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妖銃戦姫  作者: 夢見るうさぎ
第一章 〜妖銃戦姫とトリガー〜
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まずいらしい 微妙な空気 流れてる

 鍋に具材を入れて煮詰め、後は食べるだけというタイミングで吹雪を呼びに行った。

 先程2階へと上がってから降りて来ないが、晩御飯は食べてくれるだろうか。


 私の寝室を見てみるもそこには居らず、別の部屋を覗いても吹雪は見当たらなかった。いつの間にか1階へと降りて来たのだろうかと思って下の部屋も探すが見つからない。

 まさか出て行ってしまったのだろうかと不安になる。昨日まではどうやって追い出そうかと考えていたのに、いざ実際に居なくなられると物凄く不安になり胸が騒ついた。

 この地域は山が近い為、狸が小さなペットを襲ったという話をよく聞く。吹雪の小さな身体では簡単に食べられてしまうだろう。


「吹雪! 吹雪いないの!? 返事してよっ‼︎」


 不安に駆られて大きな声で吹雪を呼ぶと、2階からガタンと大きな音がした。

 この家はよくポルターガイスト的な現象が起こる。最初の頃はお隣さんの物音が聞こえるだけだと家族で笑っていたが、物の位置が移動したり写真におかしな物が写り込むのまでは笑えなかった。しかし実際に害があったことはないので気にしないようにして過ごしているのだ。

 またお隣さんの物音か、それともポルターガイストかと思い無視しようとしたが、ふと足を階段へと向ける。

 吹雪の可能性はないかと考えたのだ。


 音がしたのは階段の真上だったと思う。つまりは吹雪には案内していない物置部屋だ。

ゆっくり扉に手を掛けると扉の前に物が置かれているのか、10㎝程しか開かなかった。


「吹雪、いるの?」


「あ、はい。ここに居ります」


 中から声が聞こえ、すぐに扉の隙間から吹雪が飛んで来た。

 私は大きく溜息を吐いた。


「良かったぁ。返事ないし、どの部屋探してもいなかったから出て行ったのかと思った」


「申し訳ありません。呼ばれていたのですか? こちらでは何も聞こえなかったのですが」


「あぁ、良いよ。こんなごちゃごちゃ状態じゃあ、音も搔き消えるわなぁ」


 吹雪が廊下に出て来たので全力で扉を押し開けると、クッションやトイレットペーパーの買い置きなどが転がり出て来た。

 電気のスイッチを押すと私が最後に見た記憶よりも物が増えていた。

 恐らく母がこちらに帰ってくる度に要らない物を投げ込んでいたのだろう。

 見たこともない健康器具などが奥に置かれている。


 私が部屋の中を見回していると、空中で静止したままキョドキョドと視線を彷徨わせていた吹雪がボソリと何かを呟く。しかし声が小さ過ぎて聞こえなかった私は、んっ? と聞き返した。だが吹雪は何も答えずに1階へと飛んで行ってしまった。

 勝手に部屋に入ったことを気まずく思っているのかと考えた私はその行動を気にせず、電気のスイッチを切ってからゆっくりと下へと向かった。


 年末にはまた両親が帰ってくるので物置部屋の片付けをしておいた方が良いだろう。吹雪があの部屋で何をしていたのか分からないが、ある意味吹雪があの部屋に入らなかったらあの現状を知ることはなかった。そのことについては感謝だ。


「あっ、母さん達帰ってくるじゃん」


「……ミヤマシキ様のご家族が来られるのですか?」


 小皿に吹雪の分の具材をよそってやりながら考えていたことが口から出る。それを聞いた吹雪は小皿を受け取りながら首を傾げた。


 後2週間でクリスマス、そしてお正月を迎える。クリスマスはシングルベルするつもりだったが今年は吹雪がいるのでジングルベルになる。いや、女同士だからやはり独り者のシングルベルか、と意味が分からない事を考えながら現実逃避しようとする。


 その後のお正月には両親が帰ってくる上に、遠くで働いている姉と兄夫婦も帰って来るかもしれない。

 私はまだ吹雪のことを誰にも話していないが、家に来るのならずっと吹雪を隠し続けるのは難しいだろう。

 あぁ、悲しきかなシングルベル。


「あの、ミヤマシキ様? お顔が酷いですよ」


「顔が酷いって何っ!?」


「あ、戻った」


 私が吹雪の言葉に現実逃避を止めると吹雪は胸に手を当てて溜息を吐き、分かりやすく安心したと示す。

 私は自分の頬を撫でながら、考えていたことが顔に出ていたことを反省した。これからのことを思うとこの癖は直した方が良いだろう。


「あのさ吹雪。もうすぐお正月っていう新しい年を迎えるイベント? みたいなのが来るんだけどね。そのイベントのある1〜2週間は私の親とかがこの家に帰ってくると思うの。それでさ、吹雪のことどうしよっか?」


「どう、と言いますと?」


「私の両親って世間対とか常識とか気にする人だから、もしも吹雪のことを教えた後にニュースとかで妖銃戦姫の風当たりが強くなったら強引にでも施設とかに連れて行くと思うの。まぁそれは私の為を思ってなんだろうけど、そうなったら私がどんなに嫌がっても無駄だと思う。だから今回お正月で帰って来るにあたって、家族に話すか話さないかは吹雪に決めてもらいたい」


 私が長々と説明すると吹雪はピタリと固まった。質問をした時に首を傾げるでも瞬きをするでもない反応は初めてだ。


「私が……私が決めてもよろしいのですか?」


 恐る恐るという風な、か細い声で問うた吹雪に向かって大きく頷く。


「トリガーと妖銃戦姫って対等なんでしょ? これは吹雪の今後を左右することだと思うから吹雪が決めた方が良い。それと……その、さっきはごめんね。会社に着いて来るのは別に迷惑じゃないよ」


 私が若干目を逸らしながら謝ると、吹雪はパチパチと瞬きをしてやがてふわりと微笑んだ。


 先程の事を謝るタイミングをずっと考えていたのだが、どうやら正解だったらしい。吹雪の女神の微笑を拝みながら私も思わずニッコリと笑った。夜だけどやっぱり後光が差している気がする。


 家族に話すかどうかはまだ日程があるので暫く保留することになった。

 鍋も食べ終わり、甘党だと思われる吹雪に実は帰り道に買って来たカップアイスを贈呈する。食べ切れない分は蓋をして後日食べて貰うつもりだったが、またもお腹を膨らませて完食していた。

 何だかペットを飼っているような気分になる。


 食器を片付けてから風呂の用意をすると、さっさと服を脱いでいた吹雪のお腹を見て私は目を見開いた。


「あれ……お腹出てる」


「先程ミヤマシキ様から頂いたアイスが消費されておりませんので」


「え? でも……昨日は?」


 私がわなわなと身体を震わせながら聞くと、吹雪は無表情のままバッサリと言い放つ。


「昨日は属性解放でエネルギーを消費しましたので。何もしていない今の状態ではこれが普通だと思いますが」


「アレはそれが原因か! いや、それよりもそのエネルギー消費とやらをさっさとしてしまおう。その完璧フェイスと羨まスタイルにぽっこりお腹は似合わない!」


 妊婦さんなら可。しかしただの食べ過ぎは許さん。

 自分でアイスを贈呈しておいて何だが、こうなるはずじゃなかった。


 私がビシッと吹雪に指差しながら(人を指差してはいけません)言い返すと、吹雪は首を傾げた後にポンッと手の平に拳を打った。

 そしていそいそと服を着直すと桶にお湯をたっぷり入れて床のタイルに置いた。そして浴室の角上に飛んでいき空中で出現させた銃を構える。


「え……何っ、⁈ っぬおぉ‼︎」


 スズメの鳴き声のような銃声が6発。そして婦女子に有るまじき雄叫びらしきものが自分の口から発せられる。

 耳鳴りがする程の静寂に包まれた浴室で私は一切動けなくなった。

 吹雪は銃を消してからすいっと桶の方へ飛んで行き、桶に張ったお湯をノックするように軽く拳をぶつけた。そしてゴトゴトと桶の中で揺れる氷に満足そうに頷いている。


「……ぉおお湯が凍ったのっ!?」


「はい、表面部分だけのようですが。どうやら私の最高連射回数は6発のようですね。撃ち終わった後は弾丸を補充するタイムロスが有るようです。ですが狙いは上々ですね」


 吹雪はそう言ってまたも銃を空中に出現させたが、私は金縛りが解けたように即座に壁へと後退りする。


 またも有り得ない現象が起きた。

 吹雪が浴室の角から撃った弾丸は全て桶の中のお湯に命中した。それは大きな水飛沫を上げたと思うのも束の間、その水飛沫ごとキラキラと光る個体へと変質した。氷になってしまったのだ。

 あの直径5㎝程の銃から弾丸が本当に発射された。浴室の角から桶までは空間における直線距離で1.5〜2mはあっただろう。あのサイズでは有り得ない程の飛距離が出ている。

 そもそも属性の話は聞いていたが、弾丸に触れただけで凍り付くなんて誰が信じられようか。

 弾丸内部に液体窒素でも込められているのではないか。それならまだ理解出来る。そうすると吹雪は液体窒素を作り出す能力を持っているということだろうか。だがこれもまた馬鹿げている。液体窒素に触れて生きていられる生物などいないはずだ。一度凍結してから復活する虫などの話は聞いたことがあるが、吹雪がそれだとでも言うのか。

 そうか、吹雪はヒヨコではなく虫だったのか。


「……ミヤマシキ様、これ以上私の話を聞いて下さらないのなら、もう一度撃ちますね」


「ノーーッ‼︎ ちょっいや、はっ⁈ えっ何!?」


 私が長い現実逃避から帰還すると、眉を寄せた吹雪が桶に銃口を向けていた。急に話しかけられたと思ったが、いつの間にか吹雪は不機嫌顔だ。


「やっと反応してくれましたね」


「え、え、何っ? どうしたの?」


「先程からずっと話しかけていたのですが、ミヤマシキ様は変顔をすることに夢中で私の言葉に一切耳を傾けてくださらないようでしたから。銃声なら聞いてくださるかと思いまして」


 またも考えていたことが表情に出ていたらしいが、変顔と言われるのは流石に傷付く。

 私は自分の頰を摘まみながら謝った。


「ごめんなさい。ちょっと思考が飛んでたみたい。話は聞いてたけど実際に見るのは違って……めちゃくちゃ怖かったんですけど」


 私の言葉を聞いた吹雪は無表情のまま肩を竦めた。そして何も言わず服を脱ぎ始める。

 私はその様子を壁に背中を付けたまま見ていたが、あることに気付いて一気に体勢を崩した。


「お腹! お腹がない!」


「お腹は有りますが?」


「いや、そうじゃない。私の言い方が間違っていた! お腹! お腹が凹んでんじゃん!」


 服を脱いだ吹雪のお腹は昨日と同じで括れが出来ていた。先程までのぽっこり感がなくなっている。

 吹雪は私から視線を逸らすと、無言のまま脱いだ服を洗面台の方に持って行き、昨日教えたように掛け湯をしてから身体を洗い始めた。それを見て我に返った私も一旦洗面所に戻って服を脱いで、帰り道に買って来た物を引っ掴んでから浴室へ入っていった。


 何と無く気まずいが私から話しかけなければ吹雪は黙ったままだろう。色々と聞きたい事も言いたいこともあるがそれは一旦置いておく事にする。

 私は身体を洗う吹雪の背後に正座すると失礼、と声を掛けて吹雪の髪を持ち上げた。

 吹雪は気配で察していたのか何も言わずに身体を洗い続けている。それを良いことに私は吹雪の髪を勝手に弄った。

 暫く好き勝手にした後に完成、と声を出すと吹雪も流石に口を開く。


「髪を結って下さったんですね」


「うん、昨日吹雪の髪がお湯に直接浸かってるのを見て、折角洗ったのに浴槽のばい菌が付いて汚いよなって思って。私、正しいお団子結びの仕方知らないからポニーテールしか出来ないんだけど、まぁその長さなら大丈夫でしょ」


 アイスと一緒に買って来た小さな髪ゴム。最近は指輪の様なサイズの物も売っているので吹雪の毛量にはピッタリだった。

 全体的に緑色でラメの入った髪ゴムは40本入りで100円である。こんなに使わないがまぁ良いだろう。百均市って素晴らしい。

 吹雪の髪は腰よりも短いぐらいの長さなので、ポニーテールにして肩下の長さまでアップすることが出来た。肩まで湯に浸かるとアウトだが、毛先が濡れるくらいなら問題ないだろう。

 髪留めがあれば更に毛先の方を上に上げられるが、吹雪のサイズの髪留めは見つからなかったので仕方ない。

 タオルで巻いても良いのだが、これまた吹雪の頭のサイズのタオルがないので暫くはこれで我慢してもらうことにする。

 吹雪は濡れた手の水気を切ってから自分の髪に触れて手櫛ですく。そしてポニーテールの感覚に慣れて来たと思われる頃合いでコクリと頷いた。


「涼しいです。それに無駄に濡れないので便利です。ありがとうございます」


「どう致しまして。冬場は汗かかないし、毎日髪を洗うと風邪引きそうだからね。まぁ本当なら衛生的にも毎日洗った方が良いんだろうけど、面倒な日もあるしねぇ。取り敢えず今日はそのままで良いんじゃない?」


「はい、そうします」


 無表情だが何と無く声を弾ませた吹雪は、そのまま羽を広げてバタバタと震わせた。羽の水気も取っているらしい。そして粗方水気を切ってからふわりと飛んだ吹雪はそのまま浴槽の方へ向かう。

 私はその様子を横目で見ながら自分の身体を洗い始めた。

 ふと思ったのだが、着せ替え人形用の小物があれば吹雪が使えるのではないだろうか。コーヒーを入れたオモチャのカップは棚に飾っていたクマのぬいぐるみの持ち物だった。物置部屋には幼少期に姉が持っていた人形や小物が眠っているはずなので、本格的に掃除するのも手だろう。そう考えてから孫を物で釣るお爺ちゃんの映像が頭に浮かんだ。

 私は自分の頬を指でピシピシと弾いた。

 ペットを可愛がる原理だと思い込む事にしよう。そうしよう。


 さっさと身体を洗って化粧も落とすと、先に湯船な浸かっている吹雪にお湯が掛からないようにゆっくりと浴槽に身体を沈めた。


 さっきの事が曖昧なままだが何でもかんでも質問するのも面倒臭い。吹雪は私がエネルギー消費をしろと言ったから銃を使用したのだろう。私の言い方が駄目だったのだ。吹雪は言われたことをしたのに私が放心しているのを見て不機嫌になったのだと思う。

 総じて私が駄目だったことが分かった。反省しなければならない。


 2人して無言で湯船に浸かってはいたが、それは大して気まずいとは感じなかった。お風呂ってこういう時は凄いと思う。

段々と1話ごとの話が長くなっていく。

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