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枷持ちと放ち手

狼獣人に勝手にご主人様認定されたので、仕方なく主しています

作者: と。/橘叶和

「さて、マスター、ご主人様、主様、後はそうですね…我が君、などでしょうか。我が放ち手殿はどう呼ばれるのがお好みでしょう?」



 大男に往来でいきなりそう言われて、脇目も振らず逃げた私は正しい。正しかった筈だ。勿論、枷持ちから逃げきれる脚力も魔力もなかったのだけれど。


―――


 この世界には枷持ちと呼ばれる生き物が存在する。教会の見解としてはあまりに強い力を持った生き物であるが故に、神が枷を嵌めて力を抑制した状態で世に生み出すという彼らは抑制されていても枷持ちでない生き物とは一線を画す。それは獣、魚、鳥、人間、獣人、人魚どの生き物にも現れる。そして。



「主様、ギルドから催促が」

「それは放っておいて良いものですか」

「駄目なものですね、もたもたしていると村が一つ無くなりますよ」

「何でそんなに重要なやつばかりこちらに回してくるんです…!」

「この街にいるギルドメンバーの中では我々がトップですからねえ」



 散歩に行く前の犬のように尻尾をぱたぱたと揺らしながらさっさと行くぞと圧をかけてくるこの狼の獣人は、涼し気な外見と丁寧な言葉使いの割にかなり好戦的なのである。他の枷持ちもそう変わらないそうであるが、自身の傍でそれを見せられるのとそうでないのはまた別なのだ。ギルドトップなんて重責と共に与えられた屋敷でふんぞり返ることもできない凡庸な私には、その片鱗を感じることも本当は苦痛なのだ。



「トップの理由はエヴァンさんが優秀でいらっしゃるからですね」

「仕えている方にそう評価して頂くのは嬉しいものですね」

「そんなエヴァンさんですから、放ち手ももっと優秀な」

「時間が惜しいのですが、主様はもしや村くらい一つ減っても良いとお考えで」

「…行きます」

「それが良いかと」



 こうやって今日も今日とて従僕(笑)にせっつかれて仕事に出る。詳しくは聞いていないが、聞く必要もないのだろう。村一つ潰してしまいそうなモンスターであってもきっとエヴァンにかかれば子猫より愛らしいのだ。事前に説明がないということはその程度なのだと、最近やっと理解してきた。…今日はお休みのはずだったのだけれど。



 この世界には枷持ちと呼ばれる生き物が存在する。教会の見解としてはあまりに強い力を持った生き物であるが故に、神が枷を嵌めて力を抑制した状態で世に生み出すという彼らは抑制されていても枷持ちでない生き物とは一線を画す。それは獣、魚、鳥、人間、獣人、人魚どの生き物にも現れる。


 そしてその制御を外す生き物も存在する。それを放ち手と言い、枷持ち同様どの種族にも現れる。と、いうか枷持ち以外は全て放ち手だ。ただし枷持ちとの相性や力の差などでその制御を外せないことも多い。それ故に放ち手とは枷持ちのパートナーを持ちその枷を外せて初めて放ち手と呼ばれるのだ。モンスターではないただの野生動物が枷持ちと放ち手でタッグを組んでしまい、下手な災害よりも甚大な被害を出してしまう痛ましい事件も年に数回は起きる。それらの問題に対処できるのは枷持ちと放ち手のみだ。


 枷持ちと放ち手のパートナー契約は基本的に主従契約になる。枷持ちはあまりに強い力を持つが故に、それを際限なく言われるがまま放ち手が制御を外し続ければ国の転覆すら容易い。本当にそんなことになれば他の枷持ちたちも黙ってはいないだろうが、基本の契約では放ち手が主となり従僕である枷持ちの制御を行うことがどの国でも義務付けられている。


 枷持ちは枷を外さずとも優秀である。魔力体力知力のどれもが枷持ちでない人々とは一線を画す。勿論、枷持ちでなくとも一部の専門分野であればそれを凌駕することもあるが生まれ持った元々の能力で勝つことはほぼできない。一部の枷持ちはそんな人々の中から主人を選ばなければならないことを嫌い、放ち手を探しもしない人や放ち手を持つ枷持ちを悪く言う人もいる。また政治的な意味合いで王族や高位貴族の中で枷持ちが生まれても放ち手を公式に持つことは許されていない。



 行きますと言った瞬間にひょいと抱えられて、あっという間に連れて来られた街の南にある深い森に目的のモンスターがいたようだった。蔦が絡まったようにうぞうぞ動いているそれらは単体ではそこまで害のないものだったように思う。(学校で習った気がするけど忘れてしまった)けれどあんまりにも数が多い。気持ち悪い。しかもうぞうぞ移動しているモンスターの這った後には紫色のいかにも毒です、といったような粘液がべったりと付いていて小さな草花を溶かしていた。



「エヴァンさん、エヴァンさーん。枷外さなくてもいいなら、私帰ってもいいですかー?」

「あはは、駄目に決まってますよねー?」

「…はーい」



 モンスターは木の上には来られないようで、私はぽんと高い木の太い枝に座らされてエヴァンのモンスター駆除を見学している。火で燃やしたり氷づけにして砕いたりしている狼の獣人は、新しい玩具を与えられた子犬のように楽し気にやっぱり尻尾を振りながら黙々とモンスターを駆除し続けている。数が多いので面倒そうではあるが、枷を外すほどでもない。つまり私がやることはない。あんまりにも暇なので鳥とかいないかなとよそ見をすると「主様」と呼ばれてしまった。彼は私が視線を外すことを嫌う。モンスターに向き合っている筈なのに後ろに目でも付いているのか。


 放ち手と枷持ちが離れて行動することは確かにあまり推奨されていない。放ち手が危険であるからだ。枷持ちの中で放ち手を良く思わない者、自身の放ち手にしようとする者、放ち手を誘拐して枷持ちを脅そうとする者などなど。昔からそういう者たちは後を絶たない。けれどそれにも限度があるので、一般的には同じ街にいるくらいなら個別に行動することもある。四六時中一緒にいることなんてない、現実的でもない。けれど。



「終わりましたよ、綺麗にして頂けますか」

「あ、はい」



 ぼんやりしながら眺めていると駆除はもう終了したようだった。この程度なら他のギルドメンバーでも対応できたのではないだろうか、今日はお休みだったのに。そんなことを思いながら浄化魔法をかける。さほど汚れてもいなかったけれど、エヴァンは綺麗好きなのかどんな些細な仕事であっても終わったら浄化魔法をかけるよう言ってきた。別に困ることでもないし清潔なのは良いことなので言われるままに毎回かけている。



「ギルドに寄って買い物もして帰りましょうか、夕食は肉が良いです」

「…た、食べてきていいですよ、私は家で」

「では久しぶりにライリーさんのレストランに行きましょうか、予約を入れておきましょう。二人分」

「はい…」



 高い木から私を降ろしつつそのまま抱き上げたエヴァンは、伝書鳥を召喚して街の方に放った。多分レストランの予約である。



「何か足りなくなった物はありましたか? …トイレットペーパー?」

「めちゃくちゃ在庫あるので大丈夫です。特に買う物は…」

「もうすぐ冬になりますし、防寒着でも買いに行きましょうか。主様の」

「コート前買ったじゃないですか、去年のもあるし」

「あれじゃ足りません」

「足りますから」



 放ち手と枷持ちが四六時中一緒にいることなんてない、現実的でもない。けれど私の枷持ちは私のことを生まれたての目も開かない子犬か何かだと思っているらしく、片時も傍から離れない。


―――


『さて、マスター、ご主人様、主様、後はそうですね…我が君、などでしょうか。我が放ち手殿はどう呼ばれるのがお好みでしょう?』



 三年前、当時大学校の卒業を控えた私は職を探すためにこの街にやって来ていた。王都の次に大きなこの街には職が多く、ギルド登録する者や職人に弟子入りする者、公的機関の仕官試験を受ける者などで賑わっていた。学友たちは皆もう職を決めてしまっていて雇い主がどうだとか、研修が始まってしんどいだとか言っていたがその会話に入れないのは辛かったし焦ってもいた。できれば卒業前に仕事を決めておきたかった。


 どうしても決まらない者はギルド登録しながら職を探し続けるのが主流である。しかし私は補助や回復魔法は使えても、子どもでも使えるような攻撃魔法も碌に使えなかったので、ギルド登録をしても貰えるクエストの範囲が狭いのだ。親兄弟はいないので頼れも相談もできない。いや、いないと言えば語弊はある、いるにはいる。ただ物が分かるようになってから会ったことがないので、本当に存在しているのか分からなくなる時がある。


 私の母親は鳥の獣人で枷持ちで父はその放ち手である、らしい。(私には獣の特性は現れなかった)優秀な二人は国中を飛び回る必要があるらしく、教会に一定の金額を渡し私を預けて育てた。忘れた頃に手紙が来るので、生きてはいるらしい。会ったことはないが。子どもの頃はそれで思い悩まされたこともあったが、何にせよお金に困ったこともなくその教会には私のような子どもが他にもいたのでそんなものかとも思いながら生きていた。とは言え、学校を卒業する以上これまで通り親の脛を齧り続ける訳にもいかない。


 本当は補助魔法の研究で学校に残りたい思っていた。けれど私の研究は全て決定打に欠けていた。何に役立つのか、どう活用するのか、現行のそれと何が違うのかが分からない研究に資金はでない。ただしたいから研究する、なんて子どもの自由研究でないのだから出来るはずもない。せめて薬学と回復魔法の研究にしていれば、とも思ったけれどそれらを研究している学者はもう既にたくさんいる。飛びぬけて優秀でもない枷持ちでもない一学生が入り込める学問でもなかった。


 大人になるのって辛い。そんな学生最後ならではの悩みを抱えつつ、その日も求人票を見比べながらああでもないこうでもないと一人小さくぶつぶつ言いながら大通りを歩いていた。



『ううん、ブラックじゃなさそうで、きちんと休みがあって、飲みニケーションが少なそうでできれば肉体労働じゃなくてって言いだしたらきりがないし。でもセキュリティ対策の部屋が問題なく借りれるくらいのお給料は欲しいし、良さげな求人はもう閉まっちゃってるし。先に王都の求人見てたからかなあ…出遅れた感がすごい…』

『お嬢さん』

『肉体労働はやっぱり給料がいいなあ、最終補助魔法を使えばできないこともないしなあ…。でもそれを言うならギルド登録しながら良い求人がでるのを待っても…』

『お嬢さん、これを落としましたよ』

『えわ!?』

『おや、失礼』



 集中していたから初めは声をかけられていることに気が付かなかった。振り向くと見上げなければいけないくらいの長身の美丈夫が立っていて、それにも酷く驚いた。彼は私が持っていた求人票の一枚を持ちながらにこりと笑った。



『あ、わ、す、すみません、ありがとうございます』

『いえいえ、後、貴女のようなお嬢さんを採用する肉体労働系の職種はない筈ですから思い直された方がよろしいですよ』

『あ、あはは、そ、そうですよねえ…』

『ああ、またこれは失礼。私は獣人ですので、耳が良くて。そちらも気を付けられた方が良いかと』

『御忠告痛み入ります…』



 こんな大きな街だ、肉体労働にはそれに従事するに相応しい人も多い。つまりわざわざ私のようなのを雇う必要はない。また獣人は五感が鋭く、人通りの多い場所での独り言なんて聞いてくれと言っているようなものだ。言われていることは至極真っ当でそれに反抗するような気概も幼さもない私は、けれど最近の不採用続きの就活に疲れ果てていたのか泣きそうになるのを何とか堪えてへらりと笑い求人票を受取ろうとした。けれど美丈夫は求人票を親指でぐっと掴んで離さない。まだ何かあるのか、さすがに泣くぞこの往来でと言えもしない脅迫を心の中でだけしてもう一度彼を見上げた。



『あの』

『…』

『あの、ええと、手を離して頂いてもよろしいでしょうか』

『…確認ですが、貴女は枷持ちではありませんね?』

『え、ええ、違いますが…』

『ふむ』



 美丈夫は求人票を離さずじっと私を見つめた。人通りの多い道であったから私たちを見ている人もちらほらいる。これは変な道への勧誘か? 夜の世界に沈められるのか? いや私みたいなちんちくりんをわざわざそんな所に連れて行く人なんていないだろう。…いや、逃げた方がいいかな。変な人なのかもしれない。美人だけど。



『さて、マスター、ご主人様、主様、後はそうですね…我が君、などでしょうか。我が放ち手殿はどう呼ばれるのがお好みでしょう?』



 変な人だった。



『あ』



 変質者には構うな。これは世界の約束である。言葉を交わすのもいけない、既に交わしてしまった場合は仕方がないものとして一目散に逃げるべし。足に補助魔法をかけて人をかき分け街の端まで一気に走り抜けた。ちゃんと勉強していて良かった。立ち向かう必要はない、逃げるが勝ちなのである。



『び、びっくりした、大きい街怖い、やっぱり田舎の方に行こうかなあ…』

『私はどこでも構いませんが、この街もほどほどに物流も安定しておりますし不便もそうないと思われますよ』

『ひ』

『ご主人様は補助魔法をかけるのがお得意なのですね、確かに肉体労働が出来ない訳でもなさそうだ』

『き』

『けれどそのあたりは今後、私が請け負いますよ。ご心配なく』

『きゃああああああ!』



 この後、私の叫び声に衛兵が来てくれたり、それをエヴァンが蹴散らそうとしたり。ご主人様は止めて下さいと泣いたり、知らん顔で主従契約をさせられたり、そのままギルド登録をさせられたりと色々あった。そして三年後今に至る。


―――


 ご主人様も主様もあまり変わらないなあ、と考えながらキラキラと光っている炭酸酒を一口含む。エヴァンは見るだけでお腹がはち切れそうなステーキをぺろりと平らげてしまってレストラン店主とワインについて何事か語っている。こういう教養が必要な会話にはあまり入れないので黙っているのが吉である。的外れなことを言ったとして二人が私を笑うことはないがどこで誰が聞いているか分からない、嗤われるのが好きな人間などいないのである。



「主様、食べ終わりましたか」

「本日の料理はお口に合いましたでしょうか?」

「ええ、とても美味しかったです」

「今度レシピを伺っても?」

「是非また食べに来てください」

「本職の方と張り合おうとしないで下さい」



 店主のライリーは熊の獣人であるから狼の獣人であるエヴァンより二回りくらいは大きい。横に。枷持ちであるエヴァンが負けることなどないのだが、視覚的に喧嘩を売って欲しい相手ではない。そもそも誰が相手でも喧嘩をしないで欲しい。お礼を言い、エヴァンの腕を引っ張って帰路につく。この街での飲食や買い物は全てギルドに請求が行くので現金はあまり持ち歩かない。それにしても外食後に私が美味しいと言った物を再現しようとしてくれるのは嬉しいが毎回これであるので困る。



「歩き疲れてはいませんか、主様。抱き上げて差し上げましょうか」

「結構です、むしろ歩きたいです」

「さようですか」



 エヴァンは私のことを子犬だと思っているので(単純に彼と比べて歩くのが遅いというのも多分にあるが)すぐに抱っこしていこうとする。仕事や緊急事態であれば仕方がないと諦めもつくが、平常時にそれは本当に止めて欲しいと何度も言っているがすぐに忘れるらしかった。そして決して手を離さない。初めは手首をがっちりと掴まれていたがあまりにも連行されている感が強かったので、羞恥心を捨て去って手をつなぐようにしている。



「今日は星が綺麗に見えますね」

「そうですね、寒くはありませんか」

「大丈夫です」



 穏やかに会話をしている内は兄がいればこんな感じなのかな、と思うこともある。けれど私は兄に手を引かれるような年ではないし、こんなに過保護な兄はいらない。大丈夫だと伝えたのに自分の上着を着せてくるような兄はいらない。ぶかぶか過ぎて萌え袖にもならない。拒否するとそれはそれで面倒だとこの三年で学んだのでしないけれど、微妙な気分になりながらひたすら歩く。そうこうしている内に屋敷にたどり着いた。二人きりしか住んでいないのに小さなアパートメントより大きく庭も広い、まだ馴染みの浅い我が家であるが住み心地はとても良い。


 家ではやっと少し自由にできる。お風呂を済ませて寝る前に読書したり庭を少し散歩したりするのは別に一人でも止められたりはしない。庭に出ていると尻尾を振りながら後から付いてくることもあるが。


 問題は、最近問題でもないのかもしれないと思ってしまっていることも問題なのだけれど、そのくらい自然に行われることのなので私が知らないだけで、放ち手と枷持ちの間では当然に行われることなのかもしれないのだが。長々と前置きをしてしまったけれど、問題は夜、何故か一緒に寝ることなのだ。


 初めは抵抗した。はちゃめちゃに拒否した。主従契約解除してやると泣きながら叫んだ。当時はエヴァンの借りていた高級ホテルの一室でそれをやったものだから、ホテルの人が飛んで来たのもいい思い出、ではないがそんなこともあった。けれどエヴァンは決して折れなかった。



『放ち手とは常に危機に晒されている存在だと思って下さい』

『見たところ主様は攻撃系の魔法は不得手のご様子』

『私もやっと見つけた放ち手をみすみす奪われる訳にもいかないのです』



 淡々としかし笑顔を崩さず絶対に一緒に寝ると言う大男を前に、私は無力だった。主従の主ってどっちだっけとくらくらしながら考えた。正直かなり怖かった。そして眠かった、初めは寝落ちだった。けれど一度寝てしまえば抵抗はかなり減ってしまった。別段エヴァンは変なことをする訳でもないし、自分が過剰に反応し過ぎなのではないかとも思う。そして今日も当然の顔をしてエヴァンは私のベッドに入ってくる。



「手足が冷えてしまっていますね、どうぞこちらへ」

「…」

「主様」

「…はい」



 無言の抵抗は無かったことにされるので時間稼ぎにもならない。もそもそと二人で寝るために買った大きなベッドの中を移動してエヴァンの腕の中に納まる。体温の高い彼に抱かれて眠るのは冬には非常に気持ちがいいのだ。最近寒くなってきたし良い季節になってきた。毛繕いをするように顔を舐められたり匂いを嗅がれたりするのもまあ、慣れてきた。狼獣人なのだからそこはまあ別に普通なのだろう、育ててくれた教会にも獣人はいたしこういうことをしたがる子もいた。そう毎回誤魔化しながら、眠気に集中する。



「明日は確か街の外周警備でしたよ」

「ああ…エヴァンさんの、好きなのですね…」

「ええ、単純に歩くのは好きですね」

「あれは、歩くとは…いわないんじゃ…」



 温かさと眠気に全ての意識を委ねる。でないと、寝るどころの話ではない。放ち手以外の価値を私に見出さない私の枷持ちは、非常に有能で顔が良く私にだけ優しい。こんな完璧な存在が常に傍にいるのだから何も感じない訳ではない。けれどどうしても、我々の関係にそういった感情を入れるのは色々と違う気がする。今日もそれに蓋をして瞼の裏の優しい暗闇に身を委ねた。



「…主様、ノーラ様、寝てしまわれましたか」



 ノーラは知らない。彼女が眠った後に彼女の従僕が恍惚とした表情を隠そうともせず顔やら耳やらを甘噛みしているのを、そして狼の生態を。彼女の従僕は随分性格が悪く、まだ決定的な言葉を口にはしない。狩りは確実に仕留められる範囲で行うべきだと主に匂いを付けながら自身も眠りについた。

エヴァン視点とか世界観とか全然書ききれていないので続きとか書いてみたい気もします。短編シリーズものにするか、連載版にするかそれが問題です。


読んで頂きありがとうございました。

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