウに唖然とする。仏壇のリンドウ。ベランダのリンドウ。どれが僕の彼女なのか分からない。
〈私が美香〉
〈いいえ、私が美香〉
〈黙ってよく聞いて。私があなたの美香〉
リンドウはどれもこれも美香とは違う！
リンドウの鉢から横にも縦にも伸びたリンドウ。僕のリンドウは蔦を伸ばし続ける。リンドウにそんな性質はないはずだ。だが、僕はリンドウが部屋を侵食していくことに快感を覚える。本棚、食器棚も捨ててしまってあっけらかんとなった部屋のすべてを、リンドウにくれてやる。唯一残していた僕のベッド。仕方がない。くれてやる。
僕はリンドウに支配された部屋で凍りついた。視線を感じる。リンドウから。仏壇の切り花のリンドウだ。茎は曲がり、群青色の美しい花を咲かせている。蔓が伸びてきて覗き込む僕の顔を撫でた。いくつもの花が僕に近づいてくる。
その真っ青な花びらは魅力的で唇を押し当てると柔らかい弾力で返してきた。間違いない！ リンドウの花びらは彼女の唇なんだ。美香だ！ 美香は死んでなんかいない！ リンドウなんだ！ リンドウは意志を持っている！ 僕のことを思ってくれている！ 僕は一人になったのではない！
