6
第1部分〜第7部分まで、改行等の改稿をしました。
「すまない、待たせてしまったな」
1時間ほど経っただろうか。男が戻ってきた。
「トウキョウもケンも知ってるやつはいなかった。ところでトウキョウってところからここまではどうやって来たんだ? ……まさかとは思うがあの森の向こうから来たのか?」
「森の向こうかはわからないですが、いつの間にか森の中にいました。そのあと気付いたらここで寝ていたんです。曖昧ですみません。自分でも何が起こってるのかわからなくて……」
「いや、いいんだ。若いのに大変だったんだな」
そう言うと、男は大きい手で優しく頭を撫でてきた。
涙が溢れそうになる。
「ああ、いや、すまない。もうしないから泣かないでくれ」
「いえ、嫌なわけじゃないんです。昨日は森で1人だったので、少し安心して……」
慌てて距離を取る男が少し可笑しく笑みがこぼれる。
「それならよかった」
男は胸を撫で下ろした。
「そうだ。さっき言い忘れてたんだが、この集落で子供たちに勉学を教えている先生がいるんだ。街に用事があって何日か出かけてるようだが、彼なら何か知っているかもしれない」
「本当ですか!」
「確証は持てないがな」
そうだとしても希望が見えたことに変わりはない。
「あぁそうだ、この集落には宿屋がないから、嬢ちゃんさえよければ先生が帰ってくるまで俺の家にいればいい。妹と二人暮らしなんだが部屋が余っているんだ。綺麗な家ではないが野宿よりはマシだろ?」
今度は本当に涙が溢れてしまった。
「本当に、何から何までありがとうございます。この御恩は必ずお返します」
「そんな恩義なんて感じなくていいさ。賑やかになってきっと妹も喜ぶ」
「そんなふうに言ってくれてありがとうございます。ぜひお邪魔させてください!」
俺は涙をこぼしながらも今できる精一杯の笑顔を作った。
◇
男の案内に従ってついていく。この集落では農業が盛んに行われているようだった。
「農業が盛んなんですね」
つい口から溢れてしまう。
「そうだな。ここの住人の殆どが農家だ。育てた作物を物々交換したり、余ったら町に売りに行ったりしてる」
彼も農家なのか聞こうとしたが、こんなに親切にしてもらっているのに、自己紹介もしていないことに気付いた。
「あの、今更ですけど、お……私は大沢瑞生といいます。改めてよろしくお願いします!」
俺、と言いかけたが、この姿なので言い直す。
「俺は虎を助けると書いて虎助だ。家名はない。好きなように呼んでくれ」
「はい。では虎助さんと呼ばせてもらいます」
「それと、無理しなくてもいいぞ。さっき俺と言っていただろう?」
気付いてない間に言っていたらしい。顔が熱くなる。
「いえ、無理してないし言ってないです。私は私です」
認めたら普段通りに話せると思いながらも、恥ずかしさから変な意地を張ってしまう。
「そうか。それならいいんだが」
虎助は全く気にしていない様子だった。
そのようなやりとりをしてる間に到着したようだ。彼が農家なのかは結局聞きそびれてしまった。