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姉の結婚~シスコン視点~

作者:

榎本杏里23歳、自他ともに認める立派なシスコンである。

姉の優花里は25歳。大学は県外に行ったが、就職とともに実家に戻ってきた。


つまり私は社会人としてなんとか慣れてきたところで姉との幸せハッピーライフ!を満喫しているところである。

実家の農家を手伝いながら休日はごろごろしたり、姉と休みが合ったら姉と過ごしたりと毎日忙しい。



そんなある日のこと、部屋で一緒にごろごろしていた姉はなんともなしに私に言った。

「姉ね、結婚することにした~」

絶妙に間の抜けた姉の声。理解するのに数秒かかった。

…結婚?遠恋の彼氏さんと?よく東京行ってたなとは思ったけど!私が夜勤の時に彼氏さんが挨拶に来てて泊まっていったとも聞いたけれど!

「…」

声が、出ない。姉がとられるなんて考えたくない…。

「ちび~?」

姉は小さい時からの名残で成人した今でも私のことをちびと呼んでいる。ちなみに私は姉を姉と呼んでいる。昔はお姉ちゃんと読んだり名前で呼んでみたりしたが、短いし誰かに話すときに訂正することもない。珍しい呼び方といわれることもあるが、結局は姉呼びに落ち着いている。

「…出て行っちゃうの?いなくなっちゃう?」

あ、駄目だ。声に出すと一気に実感が湧く。

「そうなるけどまだ先~」

「やだぁ…」

目出度いことだとは思うけど、寂しい気持ちがつよくて姉にお祝いの言葉を掛けられない。寂しい、寂しい、寂しい…。涙も出てくる。

「だいじょぶ、だいじょぶ。遠いけどちょくちょく帰ってくるから~。それにちび、一緒にいても遊んでくれないじゃん」

まったくもってどこが大丈夫なのかわからん。新幹線と電車と使って5時間くらいかかるじゃん。

「姉がいなくなるのがやなのぉ。…一緒の空間にいれれば満足」

「え~。遊んでよ、姉暇じゃん」

確かに姉がいるときでも同じ場所で別々のことをしているがそれとこれとは別だ。

「…姉は元気で存在しててくれればいいんだもん。いるのが重要なんだもん~」

「え、それ姉理解できない。ちびがいいならいいけど~」

納得できてないらしいけど、姉はいるのが重要。存在が大事。何回伝えても首を傾げられるけど私的には超重要事項。

「…だけど…おめでとう。…寂しい」

伝えられたが泣きながらだからうまく伝えられたか不安になる。ちゃんとお祝いしないと姉が不安になっちゃうからね。とはいえ嫌だ。

「ありがとね~。来月こっちで結納するの~。あとは年度末で退職して引っ越すからね」

寂しさしかない。一緒に住んでても絶対苗字が変わったら盗られた感が出る。

「姉は姉だから大丈夫だって。変わらないよ~。転職するまで暇だから休みのときおいで~」

姉の緩い感じの空気に浸れなくなる日がもうすぐ来るかと思うとつらい。目出度いのは分かるけど今はつらい気持ちが強すぎて受け止めきれない。まだキュブラー・ロスの死の受容段階でいう第一段階:否認だ。最終段階の受容までどれくらいかかるだろうか…。

「ちびは結局夏くんに会えてないよね?今月忙しいらしくて、結納のときに会うのが最初になりそうって。ごめんね~?」

いいのか悪いのか…。姉が選んだ人だし、両親祖父母は会って結婚を認めてるんだから、私が会って認められないと思うことはないと思うけど、どんな人だとしても受け入れるまでには多分時間がかかる。

「だいじょぶだけど、姉いなくなるのやだ」

「またそれ~?だいじょぶだって」

お母さんがごはんだって呼んでくれるまで、その日はずっと姉と繰り返して、姉の背中にくっついていた。コアラみたいだって言いながら姉はティッシュを渡してくれた。途中で姉が、そんなに泣いてくれるなんて姉重要人物になったみたいで楽しい、なんて言ってくれたから、姉は存在が重要なんだと伝えたら、またそれ~?なんて言いながら笑ってくれた。




時は過ぎ、決戦のときは来たれり。

本日のメインイベント、姉の結納だ。結婚式はどちらも友達が少ないからしないらしい。私からしてみれば、姉の友達は少なくてもつながりが深い。遠方に散っているうえに忙しいが、姉が結婚するときは絶対出席してくれるだろう人ばかりだ。…姉の彼氏さんは分からないけど。

この日のためにきちんとお店の人に事情を話して、結納に着てきても大丈夫なワンピースを買った。いつもお下がりで過ごしている私としては店に入るだけでも勇気が要ったが、きちんとそれっぽいものを購入できた。なんて快挙だろう。

ちなみに姉は『いいかなって思って~』と、3000円くらいでワンピースを買ったと報告された。主役がいいのか?と思ったが、姉がすることだから問題ないか、と思った。お母さんに滅茶苦茶小言をもらってたけど、主役がいいならいいと思う。


家から新幹線の通る駅までは車で30分程度。車2台で両親・祖父母・姉と私は結納の式場まで向かった。姉が運転しようとしたが、主役だからとおとんとお母さんが運転してくれた。

私にとっては姉の家族になる人たちと初の顔合わせになる。姉にくっついていたかったけれど、主役なのでとお母さんに言われ、仕方なく離れると、姉は会場の人に連れられて最終確認に向かってしまった。

お母さんにくっついて、寂しい思いをぶちまけているとめでたいことなんだからね、と言われた。目出度い気持ちもきちんと一か月で湧いてきているが寂しさはなくならないのだ。知ってるけど寂しいと伝えると頭を撫でられた。こんなにお姉ちゃんのことすきなんて。二人しかいない姉妹だから仲良く育ってくれてよかった、なんて伝えらえて既に泣きそうだ。


結納が始まり、幾久しく~と姉が文言を述べているとき、案の定私は泣いた。誰よりも早く泣き始めた。

姉が~とか言いながら。

成人したいい大人が…と思ったけど、出席者のなかでは一番年下なのもあって意外と皆さん微笑ましく見守ってくれた。厳かな雰囲気壊してごめんなさい。姉妹仲がいいんだね、って朗らかに笑ってくれた初対面のお義兄さん、ありがとう。

姉の彼氏さんはいいひとだった。ちょっとおとんに似ていて、私から見た第一印象は人がよさそう。むしろ人が好さ過ぎて変な壺とか売りつけられそう、だった。詐欺には注意してほしい。

私は泣いているが和やかに美味しい食事も食べて、お酒も飲んで、姉に抱き着きながらおめでとうをして。

笑って頭を撫でてくれた姉の笑顔を一生忘れない。私の自慢の姉だ。


今までいっぱいありがとう。苗字が変わっても大好きな姉のままでいてください。元気に笑って存在していてください。結婚おめでとう!

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