(軽度に)敗北者の賛歌
「……」
人の消えた体育館の壇上でオレは片足に肘を乗せて黄昏を見る。
「……」
あれだけ派手に並べられていたライブを見る客のために用意したパイプ椅子も綺麗に片づけられ茶色い木目の床が露になっていた。
ライブも終わり電気も薄っすらとしかない暗い体育館は不思議と心が落ち着いた。
「負けた……」
自分で売ったケンカの上に勝負の土台は自分のステージ。
明らかに有利な状態で獣字学院は見事に負けた。
「桁」や「段」が違うとはよく言うがあれはもう「次元」が違った。
マオ達が演じたライブのステージは身内目線で見ても最高のパフォーマンスだった。
今年一番のいい舞台と言っても文句のないハイレベルなライブだった。
それでも負けた。
星字学院のほうが遥かにアイドルとしての輝きが上だった。
まるで投げたボールが突風で押し戻され手元に戻ってくるようなありえない虚無感が心を支配している。
自分の開いた手を見ると「ライブ」と書かれたボールが収められてるような気がしより虚無感が強くなる。
「はぁ……」
「見事だったね……」
「麟道?」
振り返ると長い金髪をファサァとかきあげる美少女・麟道キキが「麒麟」と書かれた扇子で口を隠している。
「いい舞台だったけど……負けたね」
ニッコリ。
「……」
コイツは……
「勝敗は明らか……星字学院のほうが強かった。それだけ」
言い返す言葉がない。
「悔しい?」
いや、全然……
「それとも悔しさすら感じないほど打ちのめされた」
まさにその通りだな。
「今年のアイドルインターハイ、どうする?」
それを考えるために夕方を超えてもいまだに体育館に残って黄昏てたんだろう。
「ふふっ……♪」
扇子の羽を仕舞う音が聞こえる。
「出す言葉が見つからないってところだね」
目線を合わせてないから麟道がどんな顔をしてるかわからないが口調そのものは言葉の軽さとは裏腹にかなり重くシリアスだった。
麟道なりに気を使ってるのかもしれない。
「じゃあ、とりあえず今回のライブの結果を私の独断だけど……」
来たか。聞きたくない言葉が……
「約束だからね。部費は大幅減額♪」
漫画やゲームのように「最高の輝きだったから部費を増額する」なんて夢物語はやはりないか。
いや、今更言い訳する気もない。こっちは策を張りつくした。策を張って全てが裏目裏目に出て最後は自滅したのだ。
客数を集めるために星字学院を利用してインチキ同然のカウント数を稼いで……
勝てると思っていた相手には惨敗し……
最後は部費の減額を言い渡される。
笑ってしまうほど咬ませ犬が自分の立場を忘れて食い殺される典型だ。
「でも」
また扇子の開く音が聞こえる。
「このまま問答無用はかわいそうだからね……これ、あげる」
「……チラシ?」
見ると大きな文字と可愛い女の子がいい笑顔で「地域アイドルVSバトル」参加者募集の文字が書かれている。
「これって……?」
「非公式のアイドルバトル。優勝賞金を見てごらん」
「……」
優勝賞金の額。これって……
軽く今までのウチのアイドル部の部費を賄うどころかおつりが出るほど高額な優勝賞金だ。
地域イベントに不釣り合いないい金額だ。裏があるといっても誰も疑わないだろう。
しかも出場資格は「いきつけの町」の周辺の学生アイドルなら誰でも出場可能。
おいしすぎて逆に怪しさがトイレの便座以上に異臭を放ちプンプンと鼻腔を刺激する。
「いい話だと思わない。条件はあるけどね……」
「出場枠は各学校1人まで……」
純粋にソロの実力を見る大会か……
「自信がない?」
「麟道、これを見せてなにがしたいんだ?」
「純粋に君を応援したいだけだよ。こう見えてアイドル部のファンだからね」
「……」
いけしゃあしゃあと……
「犬養……」
「呼びましたか?」
「わぁ!?」
麟道の高い声が体育館の壁を打つ。
「いつの間にそこにいたの!?」
チラシを闇に紛れて顔が見えない犬養に渡す。
「出場の枠をとっといてくれ……」
「御意に」
犬養のスラリとした肉体が体育館の闇の中へと消え、姿をくらます。
犬というよりも忍者だな、あれは……
「麟道……」
「な、なに?」
犬養の存在に多少戸惑っているのか麟道の声が震える。
「これが終わったら埋め合わせしてやるよ」
麟道の声が弾む。
「その答えが聞きたかったのよ♪」
壇上から飛び降り、オレは踊るように体育館の真中へと歩き背中から倒れる。バタンッと……
「勝てるかな……」
「地域アイドルVSバトル」 のことでない。
その先にある「アイドルインターハイ」のことだ。
頭の中はいまだに星字学院に負けたことで気力をそがれている。




