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②あの方は妄想の中を生きておられる。

ガラッと印象が変わります。

 

──それは突然の事だった。



「……ねぇ、少しいいかしら。貴方に大事なお話がございますわ」


声をかけられて振り返った先にいた少女を見て、俺とアンジェリカは瞳を瞬かせた。

とても、美しい少女だった。

けれど、少女は俺達が気軽に話し掛けられるような相手ではない。

少女は将来この国の女性のトップに立つ事が決まっているのだから。


「「………………」」


2人して固まっていると、高貴な少女は眉をひそめて再び口を開いた。


「貴方との婚約は破棄させて頂きますわ……理由はよくお分かりですわね? 不義理の代償は高くつきましてよ」


そう俺達に言い切ると、少女は踵返して会場を出て行った。


「……婚約破棄?」


誰と?

一体何の事だ。


残された俺達は困惑していた。


「え、不義理?……カレルの婚約者って、私だよね? それにジェーン様の婚約者って……」


アンジェリカの動揺は最もだ。

彼女は俺の幼馴染みであり、幼い頃からの婚約者。

仲も良好だ。

対して、少女、ジェーン様とは殆ど面識がない。

そもそも、ジェーン様にはこれ以上ないほどの婚約者もいる。

何故あんな事を仰り出したのか、俺達には全くもって見当がつかなかった。


「──やぁ、君達にはジェーンが迷惑をかけたようだね」


「あ、アレク王太子殿下……」


困惑から抜け出せない俺達に声をかけてくださったのは、王太子殿下であった。

幼い頃から文武両道で名をはせていて、将来は良き賢君になるであろうと言われているまだ幼さの残る青年。

そして、ジェーン様の婚約者でもあった。


「お騒がせして申し訳がございません。ただ……自分達にも事態がまだよく掴めず……」


背中に冷や汗が伝う。

先程の話を全て聞かれていたのだ。

俺とジェーン様にそういった関係は一切ない。

だが、事実を知らない者からすれば先程のジェーン様の発言は俺と関係があったかのようにも取れる。

王太子殿下がジェーン様を大切にしているのは周知の事実だ。

王太子殿下の意向で俺の首が飛ぶ事もあり得る。


「そんなに緊張しなくてもいい。別に話の内容が聞こえていた訳ではない。勿論、おおよその予想は出来ているよ。此方は事情を全て理解している。君自身(・・・)に非は無いことは、充分に(・・・)理解しているよ」


そう言って人好きのするような笑みを浮かべた殿下を拝見して、俺は人知れず胸を撫で下ろした。


だけど、事情とは一体……?


「特に君には本当に迷惑をかけた……だから、1つだけ教えてあげよう。他言は勿論無用だよ」


内心首を傾げる俺に、殿下は内緒話をするかのように耳元に顔を寄せて囁いた。


「……彼女はね、何年も昔から君を自分の婚約者だと思い込んでいたんだよ。それこそ、周囲が何を言っても信じない程にね」


「え……?」


一瞬、何かの冗談だと思った。

そんな事がある筈がないと。


“王太子殿下の婚約者である筈のジェーン様が、俺の事を婚約者だと思い込んでいた”


常識的に考えてそんな事はあり得ない。

ジェーン様は夜会や茶会では、いつも王太子殿下にエスコートされていると聞く。

俺自身もその姿を何度か見た事がある。

お似合いの2人だと思った。

それに、ジェーン様は王妃教育だって幼い頃から受けているのだ。


それが何で俺なんかと……。


ほぼ初対面に等しい間柄だ。

ジェーン様は今まで茶会や夜会、パーティーにはあまり参加されてこなかった。

顔をよく見るようになったのは最近だ。

身体があまり強くない聞いていたのでそれが理由かと思っていたが、事実は違うのかも知れない。

自身の婚約者を王太子殿下ではなく、俺だと思い込む。

当然だ。

公の場でそのような事を吹聴したら、公爵も俺も只では済まない。

今まではなるべく外に出さないようにしていたのだろう。


ジェーン様とまともに話したのは……。


記憶の片隅まで探すと、1度だけあった事を思い出した。

まだ幼い頃の話だ。

あれは王太子殿下とジェーン様の婚約が成った時の事だ。


『貴方様を将来迎える事が出来る御方は、なんと幸福なんでしょうね……アレク王子殿下は本当に幸せな方です』


俺はその時にそうジェーン様に言った。

けれど、それだけだ。


まさか、それが原因で……?

そんな事があり得るのだろうか。


「では、僕は行くよ。彼女を追いかけなくてはね」


「はい、ありがとうございました」


機嫌良く笑う王太子殿下を俺は見送った。

頭の整理はまだ出来ていない。


もし、俺が考えた事が真実なのだとしたらあのお方は──


「カレル、王太子殿下は何て?」


王太子殿下やジェーンが出て行った先を呆然と見つめる俺に、アンジェリカは心配そうに聞いてきた。


「……どうやら、あの方は妄想の中を生きておられるようだ」


俺はそれだけ言うと口をつぐんだ。


後で今日の事を忘れるように、アンジェリカには言っておかなければ。

それと、今後要らぬ勘違いを生まぬよう、ジェーン様とは関わらないようにとも。


ジェーン:妄想癖の激しいヤバい美少女。妄想力や地位はすこぶる高い。

カレル:巻き込まれた可哀想な少年。婚約者との仲は良好。当初、周囲へのけじめの為に冤罪で罰せられる予定だったが、流石に可哀想なので今の感じに変更。その後はひっそりと幸せに暮らす。

アンジェリカ:男を侍らせているというのは、ただの噂で偏見ややっかみ。政治・経済に興味があるのでカレルについて、その友人達の話にまじっているだけ。2人きりにはならぬよう気を付かっている。

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