【プレゼント】 山之上 舞花さま
菜須よつ葉ちゃんへ
ポツ
「あれ?」
頬に水滴が当たって、私は不思議に思って空を見上げた。
今日は梅雨の晴れ間で、白い雲はところどころに見えるけど、頭の上は青空だ。
おかしいなー。そう思いながら前を向いたら、小学生くらいの男の子と目が合った。その子は私を見て、口をにーと開けて笑った。ちょうど歯が生え変わるのか、すきっ歯になっているのが見えた。その様子がかわいくて、私もニコッと笑い返した。
そうしたらその子は、手に持ったものを私へと向けてきたのよ。
ピュー
「つめたっ!」
水をかけられた私は声をあげた。その子はそれが面白いのか「きゃっ、きゃっ」と笑い声をあげた。
「やったな~」
男の子を捕まえようと手を伸ばしたら、男の子はするりとかわした。
「へへ~ん。つかまらないよーだ」
そう言って、路地のほうへと逃げていく。でも、少し走って立ち止まり、私の様子を伺うように見てきた。私はどうしようかと考えていたけど、男の子は水鉄砲を構えると、私のほうに向けて水を飛ばしてきた。その水が、今度はスカートにかかった。
「こらー」
そう、声だけ上げて軽く睨んだけど、そのまま動かないでいたら、その子はまた水を飛ばしてきた。
「こら、待ちなさい」
私はその子に注意をしようと思って、路地のほうへと足を進めた。男の子は私が動いたことで路地の奥へと逃げていく。それを見て、追いかけてまで注意をしようとは思えなくて、私はまた立ち止まった。そのまま向きを変えて通りに戻ろうとしたら、背中に冷たい感触がした。
振り向くと、男の子が水鉄砲で、私の背中に水をかけたようだ。
「きみ、いい加減にしなさいよ!」
「べー」
男の子は舌を出して、逃げ出した。私はその後を、本気で追いかけ始めた。
男の子はこのあたりを熟知しているようで、右に左にと道を曲がり、時にはどこかの家の裏庭ではないかというところを抜けていく。私もその家の人に見つかるのではないかと思いながら、恐る恐る通させてもらった。
走りつかれて、息を整えるために立ち止まった。気がつくと今まで来たことがないところに迷い込んでいた。男の子の姿も見えないことに気がついた。どうしようと途方に暮れていると、そばの家から大きな声が聞こえてきた。
「何をやっているんだ、お前は! それで、そのお姉さんはどこに」
扉が開いて、出てきた人と目が合った。男の子とよく似た青年が、扉を開けたところで固まったように止まってしまった。
「このお姉ちゃんだよ。ぼくとあそんでくれたのは」
男の子が青年の後ろから顔を覗かせて、私のことを指さした。それで我に返ったのか、青年は男の子の頭に拳骨を落とした。
「お兄ちゃん、いたい~」
「お前は、まずは謝りなさい!」
男の子は涙目で青年のことを見上げてから、私のほうを向いた。
「お姉ちゃん、ごめんなさい」
「僕からも、弟がご迷惑をおかけしました」
青年は男の子の頭を押さえるようにして下げさせながら、自分も頭を下げてきた。
「えっと、あの、大丈夫ですから、頭をあげてください」
ドギマギしながら答えたら、青年がそばに来て、まるでエスコートをするかのように、右手を掴んで背中にも手を回されてしまった。
「あ、あの」
「服が濡れてしまったのですよね。乾くまで、家で休んでください」
「いえ、もう乾いているから、大丈夫です」
「お詫びをしたいので、どうぞあがってください」
「お詫びをされるほどでは」
「喉が渇いていませんか。麦茶が良いですか。それともコーヒーにしましょうか。紅茶が良ければご用意します」
「いや、そこまでは」
グイグイと押されて、気がつくとリビングに通されてしまった。お母さんらしい人も出てきて、話を聞いたら、青年と同じように男の子の頭に拳骨を落としていた。
この後、アイスティーとマドレーヌ、クッキーをいただき、ここの場所がどこかわからないというと、駅まで送ってもらうことになった。
家の外に出ると、いつの間にか曇っていて、いまにも雨が降り出しそうに見えた。傘も貸してくれると言われた。
駅に着く前に雨が降り出してしまったので、借りた傘をさしてた。駅のところでお礼を言って別れ、電車に乗ってから気がついた。連絡先を聞いていないことに。
近いうちにあの家まで傘を届けに行かなければいけないなと、思ったのでした。
素敵なプレゼントをありがとうございます。
いいお誕生日になりました。




