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古都ノ葉さま お祝い小説


 とある天界に神様がいらっしゃいました。男でもなく女でもありませんでしたが、金の目と銀の髪を持ち、珊瑚の髪飾りをしておられる美しい方です。

 神様の趣味は園芸でした。

 意外かも知れませんが、絹を敷き詰めたような雲の庭は空の端まで続き、それはそれは見事なものでした。

 太陽が昇る時に光が舞い踊り、月が輝く頃には星の奏でる音楽が流れます。



 神様はその庭で花を愛でていらっしゃいました。偶然に出来た花ですが、あまりに美しかったため〈命〉と名付けられました。

〈命〉の花は明け方の空の色でもあり、夜明けの景色の色でもありました。そして葉はガラス細工のように透明で繊細でもあれば、樹木のように年輪を刻んでいるようなものもあります。

 要は多種多様。ひとつとして同じものがありません。だからこそ神様は夢中になられたのでしょう。

 ただこの花は育てるのが難しいのでした。せっかく芽を出したというのにすぐに萎れてしまったり、咲かず枯れてしまったりします。

 神様は天使長と水や肥料などあらゆる面で研究をされました。しかし個体差が激しいために至難の技でした。与えれば良いというものではなく、十分な栄養などが不必要な個体があれば、日陰が良かったりします。

 神様は何と我がままな花よ、といつもため息をつかれておりました。



 ある時、神様は腕組みをしつつ庭を散歩していました。いつになく眉間の皴が深い気がします。

「天使長よ――また〈命〉は駄目だったようだね」

 長はこうべを垂れながら小さくうなずきました。

「今度こそはと思ったのだけど」

〈命〉は永遠の花ではありません。最後は皆、赤茶色に枯れ果ててしまいます。時間が有限の花だから美しいのでしょう。が、それだけに残念でもありました。

 理想的の栽培方法とは何だろう。

 お二人は毎日議論していました。

 そんな時、ふと目をやると一区画が何やら不思議な温かさに包まれています。温か、というのはわかりにくいですけれど、そこだけ優しさとぬくもりが感じられました。

 驚いて神様達は近寄って見るのですが、花は倒れ、若芽は育ち切ってはいません。普段通りでありました。

「他とは大差ない……ようですが」

「神様、しかしこの空気感は」

 枯れた花から立ち上って来るものはひとことで説明すれば〈感謝〉であり〈誇り〉でした。それがはっきりと周囲に立ち上り香しく思われます。

 そしてまだこれからの若芽からは〈育つ意思〉が感じられました。それらが希望となり周囲を照らし暖かさを振りまいているのです。

「これはどうしたこと?」

 神様は首を傾げます。

 短い命なのに満足を持って花が在るとは不思議でした。

「ここは誰が世話をしているの?」

 神様が天使長に尋ねると「確か今年入った者のはずです」と長は答えました。

「呼んでみて欲しい。話がしたい」

「はい」

 長が腰に付けていたベルを鳴らすと、空からわらわらと天使がやって来ました。

 天使達は真新しい白い服を着て、まだどこかぎこちない様子です。

「あの、すみません。何か失敗したでしょうか?」

 天使の一人が震える声で聞いて来ました。

「やっぱり枯らしちゃったことだよ」「育つのが遅いし」「教えられた通りやっているんだけど」「うう、才能ないんだ」「とりあえず謝ろう」

 天使達は失敗を注意されると思っているのか肩をすくめ小さくなっています。

「――あの、申し訳ございません」

 不安そうに頭を下げる天使達に長は優しく言いました。

「逆ですよ」

「え?」

「この一画から幸せを感じるのでね。どういった世話をしているのか神様がお尋ねになりたいそうです」

 長の横で神様も頷きます。

「どういったと言われても――わたし達はまだ新米ですし。特別なことは……」

 天使達は顔を見合わせ戸惑っています。

「幸せを感じるって……何かしたっけ」

「いいえ、特には」

 確かに成り立ての天使ですので上から言われたことしかまだやっていないでしょうし、できないはずです。よく考えると花を育てる力もパワーも神様の足元に及ばないでしょう。

 しかしこの一画が違うのは確かです。

 神様と長は同じく考え込んでしまいました。

「あの」

 ややあって天使の一人が声を上げました。

「ご質問はなぜここの花達は満足して枯れて行くか、ですよね」

「え、ええ」

「もしかしたら……その、僭越ながらわたし達が声かけをしているからかもしれません」

 一人が口にするとみんなも「あっ」と息を飲みました。

「そういえば挨拶はするよな」

「ほら、御気分はどうですかって言ったり」

「うんうん」

 どうやら水をやる時にみんなで花にしゃべり掛けているようでした。

「でも花はわからないのでは? 耳もないので聞こえないでしょうし」

 長は首を傾げ、不思議そうに天使達を見ます。

「はい。でもわたし達は慣れていないし、諸先輩の皆様と同じようにお世話できるか不安です。だからこそ花に寄り添うことを心がけようって、みんなで」

「……寂しくないように?」

 天使達の話を聞き、神様はつぶやくように口にしました。

「物言わぬものに寄り添う。だからこそ通じ合えることもある……」そして言葉を続けます。「花が感謝と幸せのうちに逝け、芽が明日に希望を持ち育つ。それが一番かもしれませんね。我々は美しさが長持ちすることだけを考えていました。それは花の満足を考えていない行為だったのかもしれません」

〈命〉の花は脆い。でも新米天使の思いやりで花は満足だったのでしょう。だから駄目になった花も赤茶色く縮こまるのではなく堂々と一生を終えているのです。

「教えられましたね」

 神様が枯れた〈命〉の花に手を添えると、花は七色の光の粒になり空高く昇ってゆきました。そしてゆっくりと降り注いで来ます。

 こうしてまた新しい種となるのです。



「頑張りすぎないでくださいね。あなた達の代わりはいませんから」

 去り際、神様は天使達にそう告げられました。長も頷き、優しい目をより優しくして天使達を見ています。


 今日も良き一日となりそうです。


古都ノ葉さま


神様と天使たちの会話で涙があふれるほど心に響くものでした。

本当にありがとうございます。

よつ葉の宝物になりました。

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