(軽度に)ドタバタした昼食の出来事
昼休みに(命からがら)入り、オレは昼食を取るため食堂に向かった。(そういう約束だし)
食堂の戸をくぐった。(魔窟に入る勇者の気持ちだ)
「ッ……」(ゾゾゾッ……)
凍り付くような殺気が足首から頭の額まで三方向から襲い掛かり身体を固める。
「「「さぁ、どうぞ」」」
三つの方向から三つの異なる三つの可愛い声がオレの耳に入り、鼓膜を揺さぶった。(何気に心地いい)
「……」(首をゆっくりと右から左へと回す)
東に龍子、南にスズメ、西にマオ……(どっかで見たことのある光景だな)
三すくみでもしてるように同じ間隔で食堂の椅子に座る三人のケダモノにオレは逃げ出したい気持ちになった。
ヤバァ、本気で足が後ろに下がり始めた……逃げたい。
「今日は玄斗くんの好きなラーメンだよぉ~~~~……」(スズメの手がゆらりゆらりと誘うように揺れる)
「雀」と書かれた扇子でラーメンの匂いを漂わせるスズメにオレは顔を背ける。(見たくない……見たくない)
「こっちは牛丼よ……」(招き猫のように手を振る)
「虎」と書かれた扇子で牛丼の匂いを漂わせるマオにオレはまた目を背ける。(なにも見えないなにも観えてない)
「こっちはエビピラフですよぉ~~……」(パタパタ……)
もはやコントとも思えるように「龍」と書かれた扇子を振りながらエビピラフの匂いを漂わせる龍子にオレは目線をどこに向ければいいか迷った。(もう現実なんて見たくない)
「オマエら……(ビクビク)なにやってるんだ?」(質問)
どっちに向ければいいのかわからないのでとりあえず上を向いて三人に声をかけた。(必死)
「ラーメンは味噌と豚骨の合わせだよ♪」
「牛丼は一個三百円で安いわよ」
「エビ少なめのエビピラフですよぉ♪」
答えになってねぇ!?
これはなにか、どれか一つの席に座って一緒に食えってことか!?
もし食わなければどうなるんだ!?
オレが食われるのか!?
鳥の嘴で啄まれ、猫の牙で肉を抉られ、龍の顎で砕かれながら……
ここは本当に現実ですか? 和風ファンタジーの世界じゃないの?
ゴメン、もう無理。誰か助けて……
「お、おい……」
お、誰か声をかけてきたか?
「今は食堂に入るな! 例の三人が陣取ってるぞ……」(気の弱そうな少年)
「ああ……あの名物の」(噂好きそうな少女)
「あの三人、怒ると校舎が半壊するから触らぬ神に祟りなし」(理知っぽく決めてるだけのオタク)
「神の名を冠してる三人だしね……」(厨二病を患った歴女)
気づいたら食堂がオレとスズメとマオ、龍子を残して四人だけになってしまった。
お前らの人間的優しさを知ったよ……チクショー!
完璧に逃げ道を失った袋の鼠……
まぁ、鼠なら猫を噛むほどの根性はあるだろうが(窮鼠猫を噛むってね)残念なことにオレに鼠ほどの根性はない。(威張るな)
まぁ、バカなこと言ってないで……ここはとりあえず……(ダッ!)
「「「逃げるな!」」」
「ウグゥ!?」
首、胴体、右足に荒縄が絡まる。
「こ、これは……!?」
コイツらはカウボーイか……!?
「く、くるしぃ……」(じたばたじたばじたば)
三つの荒縄がより肉に食い込み、身体を食堂という魔窟へと引きずり込んでいった。(誰かたすけてぇ)
「は、はなせ……(必死)おまえらのご飯ごっこに付き合うつもりはないぃ……」(涙)
「アンタがあたしと一緒に牛丼を喰えばいいのよ!」(マオ)
「玄斗くん、コッテリまったりギトギトのラーメンがぐつぐつ煮えたぎってるよぉ♪」(スズメ)
「はむぅ……ほんのりエビの香りがいいですねぇ」(龍子)
おい、一人だけもう喰っとるぞ!
「アンタたち……(マオ)あたしの玄斗を離しなさい」(グイ~~~)
「マオちゃんこそ(スズメ)、私の玄斗くんからその汚い縄を離してよ!」(ギリィ~~~)
「二人とも(龍子)、正妻を差し置いて夫を奪わないでください」(ぐぐぅ~~~)
ぜ、全身の荒縄が肉を裂くぅ……てあしがちぎれるぅ……いきが……いしきがぁ……(ぶくぶく)
「三人ともそこまで……」(パッチン)
「おごぉ!?」(ドサァ!)
伸ばした輪ゴムがハサミで千切られるように縄がほどけ身体が倒れる。
いったいなにが……?
「げはぁ……げはぁ……」
口の中の酸っぱい唾を吐き出しながら胃の内容物がこみ上げる。
(今日でこれ何回目だ……)
顔を上げる。(なんか小さな影がある)
「やぁ……」(ビシッ!)
ホームズがベイカー街を歩くようなイカした格好にコンタクトで色を変えたオッドアイ。鼠と書かれた帽子から出たツインテール。
幼馴染で無いほうの知り合いだ。(幼馴染が何人もいると思うなよ)
「ね、子音……ナカネ?」(下から読むとねかなんおね)
「にぃ……」(歯が綺麗に輝く)
「鼠」と書かれた帽子のツバを上げ、子音はニヒルに笑う。
「悪いけど」
首を抱きしめられるように持ち上げられる。(なんか、オレ、首に縁があるなぁ)
「玄斗くんはボクと用があるから昼食は取れないの……オーケー?」(ニヤァ)
「「「いいわけあるか!」」」
「うぉ!?」
首根っこを引っ掴まれる。
「にげるよおおおぉぉぉおぉぉぉ!」(素晴らしくいい笑顔)
「うぉおぉおおぉぉぉおぉおぉぉぉ!?」(かぜがぁあああぁぁ)
鼠のくせに脱兎のごとく逃げるなぁぁ!
「ここを曲がるよ!」
「うげぇ!?」
曲がり角の壁に肩がぶつかったぁぁぁ……!?
「「「逃がすかぁ!」」」(曲がり角を抜ける)
「「「いない!?」」」(首を横に振る)
「遠くに入ってないよねぇ……」(スズメの鳥目が廊下の先を見つめる)
「おかしいですねぇ……(タブレットを弄りだす)発信機ではこの辺にいるはずなんですけど」(追跡アプリを眺める)
「あたしから逃げるなんて生意気ナァ……」(ギリギリ)
「「「とにかく」」」(三人の目が睨みあう)
「「「先に捕まえた奴が玄斗(くん)を切り刻む!」」」
忍者のようにバッと消える。(後、お前らオレを切り刻むと言ったよな)
「……」
オレは子音に羽交い絞めされながら天井の壁に女の子の足の力だけで磔にされていた。
この学校には忍者しかいないのか?(チャクラとか練ったり、赤い仮面被ったり、変身したりしそう)
「うごかないで……(耳にふぅと息を吹きかけられる)猫と鳥はともかく龍は常時ボクたちの行動が見えるからこのまま食事をしよう?」
器用に片手だけでオレの男の身体を支えるとどこから取り出したのかポテチの封を開ける。(腕が三本ある気がする)
「はい、あぁ~~ん♪」
「……」
天井に張り付いたまま口にポテチを持っていかれる。
妙な気分になるなぁ……
(なんでこんな目に……)
口にポテチを入れる。(むしゃむしゃ……)
空中で食事という貴重な体験(したくもないけど)を経験しながら喉がごくんとなった。
亀梨玄斗は平穏に暮らしたい……(手首を愛しながら)
天井に張り付いて早三十分……
この妙な態勢にも慣れてくると変な下心も生まれてくる。
「あれ……なんか固くなってねぇ」(子音)
バストは85のFカップ。
背中から抱きか抱えられると嫌でも胸の大きさがわかる。
男としての本能が乳房の柔らかさにドキドキしてしまう。(どきがむねむね)
口の中もポテチの油でギトギト。(ぎとがあぶあぶ)
「なぁ……(首を向ける)もうそろそろ授業が始まるから降ろしてほしいんだけど」
「それはそうなんだけど……」(あはは……)
ギュッと背中に力が籠められ先の小さなぷっくりした乳房が背中を擦る。(これはなかなか……)
「午後の授業、抜き打ちテストがあるだぁ(苦笑い)。受けたくないなぁ……」(えへへ♪)
「そうか……(興味なし)じゃあ、降ろしてくれ」
「ボクはいいアイディアを思いついたんだ♪」(キリッ)
「聞きたくないがどうぞ……」(手だけどうぞの形を取る)
「私は君の揉め事に巻き込まれ、テストを受けたくとも受けられなかった。その責任は全部、玄斗くんにあり……ってことに」
「そ・ん・な・わけあるかあぁあぁぁぁぁ!」
「「「見つけた!」」」(連なる三重奏)
「「あ……?」」(目線が重なる)
いつの間にか真下で俺達を見上げるスズメ、マオ、龍子にオレはゾッとしなかった。(大声出し過ぎた)
まずい! このままだと非常にまずい! 逃げないとゴジラとガメラが夢の頂上決戦した後の東京と同じ末路をたどる。
ていうか人類に逃げ道無し。(エイリアン対プレデターみたいに……いや、ゴジラVSガメラVS使途ってところか?)
おい、子音、どうにかしろ!?
「はぁ……」
おい、なんだその諦めきったため息は!?
「ゲームオーバー……キミは喰われて私は怒られる……ウィンウィンだね」(パッ)
「え……?」(ビュッ……)
重力がオレを支配する……
三人のケダモノが両手を広げる。
現実がオレから逃げる。
「生きてたらまた逢おうね……」
ゴキブリのように天井を這っていく子音にオレは……(プツッ……)
今回、子音という少女登場です。中国四神、十二支、後、麒麟なども出せればいいなと思ってます。
十二星座などもヘビツカイも含めてキャラクターを作れるといいなぁ……
まぁ、どうなるかは後で考えればいいか……