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6 第3隊の新人隊員たち

 支部施設裏門付近の林の中


 裏門の近くにたどり着いたマナサは、林の木々の間から近衛兵の様子を窺った。

 マナサの予想に反して、裏口付近にいる近衛兵は施設に侵入しようとしているようには見えなかった。

 それどころか、裏口の扉を塞ぐように岩を積み上げて、扉が開かないようにしているようだった。


 マナサはこの状況を思案していた。

 ……裏口から侵入しようとしているんじゃないの?

 中にいる隊員が外に出られないようにしている。隊員の退路を塞いでいる。

 これは……正面から侵入して、施設内で戦おうとしている?

 それだと、我々の方が優位に立てる……

 あのセシルがそんな策を講じるとは思えない。

 一体、何をしようとしているの……


「隊長。全員、無事に移動を完了しました。」

 マナサが考えを巡らせていると、後ろに控えていた隊員が報告した。


「そう、了解したわ。

 私が指示を出すまで、相手に気づかれないように、細心の注意を払って待機しているように伝えて。」


「はい、伝えます。」


 マナサは裏口の近衛兵をじっと見据えていた。


 ◇


 支部施設裏門付近の林の中(マナサの小隊の後方)


 支部の裏門近くに移動したマナサの小隊の後方に陣を構えた、モハンと新人隊員8名。

 アシュウィン以外の新人隊員は、皆緊張した面持ちで、中には小刻みに震えている者もいた。


「お前ら、ちびるんじゃないぞっ!

 しっかし、ここにいる新人は千差万別だな。

 医者の卵やら、隊長と妙に親しい奴やら……

 しっかり頼むぞ。」

 モハンは新人隊員を和ませようとしたが、アシュウィン以外の新人隊員は緊張の極致に達していた。


「みんな、平常心だ。冷静さを無くした者は生き残れないぞ。」

 アシュウィンは他の新人隊員を励ました。


「うん、そうだね。でも、君だって初めての戦闘だろ?

 こ、怖くないのかい?」

 震えている隊員がアシュウィンに聞いた。


「そりゃ怖いよ。命を落とすかも知れないんだ。

 でも、俺達にはこの国と人民を救うという馬鹿でかい目標があるだろ?

 そのために出来ることをやる。そのためにここにいるんだ。

 ……君はどうしてラーマの麒麟に入隊したんだ?」


「僕?僕は以前、シーラ副官に家族を救われた。それがきっかけで入隊したんだ。」


「シーラさんに?」アシュウィンはシーラの優しい笑顔を思い浮かべていた。


「うん。僕の両親は、市場で野菜を仕入れて、街道沿いで売っているんだ。

 入隊前、僕はラーマの麒麟と近衛兵団との紛争には関心がなかった。

 と言うより、正直なところ、どっちがどうなろうが、自分たちの生活が変わる訳がないと思っていた。」


「……だよな。

 自分たちは蚊帳の外っていうか、自分たちには無関係なところで争いや戦いが起きている。

 とばっちりを受けるにしても、恩恵を受けることは無い。

 どっちが勝とうが負けようが。

 湧き上がってくるのは虚しさだけ……

 そんな感じかい?」


「うん。君も同じように考えていた?」


「いや、俺は、近衛兵団が支配している今のこの国の状況は最低だと思っていた。

 だから、近衛兵団が解体されれば、その後のこの国は良くなって行くしかない。上がって行くだけ。

 漠然とそう考えていた……

 それで、君の入隊のきっかけの話は?」


「……そうだった。

 ある日、両親がいつものように街道沿いで野菜を売っていると、3人の近衛兵がやって来たんだ。

 ちょうどその時、僕も両親の手伝いをしていたんだけど……

『いらっしゃいませ。新鮮な野菜ですよ。』

『オヤジ、勘違いするな。俺たちは客じゃない。

 お前たち、ここで商売をする許可を取っているのか?』

『えっ?許可ですか?取っていません。

 ずっとこの街道沿いで商売をしていましたし、許可が必要だなんて聞いたことがありません。

 何かの間違いじゃありませんか?』

『……俺が言っているんだ、間違いじゃない。

 今から許可が必要なんだよっ!』

『そんな無茶な……』

『無茶なことなんてないだろう?

 使用料を払えばすぐに許可してやる。今回は特別だぞ。』

『使用料はおいくらですか?』

『そうだな、5000でどうだ?』

『そんな大金、ありません。どうか勘弁してください。』

『無いだと?ふざけるなっ!

 街道沿いで勝手に商売しやがって!

 無断でこんな腐りかけの野菜を売るとは許さんっ!』

 そう言って、近衛兵たちは広げてあった野菜を足で踏み潰し始めたんだ。

 父親は反射的に抵抗して、思わず近衛兵の足にしがみついてしまった。

『やめてくださいっ!やめろっ!』

『貴様っ!反抗するのか?俺に反抗するのは、王府に反抗することと同じだぞ。

 その覚悟は出来ているんだろうな?』

 近衛兵はそう言うと、腰に差していた剣を抜いた。

『お許しくださいっ!この馬鹿な夫をお許しくださいっ!』

 そう言って、母親は額を地面にこすり付けながら必死に土下座していた。

 それでも近衛兵の怒りは収まらないようで、母親を足蹴にすると父親に斬りかかってきたんだ。

 僕は、全身が固まってしまって、唖然としているしかなかった。父親が斬られようとしているのに。

 自分の意気地の無さと非力さがほとほと嫌になった。」


「そんな状況では、誰だってどうする事も出来ないよ。」


「その時、僕が気づかないうちに、シーラ副官が僕の隣に立っていたんだ。

『罪もない市民に対して剣を抜くなんて、絶対に許さないわっ!』

 シーラ副官はそう言って、右手の人差し指と中指、そして薬指の3本の指を立てて、曲げた小指を親指で抑えた型の印を結ぶと、『オンバサラユタ』とマントラを唱えて、3本の指を立てたまま、その手を近衛兵の方に向けたんだ。

 そうしたら、びっくりしたよ。

 目に見えない衝撃波が走って、近衛兵たちが吹き飛んでしまった。」

 新人隊員は嬉しそうにその時のシーラの印の型をまねして見せた。


「シーラさん凄いな。スカッとする。」アシュウィンは感心した。


「そして、副官の攻撃に恐れをなした近衛兵たちはホウホウの体で逃げて行ったよ。

 まさに正義のヒロインに会ったような気持だった。

 副官は両親を心配して、『大丈夫ですか?立ち上がれますか?』と声を掛けてくれた。

 そして、両親に手を貸して、優しく引き起こしてくれた。

 僕たち家族3人は、感謝と安堵で涙を流しながら、副官に何度もお礼を言った。

 副官は優しくうなずくと馬にまたがって、他の隊員と共に去って行った。

 ……僕はそれがきっかけで入隊する決心を固めた。」


「そうか。シーラ副官のためにも、しっかり任務を遂行しようぜっ!」


「うん、僕もできることをやる。平常心、平常心。」


「その調子だ。お互い、必ず生きて帰ろう!」

 アシュウィンは隊員の肩を軽く叩いた。


「僕の名前はタクシ。よろしく。」


「俺はアシュウィンだ。よろしくなっ!」


 2人は軽く拳を合わせた。


 アシュウィンとタクシのやり取りを横で聞いていたモハンは、張り詰めた空気の中で顔をほころばせていた。


 ◇


 支部施設裏門


 近衛兵団第4師団兵士長レヤンの小隊30名は建物の裏口に陣取っていた。

 裏口から突入しようとしている訳ではない。

 師団長セシルの命令通り、裏の林の中から探し出してきた岩を裏口の扉の前に積み上げていた。


「どうだ?積み上がったか?」

 レヤンは部下に進捗状況を確認した。


「はい。がっしりと岩を積みました。簡単には扉は開きません。」

 額に汗を浮かばせた兵士が答えた。


「よし、ご苦労。」

 これで、ちょっとやそっとで扉を開くことは出来ないはずだ。あいつらの逃げ道は塞いだ。

 それにしても、これが俺の仕事か?俺の出番はこれで終わりか?

 腕が鳴るのに活躍の場が無いじゃないか。こんな仕事はビハーンにやらせればいいんだ。

 兵士長のレヤンは不満を漏らしていた。


 ◇


 支部施設正面


「ようし、もう一押しだっ!」兵士長のビハーンは正面の扉の前で叫んだ。


 それを見ていたセシルは不敵な笑みを浮かべた。

「よしよし、ここからは一気呵成に行くよ!

 峡谷の一件でインジゴにも大怪我を負わせたし、今が反逆者を叩き潰すチャンスだ。

 まあ、私だったらインジゴを確実に仕留めているけどね。

 ……ったく、ハンスは詰めが甘いんだよ、上官のくせに。

 マナサ、近くにいるんだろう?

 さあ、いい子だから出ておいで。

 苦しみながら死なせてあげるわ。」


 正面の扉は、すでにちょうつがいが外れて扉の機能を失っていた。

 次の瞬間、「ドガンッ!!」と轟音を立てて、扉が建物の内側へ倒れ込んだ。

 と同時に、地面が揺れ、砂埃が舞い上がった。


「よーし、踏み込めっ!」ビハーンは剣を振りかざして命令した。


 扉の前にいた兵士は、恐怖心を打ち消すために叫び声をあげながら、勢いに任せてイシャンが待ち構えている施設の中になだれ込んで行った。

「うおぉーっ!反逆者どもっ!覚悟しろっ!」


応援コメントなどを頂けると、とても励みになります。


よろしくお願いいたします。

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