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「動物の糞しかないじゃん」

 どのくらい探索しただろうか。体感2時間ほどは経っているような気がする。

 着物に下駄という森に合わない格好だが、身体が慣れているのか案外動きやすいのが救いだ。

 しかし見つかるのは動物の糞ばかりで一向に人の痕跡は見つからない。

 もしかするとここは人がほとんど立ち入らない場所なのかもしれない。

 よくよく考えれば封印するなどと言っていた男たちだ。親切に人の通る場所に捨てるとも思えない。きっと彼らは人の通らない森に捨てることを封印すると言っていたのだろう。

 しかし動物がたくさんいるということは川のような大きな水場があるはずだ。川があれば流れに沿って歩くだけで人がいる場所に抜けられるだろう。

 とにかくここから抜け出すきっかけになるものを見つけたい。その一心で引き続き探索を進めた。



(やばいやばい)

 俺は焦っていた。太陽は傾き、辺りはだんだん暗くなってきている。だというのに何の手がかりも得られていない。

 正直1日あればなんとかなると高を括っていた。昨晩のことを思い出し身震いする。このままではまたあの暗い夜を過ごさないといけない。

 妖の身体のおかげなのか、腹は減っていないし喉も乾いていない。さらに1日中歩き回っていたにも関わらず、ほとんど汗をかいていない。

 飢え死ぬことがなさそうなのは嬉しい誤算だ。しかしだからといって危険な獣がいるこの場所で、何日も夜を過ごすのは精神がもたない。

 途方に暮れていたちょうどその時、薄暗くなった視界の奥に微かな灯が見えた。それは獣の目ではなく、家の灯りのように見える。

 考えるより先に足が動いていた。

(あそこまで行けばきっと人がいる! 走れば暗くなりきる前にたどり着くかも!)

 最初は早歩きだったが気がつけば走っていた。身体は軽く、息が上がる気配はない。このペースで走れば暗くなりきる前にあの灯りにたどり着くだろう。

 しかしそう上手くもいかないらしい。前方から唸り声が聞こえ、同時に木陰から大きな野犬が姿を現した。驚いて足が止まる。

 確認できる数は4匹。1匹なら強行突破を選んだかもしれないがこれだけいると厳しいだろう。

 しかし不思議と恐怖はない。どうやって野犬を撒いて灯りの元まで辿り着こうか、そう考えるくらいには冷静だった。

 視線を逸らさず木のある場所まで下がる。幸い後ろに野犬はいないようだった。ゆっくりと木の影に入りながら足元に落ちている石を拾う。そして少し遠くの木へ思いきり投げた。

ガンッ

ガサガサ

 運良く木に当たり、さらにその木の周辺に動物がいたようだ。4匹のうち3匹はそちらへ興味が移ったようで、動物の音を追いかけてどこかへ行った。

 問題は残った1匹だが、1対1ならどうにかなるだろう。石を拾って走る。同時に野犬も飛びかかってくるが、予想していたのでぎりぎりで避けることができた。すぐに振り向き野犬目掛けて思い切り石を投げる。

「キャインッ」

 石は野犬の足に当たったようで、痛そうに飛び跳ねている。

(ごめん。襲ってきたのはそっちなんだから許して)

 一息つき再び走り出そうとしたときだった。

 もう1匹いたのか、先程どこかへ行ったうちの1匹が戻ってきたのかわからないが、木の影から野犬が飛びかかってきた。

 不意をつかれたが奇跡的に避ける。だが避けた先に木の根があり、つまづいて転んでしまう。さらに運のないことに、転んだ先には地面がなかった。

 一瞬の浮遊感といくつかの衝撃。そして最後に強い衝撃が走り、俺の意識は途絶えた。

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