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妖銃戦姫  作者: 夢見るうさぎ
第一章 〜妖銃戦姫とトリガー〜
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超生物 脱いだらやっぱり 凄かった

 私は妖銃戦姫と目を合わせると、顔の前で両手を合わせて謝った。


「ごめんなさいっ! さっきの悪どい笑みには君が思っているような意味は込めてないの! 本当は家の広さとかを自慢したかったからで、そのっ気分を悪くさせてしまったのは謝るけど、えーっと、特に意味はなかったというか、そのぉ……」


 特に言葉を考える事なく勢いで口を開いた為、後半が尻すぼみになっていく。

 顔がじわじわと熱を持っているので、私の顔はきっと真っ赤だろう。

 あまりの恥ずかしさに涙が出そうになる。


 それでもモゴモゴと謝罪の言葉を呟くように続けると、妖銃戦姫から声を掛けられた。


「では、罠はないのでしょうか」


「うん、そう! 勘違いさせてごめんねっ」


 餌に食いついた魚のように妖銃戦姫の問いに返事を被せる。

 しかし私がそう言った直後、またも彼女は一瞬だけ眉間に皺を寄せた。


 ビクッと思わず身体が揺れる。

 やはり納得出来ないのだろうか。

 勘違いだったのだから私が全部悪いとは限らないと思うが、それを言えるはずもない。


「分かりました。では、部屋に関してはミヤマシキ様の寝室にさせてもらいます」


 えっ? うそん。


 突然話題が戻ってきたと思ったら、まさかの一番選んで欲しくない部屋を指定された。

 こんなことなら最初から私の部屋は除外しておけば良かった。


 私の左肩に座り直した妖銃戦姫は無表情だったが、怒っているようには見えない。

 これは部屋に連れて行けということだろうか。


 誤解が解けたことを良かったと思う一方。

 一緒の部屋で寝なければならない恐怖を思うと背中を冷たい汗が伝う。

 これなら私が別の部屋に寝ても良いかもしれない。

 いや、それが良い。そうしよう。


「分かった。それなら私は別の部屋に寝るね」


「いえ、一緒の部屋でお願いします。もしも別の部屋で眠っている間に何かされたら嫌ですから」


 私が纏っていた空気が凍りついた。

 実際に凍りついたのではなく、場の空気感や雰囲気のことだ。


 階段を上りきる一歩手前で足を止めた私は、笑顔を引きつらせて恐る恐る口を開く。


「あの、やっぱり、怒ってる?」


 さっきの誤解がまだ解けていないのかと思い、少しだけ怒りが込み上げてくる。


 何で私はこんなにコレのことを気にしなければならないのだろう。

 いや、拾ったからだ。そしてメチャクチャ怖いからだ。逆らったら凍らされる。

 怒りは荷物を抱えて直ぐに逃げ出した。


 私の言葉を聞いた妖銃戦姫は、私の左頬に強弱をつけて何度も自分の手を押し付けた。

 私の頰で遊ぶんじゃない。


「ミヤマシキ様は私のことを疑っておられます。相手を疑うということは、自分にも何かしらの疑われるような事があるのだと推測します。ですから私はミヤマシキ様から目を離したくありません」


 要約、お前こそ疑わしいから見張ってやんよ!


 何という超理論。

 別に何かしようとは思っていないのに疑われるという不愉快感。


 私は丁度左頬が潰れたタイミングで深く深く溜息を吐き切ると、分かったと返事を返した。


 この時の私は、似た様な疑いを現在進行形で彼女に抱いていたということには気付いていなかった。




 妖銃戦姫にベットの上に乗ることを勧めた私は、流石に一緒に寝るのなら風呂に入るべきだろうと思い部屋を後にしようとした。


「どこに行かれるのですか?」


 私の枕の上にちょこんと腰を下ろした妖銃戦姫は、扉に手を掛ける私に声をかけた。

 私は首だけ振り向いてお風呂、と返す。

 すると彼女は羽を広げて私の前に飛んで来た。


「私もお願いします。全体的に土の匂いがするのが不快でしたので」


 それを聞いて私は納得する。

 最初見た時に地面の上で大変な格好で倒れていたことを思い出したからだ。

 あの時は適当に砂を払っただけなので、まだ汚れている可能性は大きいだろう。


 まだ恐怖感は消えていないが、女同士だし裸なら大丈夫かもしれないと思って了承した。

 あの時、妖銃戦姫がどうやって冷気を発したかは分からなかったが、恐らく所持していた銃が関係すると思う。でなければ何故それを所持しているのか分からない。

 ただの飾りだと言われたらそれまでだが。


 浴室に移動した私は両腕と両足の裾を捲り上げた。

 そして浴槽に湯が溜まってきたところで、桶に湯を移すと私の髪を掴みながら頭の上からその作業を見ていた妖銃戦姫に声を掛ける。


「さて、洗ってあげるから服を……その服って脱げるの?」


 服を脱いで、と言おうとしたが声を掛けたタイミングで目の前に降りて来た妖銃戦姫の羽を見て本当に脱げるのか疑問になった。

 すると彼女は大丈夫です、と言って浴室のタイルの上に着地し、器用に服を脱ぎ始めた。

 今更気付いたが、家の中なのにブーツを履かせたままだった。


 羽を広げたと思うとクルリと横に細長く丸まった4本の羽だった物は、まるで猫の尻尾のようにふんわりと揺れて付け根の穴の部分から背中へと潜っていった。そしてそのまま人間と同じように服を脱いだ彼女は、その様子を見つめていた私と目を合わせて首を傾げる。


「ミヤマシキ様は脱がれないのですか?」


「あっ、私は君を洗ってから入るよ。一緒に入ったら落ち着かないでしょ?」


「いえ、先程も言いましたがミヤマシキ様をお一人の状態にしたくありません。一緒に入って欲しいです」


 私はまたも笑顔が引き攣る。

 何と無くそう言われるとは覚悟していたが、実際に言われると少々腹が立つ。だがやはり怒りは直ぐにいなくなった。怖いからだ。


「分かった。この服は私のと一緒に洗って良い?」


「いえ、洗わなくても結構です」


 洗濯は断られたがそのままにしておく訳にもいかず、妖銃戦姫が脱いだ小さな服を摘んで脱衣所に持って行くと、洗面台の上のスペースに畳んで置いておいた。

 そして今度は自分の服に手をかける。


 それにしても顔の造りが完璧なところから予想は出来ていたが、やはり身体も凄かった。

 全体的に小さいが、あの姿で人間サイズまで大きくなったらアイドルもモデルも当たり前にこなせるだろう。

 ニーハイブーツとスカートの隙間から見えていた太腿から細いのは分かっていたが、上に関しては着痩せするタイプだったらしい。

 しかしさっきの玉子焼き太りはどこに行ったのだろう。もう括れの綺麗なスッキリしたお腹周りに戻っていた。


 チラリと自分の身体を見下ろして溜息を吐く。

 何だか浴室の扉を開けるのが妙に虚しく感じてきた。

 それでも早くしないと妖銃戦姫が冷えてしまうと思い、服を洗濯機に放り込んで浴室へと入って行った。




 洗ってあげようと思っていたが、私が指や手を使って撫で回すのは女同士と言えども明らかな変態行為ではないかと思い留まり、シャンプーやボディーソープなどの違いを教えて自分でやらせた。


 私もその時に一緒に身体や髪を洗って見本を見せ、最終的に同じタイミングで浴槽に浸かる。

 妖銃戦姫には桶を用意していたが、冬場だからか直ぐに冷える事が判明したので一緒に入る事になった。


 裸になって一緒に浴槽に浸かると恐怖心も薄まったように思える。

 だからここで先程のことを聞くべきだと考えた。


「あのさ、さっきの冷気を発する力ってどうやってやったの? あ、実践はしなくて良いからねっ!?」


 お湯を凍らされたら死ぬ。

 そう思って慌てて言い募ると、彼女は無表情ながらも温かさで頰を赤らめながら淡々とした口調で答えた。


「いえ、大丈夫です。あれは一生に一度しか発動出来ない力でしたので、やれと言われても出来ません」


「えっ、一度しか使えない技を使ったの!?」


 私を脅す為だけに一生物を捨てるとは、何という無駄遣いだろう。

 どうせ私とは明日までの縁だというのに。


 驚いたことで湯が揺れて小さな波が起こり妖銃戦姫に向かって行ったが、彼女は何も言わず背中の羽で風を送る事で波を打ち消していた。

 そして波が粗方収まると、湯に浸かったまま此方を見上げる。

 ちなみに彼女は浴槽の中のステップの上で寛いでいた。


「あれは技ではありません。大量のエネルギーを使用して自分の属性を解放する、謂わば栓抜きのようなものです。その際に溢れてしまった属性が冷気となってしまったようです」


「え、え、どゆこと?」


「私達はそれぞれ属性を持っていますが、自分がどの属性なのかは先程の属性解放を行わないと分からないのです。私は氷属性だったようですね。他には炎や土、風などの全部で7つの属性があります」


 私はザブリとお湯を掬って顔にかける。

 何だか本格的にファンタジーじみてきた。


「まぁ、あれがもう使えないって言うのは分かったよ。本当に何であのタイミングで実行しようと思ったのかは疑問が残るけど。で? その属性ってそれぞれどんな効果があるの?」


 そう質問すると妖銃戦姫は何もない空中であの黒い銃を出現させた。マジックなのか特殊能力なのか分からないが、裸の相手に銃は卑怯だと思う。

 思わず立ち上がりそうになった私を手で制した妖銃戦姫は、目の前で銃を分解し始めた。

 銃が湯に浸かっているが、大丈夫なのだろうか。


 手慣れたように素早く分解した妖銃戦姫は、小さな手の平に更に小さな粒のような物を置いて私に見せてくれた。


「この弾丸は私達が銃に触れて力を込めることで補充されます。そしてこの弾丸こそが私達が属性で作り上げた特殊な物なのです。私の属性は氷ですから、この弾丸で打った相手を少しだけ凍らせることが出来るはずです」


 そう言ってから銃に向けて手を翳すと、粉雪のような白い物を舞わせながら銃が消えた。

 脱衣所から帰って来た時には銃を持っていなかったので、てっきり何処かに置いたか隠したのかと思っていたのだが、やはり銃も普通じゃなかった。


「それぞれの属性で効果は違います。炎は相手を燃やし、雷は感電させ、土は大きく硬い弾丸を生み出し、緑は相手を蔦で絡めとり、光は視力を一時的に奪い、風は相手を切り裂きます」


「何で君らそんな恐ろしい属性ばっかり持ってんの!?」


 私がそう叫ぶと、妖銃戦姫は沈黙した。

 浴室だから声が響いて煩かったのかもしれないと思った私は慌ててごめん、と謝る。しかし彼女は首を横に振った。


「違います……。私自身不思議に思っていたのです。まるで戦うことを定められたように属性を所持している私達は、一体何をすれば良いのでしょうか? 誰と戦えば良いのでしょうか?」


 俯き加減で呟かれた思いは、浴室に反響して私にもしっかりと届いた。


 そもそも何故、妖銃戦姫はこの地球に来たのだろう。昔来たことがあるのと関係するのだろうか?


「ねぇ、何で君らはここに来たの?」


「……ある目的を達成する為です」


「ある目的って?」


 私の質問に妖銃戦姫は顔を上げた。

 不思議な事に一瞬だけ、銀混じりだと思っていた瞳が青一色となり、光輝いているように見えた気がした。


「私達の目的は、私達の誰か一人が女王主(じょうおうしゅ)になることです」


 また分からない単語が出た。


「女王シュって何なの?」


 言葉から女王とシュという単語が合わさったものだとは推測出来る。種なのか主なのかは定かじゃないがどちらの意味でも凄い立場だろうことは何となく分かった。


 妖銃戦姫はまたも俯き、小さな声を出す。


「女王主とは妖銃戦姫を統括し、生み出せる存在です。先代の女王主である光の御子(みこ)様は私達にその情報だけを植え付け、地球近くに移動した変幻霧(ワープルート)から私達の入った卵を落としたのです」


 不思議な色合いの長い髪が湯に浸かってバラバラに揺れる。

 それが今の彼女の心を表しているようで、少し胸が痛んだ。


 ただ情報を植え付けられ、その通りに行動する。しかしその情報は穴だらけ。

 自分が同じ立場ならその光のミコという人を恨むだろう。


 私は波が立たないようにゆっくりと腕を上げると、人差し指で妖銃戦姫の頭を撫でた。

 今はもう、恐怖感は消えていた。


 妖銃戦姫は何も言わず、暫くされるがままだった。

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