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夢を見ている。朝起きて学校へ行き退屈な授業を受け、帰りに友人の家で菓子を食べながらながら対戦ゲームをする。
ごくありふれた日常の一コマだったが、これは夢だという確信があった。
先程まで見ていた非現実的な光景。自身が少女のような姿になり怪しい男たちに封印される。
もし今過去に行き、自分自身に忠告できたとしても、過去の自分は鼻で笑うだろう。それほどまでに馬鹿げた話だ。
だが妖が出てくる時に感じた痛みと不快感。そして怪しい男たちが放った光の刺すような痛み。あれらは夢ではなかったと断言できる。
現実はどうなっているだろう。
両親は心配しているだろうか。弟は寂しがっていないだろうか。大規模な捜索はされないと良いなと思う。きっとこれは現代の科学で見つけられるものではないから。
夢の中でゲームをしてる最中、この夢はいつまで続くのだろうとふと思った。
いつ解かれるのかわからないが、封印が解かれるまで永遠に続くのだろうか。それとも封印されていても意識は覚醒するのだろうか。
もしこのまま日常が繰り返されるのであれば、悪くないと思った。何もない空間に1人でいるよりよっぽどマシだ。
暗くなってきたので対戦ゲームを終え、家に帰ろうと立ち上がる。礼を言おうと友人の方を見て固まった。
友人の姿は歪み、怪しい男の1人に変わる。驚いて逃げ出したが逃げた先にはもう1人の男がいた。
恐ろしくなりその場でうずくまってしまう。
「どうしたんだ?」
夢だ……
「どうして逃げるんだ?」
これは夢だ……
「逃げ道なんてありはしないのに。」
こんな夢を見せられるくらいなら、何もない場所に1人でいるほうがマシだ……
「貴様は妖なのだから封印されて当然だろう?」
違和感を覚えて自身の身体を見ると少女の姿になっていた。
「命があるだけありがたく思うことだ。」
男はそう言うとあの時の光を発した。
刺すような痛みを思い出し思わず身構えたが、その痛みが来ることはなかった。
◇
意識が覚醒する。
辺りを見回すが真っ暗で何も見えない。ここが封印されている場所なのだろう。
自身の格好を確認する。暗くて見えないが服の手触りや髪の長さ、胸の圧迫感からして恐らく少女の姿だろう。
驚くほど冷静な自分に少し可笑しくなる。もしかしたら心の奥ではまだ夢の中にいるような感覚で、ふとした拍子に目が覚めると思っているのかもしれない。あれが現実だということは痛感しているにも関わらず。
それにしても嫌な夢だった。夢だとわかっていたのにあの2人組が恐ろしく、身動きが取れなかった自分が情けない。
地面に体育座りをして呆然としていると獣の唸り声のようなものが聞こえてきた。どうやらこの場所は獣も出るようである。
なんて場所に封印するんだと思いながらも特にすることがないので引き続き呆然としている。
しばらく呆然としていると暗闇の中に光を見つけた。出口かと思い近付こうとしたが、何か嫌な予感がして思いとどまる。
だんだんとその光ははっきりと見えるようになった。同時に自身の予感に感謝する。
恐らく唸り声の主だろう。徐々に大きくなるその目は、猪のような、見たことがないほど大きな獣のものだった。