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妖銃戦姫  作者: 夢見るうさぎ
第一章 〜妖銃戦姫とトリガー〜
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流れてる ニュースの情報 被害増

 目覚ましで起きた私は吹雪に腕をぶつけないように気にしながらアラームを止めた。

 昨夜は結局銃の話はせずに風呂から上がってさっさと就寝した。吹雪も無表情のままで特にいつもと変わりなかったので、そこまで気にしているとは思えなかった。

 低血圧なのか寝起きが悪いのか、吹雪はまたも瞼を閉じたままふらふらと飛行するとそのまま天井に激突してベットの上に落下した。慌てて声を掛けるも吹雪は何事もなかったように起き上がり、私に挨拶をしてからさっさと部屋から出て行ってしまう。

 寝惚けていたのが恥ずかしかったのかと思い、私は敢えて何も言わなかった。


 私が下に降りてくると吹雪はいつものコートに着替えていた。そして髪型は昨夜のポニーテールになっていたのだった。


「おっ、今日はポニーテールなの?」


「はい、ミヤマシキ様からこのキラキラ光る紙紐をいただきましたので、折角ですからこれからはこの髪型にしようかと思っています」


 私に見えるように背中を向けた吹雪の髪は、私が結んだ時よりも綺麗に整っていた。

 吹雪の髪は不思議な色をしている。一本だと銀色に見えるのに、髪が重なると深い青色に見えるのだ。光の屈折や髪を通過する光の種類から青色だと錯覚しているだけなのかもしれないが、結ぶことによって束ねた髪は毛先以外は青一色にしか見えない。

 私は吹雪の髪型を崩さないように頭に指を乗せて苦笑を漏らす。


「別に気にしなくても良いのに。自分の好きな髪型にしなよ。それからそれの名前は髪ゴムね。キラキラしているのはラメって言うのを混ぜ込んでるからだよ」


 小さな頭にトントンと軽く触れてから台所へと向かった。




 〜では、次のニュースです〜


「昨日から全国各地でボヤ騒ぎが起こり、消防が出動する事態になっていたことが分かりました。原因はまだ分かっておりませんが、妖銃戦姫と呼ばれる生き物が起こしたのではないかと関係各所に問い合わせが入っているようです」


「今朝ボヤ騒ぎが起きたと思われる現場に中継が繋がっています」


「……はい、こちらが消防に火事が起こっていると通報のあったお宅のようです。窓から見える室内が真っ黒になっています。一体何があったのか周りの方に聞いてみたところ〜〜……」




「これさぁ、炎属性か雷属性の子が属性解放したんじゃね?」


「恐らくはそうだと思います」


 朝ご飯を食べながらニュースを見ていると、火事のあった家の近所に住んでいるという人が張り切って喋っていた。何だか妖銃戦姫とその家の住人の悪口を有る事無い事言っているようだが、昨今のニュース事情は大体こんなものなので話半分に聞き流す。

 ポリポリと漬物を咀嚼し終わってからテレビの方を向いた吹雪は、勢い良く顔に当たった髪を煩わしそうに手で払っている。ポニーテールを気に入ってくれたようだが、まだ首を振る時の感覚には慣れてはいないらしい。


 玄関を出て鍵をかける。今日も相変わらず仕事日和の晴天であった。まぁ事務仕事だから室内から出ないのだが。

 私はカバンが潰れないように肩に掛け直すと、マフラーに顔を埋めて歩き出した。

 勿論、吹雪はカバンの中である。


 今日は昨日の寄り道で購入した裁縫セットの中身を取り出して、吹雪のミニ弁当箱も作った。

 上に針や糸、下にハサミとボタンが入った2段の小さなプラスチック製のボックスは、上にオカズを入れ、下にご飯を詰めれば立派な弁当となった。自分の弁当を作る時よりも地味に時間が掛かったが大変上手に出来たと思う。


 会社に着いてカバンをロッカーに入れると、吹雪がチャックの隙間から手を振ってくれた。普通なら微笑ましく思うのだろうが、小さな腕が自分のカバンから飛び出してゆらゆら揺れている光景は少しホラーだ。

 私は少しだけ口元を引きつらすと、吹雪の手の平に指先をタッチしてからロッカーを閉めた。


 今日はボヤ騒ぎが各地で広まっているからか、朝から臨時会議があった。書籍を扱う我が会社にとって火は厳禁である。一部の妖銃戦姫達の属性解放が原因であることはまだ世間に知られていないので、今回の議題は火元の二重確認と消化器の使い方についてだった。

 確かに二重確認も消火器についても大切だが、我が会社では年に一度防災訓練があるので今回の書類を通しての注意はあまり意味がない気がする。まぁ心に留めて置くのも大事か。……私は何目線なんだ?


 会議が終わった後は通常通りの仕事だった。12月中旬は徐々に注文や問い合わせが減ってくるので、会議に時間を取られても特に支障は無い。

 時間通り仕事を切り上げて皆で移動した。

 ロッカーを開けると自分のミニ弁当を食べ終わったらしい吹雪が、その弁当箱を枕にして眠っていた。仕事をしている身としては大変羨ましい光景である。

 皆に不審がられないようにすぐに弁当箱を取り出してロッカーを閉める。

 昨日も同じように吹雪を起こさないように弁当箱を取り出したことを思い出した。

 今日は玉子焼きは無事だろうと心の中で拍手喝采が飛び交う。やはり私はデザート感覚で最後に玉子焼きを食べないと午後が締まらないのだ。


 報告、無事ではありませんでした。


 玉子焼きに半分かじられた跡があったのだ。

 そこで思い出すのは吹雪の弁当だ。私の弁当の中身をそのまま小さくして同じように詰め込んだので、吹雪お気に入りの玉子焼きは食べカスくらいのサイズだった。

 卵2個分の玉子焼きさえも完食する吹雪には量が少なかったかもしれない。しかも折角縫い針を箸代わりに付けておいたのに、この玉子焼きは直接口を付けたと思われる小さな歯型があった。虫や動物に齧られたみたいで若干食欲が失せる。


 午後からの仕事は自分でも分かる程いつもよりもテンションが低かった。しっかり食べたけど半分じゃヤル気が出ない。やはり玉子焼きはちゃんと食べたかった。




 家に帰ってカバンを開けると、吹雪が羽を伸ばしながら悠々と出てきた。私はそれをジト目で見ながら吹雪と目が合うのを待つ。話をする時は相手の目を見るというのが我が家のルールであった。


「ちょいと吹雪さんや。お昼の玉子焼きについて聞きたい事があるんですがね?」


 吹雪がこちらを振り向いて目が合ったタイミングで話しかける。ジト目ではあるが出来るだけ怒っていない感じを出す為に口調を崩す。

 私の言葉を聞いた吹雪はコクリと小さく頷いた。


「美味しかったです」


「いや、味の感想を聞きたいわけじゃないの。私の分まで食べていたことについてなんだけど」


「私の分として用意していただいた玉子焼きの量があまりにも少なかったものですから、エネルギー不足が長く続くと長時間の睡眠移行(スリープモード)に入るので、これはミヤマシキ様の分を分けていただくしかないと」


「それで私の分を半分食べたと?」


 吹雪は無表情のままはい、と返事をした。

 私は軽く頭を抑えて溜息を飲み込む。


「分かった。私が吹雪の分量を間違えたのが悪かった。次からは玉子焼きだけ個別にするよ。明日は仕事休みだから部屋片付けたら箱みたいなの出てくるでしょ」


 飲み込み切れなかった溜息が声と一緒に滑り出たかのように力無く言葉を紡ぐ。吹雪はそれを聞いて瞬きを繰り返した。


「部屋の片付けをされるのですか?」


「うん、あの物置部屋。昔お姉ちゃんが大事にしてた着せ替え人形とか小物が置いてあったはずだから、使えそうな物がないか探そうと思って。後、流石に扉も開けられない程に物だらけだと、いつか床が抜けそうで怖い」


 ファッション雑誌の好きな高校時代の先輩が、集めていた雑誌を捨てる事が出来ず床に平積みし続け、床板に沿って50㎝程の切れ込みが入ったと言っていたことがあった。

 先輩の部屋は1階だったらしいが、我が家の物置部屋は2階である。もしも床が抜けた場合は被害が甚大だろう。早急に対処する必要がある。


 簡単に素うどんを作って食べると、風呂に入る前にもう一度物置部屋を確認する。

 私の肩に乗っている吹雪は何だか乗り気ではないようで、「このままで良いのでは?」「これだけ物があったら収集が付かなくなりますよ」と私の耳元に囁いてくる。

 私は取り敢えず、明日また考えると言って部屋から出るのだった。


 やるなと言われるとやりたくなる。性格の悪い私です、はい。

 明日は午前に買い物に行って、午後からは大掃除といこうじゃないか。


 一緒に風呂に入って髪を洗うと、タオルである程度水分を取ってからドライヤーで乾かす。吹雪の場合は髪の毛の細さのおかげでタオルドライだけで済むので、私がドライヤーをかけている間は私の背後で何かしているようだった。

 一昨日は色々あって振り向くのが怖かったが、今日は大丈夫な気がする。そう思って勢い良く振り返ると、私に銃口を向けていた吹雪と目が合う。


「何してんのぉおおっ!?」


「あっ、すみません。ミヤマシキ様の髪で特訓をしておりまして、」


 一旦ドライヤーを切って話を聞いて見る。

 簡単に説明すると私の髪がドライヤーの風でバラバラに揺れ動くのを架空の敵、または攻撃に見立てて避けたりカウンターのタイミングを掴んだりという練習をしていたらしい。

 そういうのは一言言って欲しかった。振り返ったらあの恐ろしい銃口が向けられているという状況はあまりにも恐怖だ。恥ずかしながら若干下着が湿っている気がする。


 私は濡れ髪をそのままに、すぐに替えの下着を持ってトイレへと向かった。

 そして相変わらず無表情の吹雪を連れ立って寝室に行き、説教タイムに入る。

 流石にこれは許せん。


 昔から私は興奮すると早口になる。だが滑舌は良い方なのでしっかり噛まずに長台詞を言い切ることが出来た。

 今回はその特技を思いっきり吹雪に披露することになった。


「吹雪、君の銃は危険だとちゃんと分かっているの? 私に断りもなく発砲したり、私の背後で構えてみたりとあまりにも自由過ぎるんじゃないだろうか。まぁ、発砲に関しては私の発言が悪かったことは理解しているけど。だけど君自身もその時に銃の威力は分かったよね? 撃たないから、構えるだけだがら、私の背後に銃口を向けても良いと思ったわけ? 誤射の可能性も、私が突然後ろに倒れる可能性も、私の髪が絡まる可能性も、何もかもを考えることなく? ちょっと流石にさぁ……おかしいと思わねぇかなぁ? 少しは私の安全性を考慮しようよ。トリガーなら大丈夫とか思ってんだろうが、それは大きな勘違いだから。やり方さえ変えれば君でも私を殺せるから。人間って結構呆気なく死ぬから。それに他の事もそう。私に一言ないのが多いから。私が自分でこうなのかもしれないって納得してきたけど。流石に我慢の限界もあるからな? 何でもかんでも事後報告で許されると思うなよ。時間がないとか私がいないとかの理由もあるかもしれないけど、何かしらの伝える手段を模索しろ。お昼の件とか特に。せめて弁当箱は元の状態に戻すな。食ったんなら蓋開けとけ。こっちにも心の準備が必要なんだよ。だから……なぁ、聞いてる? もう一度繰り返した方が良い?」


「ごめんなさい……聞いて、ます」


 俯いている吹雪に問うと、蚊の鳴くような声が返ってきた。少し瞳が水気を帯びているように見える。


 そこまで強く叱ったつもりはないし、私としては注意事項を並べているだけなのだが、そんなに怖いだろうか。私のイメージだと吹雪は説教をされても、理屈を並べ立てて論破してくると思っていた。それがこうも素直に反省の意を示されると私が酷い女に思えてくる。

 これはいけない。これ以上は吹雪がキレて本当に私が死ぬかもしれない。


「まぁ、私にも責任はあるから。全部吹雪のせいじゃないし、まだ生まれたばかりだもんね。吹雪は賢いし頭も良いけど、知らないことだってあるもんね。こういうことは私がその場その場で注意するべきだったよ。急に分からないことを怒られても吹雪だって嫌だよね……本当にごめんなさい」


 ベットの上で土下座するように頭を下げると、正面から吹雪の焦ったような声が聞こえた。


「頭を上げて下さいっいや、やっぱり上げないで! あっ、違います。上げて良いんですっ」


 心の中で白い旗と赤い旗を上げ下げしてみる。結局私は頭を上げて良いのだろうか。悪いのだろうか。

 土下座している私と、その私の正面に立つ吹雪。暫くこの状態で嫌な沈黙が流れた。


「……もう、大丈夫です。頭を上げて下さい。私のトリガー、ミヤマシキ様」


 何だか分からないが、落ち着いたらしい吹雪から厳かに名前を呼ばれた。ずっと疑問だったのだが、フルネームで呼ぶのは長くないだろうか。

 ゆっくりと吹雪を窺うように顔を上げると、口元を引攣らせた吹雪と目が合う。しかし吹雪は私と目が合った途端にゆっくりと溜息を吐いて脱力したようにその場に座り込んだ。


 そんなにも私は怖かったのだろうか。怒られるのが初めてだからこその反応なのだろうか。

 疑問は尽きないが、今夜は取り敢えず寝よう。6時間睡眠は大事だ。


 次の日の朝目覚めると、吹雪の端整な顔が目の前にあった。私の位置は変わっていないので、吹雪が転がって来たらしい。低血圧なところといい、寝相の悪さといい、天は二物を与えずという言葉は本当だったようだ。


 何気なく頰を触り、手に触れたいつもは無い感触に顔を歪める。

 頰にヨダレが付いていたのだ。吹雪が目覚める前に急いで顔を洗わねばならない。

 私は吹雪が起きないように、こっそりとベットから抜け出したのだった。

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