悲劇的 日常に染まり 喜劇的
どんよりとした気分を盛り上げる為にもテレビを観る事にした私達は、さっさと食べ終わった食器を片付けてツマミを並べた。
吹雪好みの甘いのも作ったので吹雪の気分も少しは上がってくれるだろう。
「……にしても何だろうね? 第二世代ってさー」
「あの、今日はその話は忘れるのではなかったのですか?」
吹雪の困惑したような声が聞こえたが、グビッと残り少なかった缶酎ハイを飲み干して続ける。
「だって気になるもんは気になるし。さっきからCM多いしー! これ10分前にもCMやってなかった⁉︎ 全然話が進まねーんだけどっ‼︎」
テレビが面白くない。いや面白い事は面白いのだ。しかし先程から何度もCMが入って楽しいというモチベーションが下がって来ていた。
新しい缶酎ハイを袋から出してカシュッと音を立ててプルタブを開けると、またぐびぐびと3口程飲み下す。
「だっはぁー‼︎ あぁ、アルコールなんて何ヶ月ぶりだろ? 夏は飲んでたけど秋になってからは飲まなくなったしなぁ。まず水分を欲しなくなったのよねー。年齢の問題かな?」
次いでツマミを片手で摘み上げて口の中に放り込む。豆系のツマミがあったら犬のように上に放って口でキャッチするという芸も披露出来たのだが、お生憎様。出来そうなのは裂きイカくらいしかない。
もう一口ツマミを口に放り込むと、やっとテレビがCMをあけた。
「んでさぁ〜。第二世代って吹雪達とどんな違いがあるんだろうねー。そもそも吹雪は本当に第一世代なの? 第二世代って自分で分かる物なの?」
グビッと一口缶酎ハイを飲む。洗い物が面倒なのでコップなどは使わず、缶に直接口を付けて飲んでいた。
吹雪はテレビを観ながら煩わしそうに眉を寄せて此方にチラリと視線をくれる。
「ですから、そんなに沢山の情報は更新されなかったんですって、先程も申し上げましたよね?」
「そうだっけ〜? じゃあさ、じゃあさ! 御子様ってどんな人なの⁉︎ 話では何回か聞くけど、実際どんな人なのかイメージが湧かないんだよね!」
スパンと話を切り替えると、吹雪は溜息を吐いた。そう言えばさっきも溜息を吐いていた気がするが、いつの話だったか忘れた。
吹雪は自分の湯呑みを机に置くと、テレビに背を向けるように此方に向かって正座した。
「どんな方かと聞かれましても、具体的に何が知りたいのか分かりません」
「あっじゃあね〜見た目は? 見た目はどんな感じ? 吹雪みたいなクールビューティ? ジャスミンさんみたいな可愛い系? それともモモちゃんみたいなゆるふわタイプ?」
私の問いに斜め上に視線をやって少しだけ考えていた吹雪は、やがてコクリと頷いた。
「近いのはゆるふわでしょうか? 絶えず笑みを浮かべておられますし、何より髪型が緩くウェーブの入ったロングヘアですし」
「ほうほう! ゆるふわ魔法少女か! 髪の色は?」
魔術が使えるとか言っていたので、イメージだと日曜の朝にやっている子供向けの魔法少女がリアルに美しい状態で画面から飛び出して来た感じだ。
吹雪はこれには即答で返事をする。
「金色です。光の御子と呼ばれるだけあって光属性の最高峰の方ですから、髪も属性通りです……それから、少女という言葉は間違っていますよ。御子様などの先代が地球に降り立ったのは50年程前だと聞いておりますので、それほど見た目に変化はないようですが少女と呼べる年齢ではないと思われます」
「金髪ゆるふわ系の魔法美熟女かぁ……そっちの人達に喜ばれそうだなぁ」
見た目が変わっていなくても50歳超えは確かに少女とは呼べない。吹雪達の先代なので美しいというのは想像に易いが、まさかの熟女だった。
それにしても前にも地球に来た事があると言っていたが、50年前だったら覚えている人もいるだろう。何故こんなに妖銃戦姫の情報が拡がった今でもそんな話が聞かれないのだろうか。
缶酎ハイを一口煽ってからツマミを口に放り込む。
うんまぁ、そんな話はどうでもいいや。
「んじゃあ、その御子様が前に地球に来た時はこんな風に戦えー、殺せーって情報開示とかされたのかな〜?」
クリームチーズに林檎と蜂蜜を乗せた物をひょいひょいと食べていた吹雪は、一旦食べるのを止めてパチパチと瞬きをする。
「……情報に有りません。先代達の記憶は引き継いでいる筈なのですが、50年前に実際何があったのかは分からないのです」
「まぁた隠されてるんだ? 何だろうね。知っちゃうと皆が皆して女王主に変化しちゃうとかのリスクでもあんのかね?」
「知る事で女王主に……?」
「うん。実は簡単な事なんだけど、知らないとどうしようもない、みたいな? まぁ私も適当に言ってるから分かんないんだけどねー。あはははっ!」
何だか面白くなって来た。頭の中で魔法美熟女が杖の様な鞭を持ちながら微笑んでいた。絶対マニア向けである。
吹雪は突然笑い出した私に驚いたようでキョトンと目を見開いて見上げていた。
私は笑い上戸なので基本的には酔っても他人に迷惑を掛けない。しかし酔っても顔に出ない体質なので呑み会などの席では自分でセーブを掛けていた。
だがしかし、ここは我が家。いくら飲んでも他人には迷惑を掛けない。そういった油断があった。
「ふ〜ぶきちゅわ〜ん! あ〜そび〜ましょ〜?」
「嫌です! 酔っ払いはあっちに行って下さい!」
吹雪の前で大醜態を晒していた。
私は勢い良く右手を上げる。
「はーい! 1番、美山四季ー! 吹雪について語りまーす!」
「語らないで下さい! 年越し蕎麦を食べたのですからもう寝て下さい!」
吹雪が何やら騒いでいるが、合いの手が上手いなぁ〜としか感じない。私は鼻息荒く、気付いていたけど今まで言う事のなかった事を口にする。
「吹雪の髪は銀色なので、下の毛もぶっ‼︎」
「それ以上続けたら口の中にこの身を投げてでも窒息死させます」
直接私の口を両手で閉じた吹雪は、何やら眼光鋭くそう言い放った。
何を今更恥ずかしがっているのやら。何度も風呂に入った仲ではないか。お互い知らぬ仲でもなかろうに。
私の目から何を言いたいのか察した吹雪は、大きく腕を振りかぶって私の鼻先を思いっきり平手打ちした。その衝撃で一気に酔いが覚めた私はサーッと血の気が引いて行く音を聞いた。
私、何かヤバイ事してた気がする。年越しそばを食べた後に梅酒を2杯飲んでから完全にいつもの自分とは違う行動をしていた。
まず吹雪に擦り寄り、吹雪のスカートを捲り、吹雪に頭を叩かれた事でクネクネ身体を捩りながら大袈裟に痛がり(その時の吹雪の冷たい目も覚えている)、めげずに吹雪に擦り寄り、後頭部に肘打ちを喰らい、割と本気で痛がり、またも吹雪に突撃して……などなど。
一応理由はある。あんまり吹雪とスキンシップしてないと思ったので酒の力も借りて普段はやらない事をやろうと思ったのだ。取り敢えずは抱き締めてみようかと考えたのだが、吹雪のサイズが小さ過ぎて頬擦りする事しか出来なかった。
次に吹雪のスカートを捲ったのは、先日のジャスミンさんとの喧嘩の際に気付いて履く事を約束させた見せパンを、ちゃんと履いているのか確認しようと思ったのだ。見せパンなら見られても良いだろうと思ったのだが叩かれた。
見せパンでも見せるのは嫌だったのかと思い、冗談だと態度で表したつもりだったのだが、夏場に外の水でクネクネ泳いでいるボウフラの様な動きになっていた気がする。
これはまずいと思ったが、それでも酒の力なんだから仕方ないと自分に言い訳をして吹雪に特攻した。
結果、今である。
非常に申し訳なく思う。しかもいつの間には年が明けていたのに、挨拶の一つもしていなかった。
私は出来るだけ真面目に見えるようにキリッと目元に力を入れる。
「吹雪、あけましておめでとう!」
吹雪は半目の状態で長い溜息を吐いた。まるで肺に残っている空気を全て吐き出したかのような長い溜息だった。
「……あけましておめでとうごさいます。先程から表情の変化が凄かったので正気に戻ってくれたのだとは思いますが、取り敢えず今日はもう寝て下さい。片付けは私がやりますから。お願いですから、ご自分の部屋へお帰り下さい」
中々な言われようである。
ここで私の自慢をしよう。いくらアルコールを飲んでも記憶が飛んだ事が一度もない。
お陰で今朝目覚めてから隣に吹雪がいない事に気付いた瞬間に昨夜の事を全て思い出した。ちなみに吹雪は自分の部屋に枕とタオルを持ち込んで寝ていた。
酔っていた時にやらかした事は、時間が経つにつれて恥ずかしさや罪悪感が増して行くものである。しかしだからと言って、酒に酔っていて記憶がないとは言わない方が良い。こういう事は後で絶対にバレる。そしてバレた時に必ず後悔するのだ。あの時ちゃんと謝っておけば良かった、と。ちなみにこれは兄の言葉であった。
「昨日は本当にすみませんでした」
という訳で、現在私は寝起きの吹雪の前に土下座している。それはもう完璧な土下座だ。教科書に載せられそうなくらい完璧な手の位置や膝の開き具合、そして背中を曲げる角度である。私の最大級の謝罪ポーズだった。
吹雪は珍しく衝撃や温め行為がなくても一人で目覚めたらしく、パチパチと瞬きをして首を傾げた。
「朝から何をされていらっしゃるんですか?」
「……昨日の謝罪のつもりです」
吹雪の声が少し掠れていた事もあって、悪い方向に考えが向かう。まさか謝罪を受け取る気はないと言う事だろうか。
頭をペチペチと叩かれたので恐る恐る顔を上げると、吹雪が眉を寄せてこちらを見下ろしていた。
「今回は許します。ですが二度目はないです。今後はお酒は控えて下さい」
「……いっ、いいの? その、まだ怒っているんじゃ?」
肩を竦めて身を縮こませるようにしてボソボソと呟くように問うと、吹雪はふんっと鼻を鳴らした。
「お酒に酔われていたのは理解していますから。それに今後に繋げて下さるのなら構いません」
いつだったか同じ言葉を言われた気がする。その時はあまり深く考えていなかったが、今なら吹雪の優しさが分かる。
私はゆっくりと身体を起こすと、正座した状態で吹雪に向き直った。
「改めて……あけましておめでとう。今年もよろしくね、吹雪」
にっと笑って挨拶をすると、吹雪もふわりと微笑んだ。
「はい。こちらこそ、よろしくお願い致します」
除夜の鐘も聞かず、神社に行く事もなく、初日の出も見なかった。やった事と言えば年越しそばを食べた事と新年の挨拶を交わしたくらいだ。けれどこれが私の、私達の祝い方である。
「おせちは作らなかったけど、お雑煮だけは作ってあるよ。お餅焼いて入れよう」
「私はお汁粉に入れて欲しいです」
「そう言えばこの前、一人用のお汁粉パック買ったっけ?」
新年早々締まらないが、これが私達の日常であった。




