景色
今日は雨だ。仕方がない、梅雨なんだもの。ジメジメとした空気が学校中に溢れかえる。学校の窓ガラスには綺麗な水の結晶が、風に飛ばされまいとしているかの様に張り付いている。そのせいで、今、外の景色はほとんど見ることができない。
僕は雨の日の景色が世界で二番目に好きだ。だから、今、外の景色を見たい僕としては非常に落ち着かない。窓を開ければそこに僕の見たい景色が広がっているのに、その窓を開ける事が許されない。何故許されないのか、だって?横殴りの雨の中、わざわざ教室の窓を開けたがる奴がいたとして、どこにそんな事を許す奴がいるというんだ?雨が好きか、濡れて喜ぶお馬鹿さんじゃなければ、普通、雨はみんな嫌がるものだ。ジメジメしてるし、髪は整わないし、洗濯物は干せないし、何より濡れるし。
「田窪~、彼女が呼んでるぞ~」
教室の後ろの方から、豪田(通称ジャイアン)が僕を呼ぶ声がする。どうやら、京子が僕の所へ遊びに来たらしい。
「うん、今行く」
僕は窓のから目を離し、席を立って、後ろのドアの方へ向かう。ドアの所には京子が髪いじりをしながら僕の事を待っていた。
(仕草は女の子なんだけどなぁ……)
そう思わずにはいられない。性格はあんななのに。
「どうしたの、京子」
京子は髪をいじりながら歯切れの悪い感じで話しただした。
「いや、その、大したことじゃないんだ。……あのな…、お前、今日傘持ってるか?」
「え、持ってるけど。まさか京子忘れたの?あんなに天気予報でも言ってたのに」
というか今日朝から雨は降っていたはずだが。……もしかして、京子は僕と一緒に帰りたいのかな?
自信過剰でないことを祈る。
京子は慌てているのか、困っているのか、手いじりをしながら、違げーよ、と言った。
「朝まではあったんだけどよ、五時限目に早退した奴がさ、朝登校してくるまでに傘壊れちったらしくてよ…。可哀想だろ、だからオレそいつに傘かしちゃったから……その、な?」
察しろよ、と言いたげな目。
つまり、今日の朝、京子は普通に傘を持って登校したが、その傘は五時限目に早退した人に貸してしまった為、今、京子は傘を持ってないない。…だから一緒に傘に入れてほしい、と。=遠回しに相合い傘がしたい、と言っているわけか。………う~ん、察してあげるのが普通なんだろうけど。
わからないフリをするのは、それはそれで、あり…かな?
「つまりはどういうこと、京子?」
「えぇ、お前今のでわからなかったのかよぉ……」
京子、ほっぺた赤くて、ちょっと涙目。可愛い。というか、彼氏彼女の関係じゃなかったら、普通に『お前、オレに傘貸して、濡れて帰れ』って関係的に言っているようにも受け取れる。
「いやぁ、流石に言葉が足りないかな。何を言いたいのかイマイチ」
「うぅ………、おい、ちょっと耳かせ」
「あ、うん」
「一回しか言わないからな」
フフフ、恥ずかしがってる、恥ずかしがってる。あぁもう、可愛いなぁ、京子は。
「い、一緒に帰ろうぜ………」
京子は少しだけ背の高い僕を上目遣いに見てそう言いった。
「Of course」
「はぇ?お、おふこーす?なんだそれ?」
「もちろんって意味だよ、京子。知らないの?」
まさか、高校生にもなってof courseの意味がわからないのか?……非常に将来が心配だ。
「べ、別に知ってたし。一瞬わからなかっただけだし。…じゃあ、HR終わったらこいよ。絶対だかんな」
「あいよー」
もちろん、お迎えに伺わせて頂きますよ。
だって、僕が一番好きな景色は、君と歩く世界全てですから。