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「大きな家ですね」
大きくて綺麗な一軒家だ。周りの家と比較すると際立っていて、思わず見入ってしまう。
「ああ、両親が大枚を叩いて建てたらしい。遠慮せず入ってくれ。妹には軽く事情を伝えてある」
そう言われ虎助の後について、引き戸になっている玄関から入る。
「お邪魔しまーす」
中に入ると最初に玄関にある小さめの下駄箱が目に入る。玄関を上がって少し離れた場所に2階への階段があり、階段と隣り合っている廊下は奥の方まで続いている。それに面していくつもの戸襖があった。
下駄を脱ごうとしてウリ坊がいることを思い出す。見ると玄関の中までついてきている。
「すみません、この子は外にいてもらったほうがいいですよね」
他人の家に動物を連れていくのは初めてだったが、いきなり猪が家の中に入ったら迷惑だろう。ウリ坊を抱いて外へ出そうとするが、抵抗される。
「連れなんだろ? なら入ってもいいさ。布を持ってくるから少しそこにいてくれ」
「フンッ!」
ウリ坊が勝ち誇ったように鼻を鳴らす。腑に落ちないが家主がそう言うのだから良いのだろう。
しばらくすると、虎助が湿った布を持って戻ってきた。
「これで足と身体を拭いてから上がってくれ」
俺はウリ坊の足と身体を丁寧に拭く。そのあいだウリ坊は大人しくしていた。
階段から足音がする。誰かが降りてくるようだ。
「おかえりなさい。その子がお客さん?」
穏やかな雰囲気の綺麗な女性だ。恐らく虎助の妹だろう。
「ああ。あとこの猪も連れだそうだ」
「初めまして。先生という方が帰ってこられるまでお世話になります。大沢瑞生といいます。この子は……猪のウリといいます。」
連れだと言っているのに名前がないのも変な気がしたので、今名付けた。ウリのほうを見るとなんだか不満気だが、小突いてきたりはしてないのでまあいいだろう。
「まあ、かわいいお客さんね。私は虎助の妹のコハク。何もない家だけどゆっくりしていってね」
「はい! ありがとうございます! よろしくお願いします!」
「コハク、部屋まで案内してやってくれ。俺はもう少し用事があるから出かける」
「わかったわ、いってらっしゃい。……さあ、瑞生ちゃんにウリちゃん、部屋に案内するからついて来て」
「はい!」
そう言ってウリを抱き上げ、コハクさんについていく。
廊下を少し進むと、1つの戸襖の前でコハクさんは止まった。
「この部屋を使ってちょうだい。厠はここよ」
そう言って向かいの扉を指さす。そこには使用可と書かれた木板が吊るされていた。
「使うときは木札を裏返してね。昼餉の前には呼びに来るわ。疲れてるでしょうからそれまでは自由に休んでいて」
「本当に何から何までありがとうございます。」
「いいのよ。それじゃあまた後でね」
そう言うとコハクさんは戻っていった。