君ニ届ケ、私ノ想イ
6日目
食料問題が解決してから2日が経った。もういつ帰れるかなんて誰も気にしちゃいない。そりゃ帰れるなら帰りたいよ、こっちには娯楽がほとんどないしな。最初の猿以降脅威なんて現れないし、他のクラスを見つけたなんて報告は受けないし、正直つまんないよなー。俺はいつの間にか俺の側近ポジに居座っていた初期パーティーの二人の胸をバシバシ叩いた。流石おっぱい、ぷるぷるだな。
「ってえな、急になんだよ」
だってつまらないんだもん。そろそろ皆で大移動でもしない?ギュウニクを生産できる奴も増えてきたところだしよ、もう新しい土地を目指してもいいと思うんだ。ちなみにギュウニクとは加工人肉の陰語だ。牛肉と呼ぶにはアレだし、流石に人肉と呼ぶのもアレだからギュウニクになった。俺としちゃどうでもいいが。
「えー、にっしーには前科があるから従いたくないんだけど。な、テンカス」
「俺はその場にいなかったから知らないが、迷子になったヤツの意見なんて聞きたくはないよな」
チンカステメェ、なに言ってんだよ。俺らはテメェが山火事起こしたこと忘れないからな。なに頭良い振りしてんだよ、大人しく『私はバカです』って皆に言ってこいよ。
「そんなこと言われてもさ、今ではテンカスさんのお陰で見晴らしが良くなりました、とかテンカスさんのお陰で土地の確保が楽になりました、って言われてるんだ。物事の評価なんて最終的に得したか損したかで決まるんだよ。俺は得になった、ニシキゴイは何も産み出さす結果時間を無駄にした。これが全てだ」
それは多分オマエに対しての皮肉だぞ?それと何度も言ったと思うが、前回の探索でなんにも見つからなかった訳じゃないからな、砂漠地帯っぽいのがどっかの方向にあることを発見したからな?ソコんところよろしく。
「え?初耳なんだけど。ねえねえパラサイト、それって本当なのか?」
「ああ、ホントだぜ。それより俺らお前にこの話したと思ってたんだが」
まあいいだろ、この世界、少なくともヂャパニーズじゃ記憶喪失なんてもんはいくらでもあり得るんだからさ。
それより民族大移動についてだ。オマエらなんか意見はないのか?
「俺としちゃぁ賛成だぜ?だけどさー、最初に[万物創造]の使い方を発見したマドガラスや、この前ギュウニクの生産を安定させたポット、なんだか周りより強くなってた俺と比べてさ、何もしてないにっしーって立場悪いんだよ」
「確かにそうだな、この前『今はなんにもしてないけどいつかやらかすよな、アイツ』っていう話を聞いたぞ」
へー、そうなんだ。オマエにだけは言われたくないよ、チンカス。ってかよ、それならさ、パラサイトが皆に大移動するぞって言ってくれればいいじゃん。従わない奴は皆殺しだ、とか言えば皆従うよ。正直できるでしょ、だってナイフで刺されても痛くないんでしょ?
「どこ情報だよそれ、刺されれば痛いし死ぬに決まってんだろ。それになんで俺が悪者になんなきゃいけないんだよ、にっしーの方が似合ってるぞ」
俺が悪党面してるって言いたいのか?言っとくけど、俺は純度100パーセントの清らかな何かで構成されてるんだよ。オマエらとは違ってな。
「何かってなんだよ」
何かは何かだろ、清い何かだよ。なんだか神々しい何かだよ。それより大移動だろ。
『キャー、誰か助けてー』
………なんだ今の全く感情の篭っていない悲鳴は。
「なんかあったみたいだな。もしかしたらにっしーが期待してた脅威かもよ?」
そうだといいんだけど。まあ期待してた訳じゃなくて、変わりない日常に刺激が欲しかっただけだが。それにしてもさっきからなんだ、この地響きは?絶対にろくなことが起こっちゃいないだろ。とりあえず現場に行ってみるか。
パラサイト、俺らを担いで現場に直行だ。
「りょーかいしました」
やっぱりパラサイト便は速いな。
現場に着いた俺達が見たのは高さ4メートルはあろうかというサイズの茶色いスライムだった。いや、スライムって言うほどプルプルしてないな。どちらかと言うと土砂っぽいし。つうか認めよう、アレはマドガラスの作ったクソだんごだ。全然持って来ないなって思ってたらあんなもん作ってたのか、やべえな。
「あ、コイちゃーん。コイちゃんのために雑草泥だんごいっぱい作ったからたべてねーっ」
マドガラスの野郎か、ここはクソだんごを二度と作らせないためにもなんかするべきだな。全く案はないが。
雑草泥だんごね、知ってるか?時代はギュウニクなんだぜマドガラス。俺はお前が作ったギュウニクが食べたいんだ。だからよ、今度からはだんごじゃなくて肉にしてくれよ。俺は本心を語った。少しばかりマイルド仕様だけどね。
「なに、コイちゃんは俺のお肉が食べたいの?わかった。す、少し恥ずかしいけど、コイちゃんのためならいくらでも俺のお肉食べさせてあげるからな。明日から作って来てやるから、今日はその雑草泥だんごを食べて待ってて」
俺のお肉とか言うなよ気持ち悪い。あ、マドガラスが帰っていった。そうなると特大クソだんごを制御できる奴がいないってことになるんだよな。まああのサイズのクソだんごはマドガラスでも制御しきれないと思うが。
おっと、クソだんごからの先制攻撃だ。だけど大きすぎて動きがトロいぞ?ハッ、そんなもんかよアイツの俺への想いってのは。そんなんじゃ俺を振り向かせることすら出来んぞ。余裕余裕、ホントに俺を仕留めたいのか?だったらオマエに俺は殺れんよ。まあ、精々頑張るんだな。
5分後
どうしてこうなった。余裕だと思って挑発してたらいつの間にか死体山まで追い詰められてた。触手の動きがどんどん速くなってる。避けれなくて何度も死んでる。だけどアイツの動きは見切ったぜ、じゃないと今もこうして記憶を繋いでられないんだけどよ。ちなみに今のひとつの文章で3回死んだ。ギャラリーは既にパラサイトとチンカスだけだ。元々は8人位いたんだけど自分には関係無いと分かると無視して自分の作業に戻っていってしまった。まったく薄情な奴らだぜ。
おっといけない、今は目の前の敵に集中しないとな、このままじゃ俺のクソだんご詰めが量産される一方だしそろそろ反撃するか。
俺に力を寄越せ!何でもいい、奴を、目の前の雑草泥だんごを打倒できる力を、俺に寄越せーッ!このセリフの間に5回死んだなんて恥ずかしくて言えない。
[身体強化]を確認 ロード中
ロードが完了しました。
[身体強化]のコールを確認。
[身体強化]を使用します。
なんか出てきた、コレがマドガラスの言ってた悪魔との取り引きか。絶対に悪魔では無いことは分かった。ただ今は体の内側から溢れ出る圧倒的な破壊力に全身がゾクゾクするぜ。今の俺なら誰にも負けない、そう確信出来るものがある。今から命乞いしたって遅いからな、クソだんご。
俺に秘められた力が今、真なる形となり覚醒する。喰らえ、※爆散拳!
※爆散拳とは相手の体内に無理矢理自らの拳を撃ち込み、その衝撃で相手を内側から破裂させる予定の技だ。名称・内容共にニシキゴイ氏発案。
俺の拳がクソだんごにめり込む。そして俺もろとも爆散。しかしこれだけでは終わらない。この爆散拳は復活地点で更に覚醒する。喰らえ、※真爆散拳!
※真爆散拳とはリスポン地点だけで使える所謂ゾンビアタック。但し記憶の繋がりを断ち、代わりに[身体強化]の効果を巻き戻す事によりほぼ永遠に爆散拳を撃ち込むことができる。現在最も強い技とされているが、使用者がどうなるかはわからない。名称・内容共にニシキゴイ氏発案。
復活した俺の前で技を撃ち終わった俺が爆発する。俺はそんな俺に続くようにクソだんごに爆散拳を撃ち込む。俺は爆発した。
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復活した俺の前で技を撃ち終わった俺が爆発する。足下は俺の死体だらけで安定しない。踏み込むと何らかの臓器がぷちってなる。実際はこんなかわいい音じゃないが。そんな汚らしい音と共にクソだんごに爆散拳を撃ち込む。あら、だいぶちっちゃくなったんじゃない?俺は爆発した。
気が付くとそこには俺以外誰も立ってはいなかった。俺は遂に成し遂げたんだ。やった、やった。見たかオマエら、俺はやったぞ!しかし振り返った先には誰も居なかった。気づけば辺りは暗くなっている。山の麓では炎が煌めき辺りを囲う人々を暖かく照らしている。俺は何も悪くないのに空しくなった。
リアルハイスクール
この学年は他年度とは違って変なのばかりですね。