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妖銃戦姫  作者: 夢見るうさぎ
第一章 〜妖銃戦姫とトリガー〜
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本物か? 美少女フィギュア 生きている

 お腹がぽっこりと膨らんだ妖銃戦姫は無表情ながらも恍惚そうな声色で満足です、と呟いた。

 そのサイズで卵2個分も食べれば確かに満足だろう。寧ろサイズ的にお腹の中に全て収まったのが不思議過ぎる。


「お粗末さまでした」


 私はそう言いながら念入りに綿棒で洗った小さなオモチャのカップを差し出す。

玉子焼きが食べられるのならコーヒーも飲めるだろうと思い、自分に入れた分から少しだけ注いだのだ。

 小さ過ぎて少々溢してしまったが、そこは拭き取ったので問題ない。


 カップを受け取った妖銃戦姫はお礼を言って、一口飲んだ。ちなみにコーヒーも私好みで甘い。

 玉子焼きの後にコーヒーという組み合わせが一般的に有りなのかどうなのかは分からないが、美味しければ構わないと思う。

 予想通りこのコーヒーも気に入ってくれたらしく、名前を聞いてから玉子焼きのようにまた繰り返し呟いている。

 首を傾げたり、同じ単語を繰り返したりするのは癖なのだろうか。


 私も自分の分のカップを傾け、一気に半分以上飲む。熱過ぎず、温めに調整するところも甘さを引き出すコツだ。


「そろそろ質問しても良いかな?」


 少なくなった中身を回すようにカップを揺らしながら、テーブルの上に直接正座する妖銃戦姫を見つめる。

 今更ながら、ハンカチかタオルでも下に敷いてやれば良かったと後悔する。

 しかし、話しかけた今のタイミングで席を立つのはそれはそれで失礼な気がした。


「構いません。先程の質問でしょうか?」


 瞬き一つ、首を傾げる。その顔は無表情。


 やっぱり行動をプログラムされた人形だと言われた方が納得出来る気がする。


「うん、そう。君は人間の食べ物を食べられるみたいだけど、機械じゃないの? その……妖銃戦姫っていうのは本当に生きているの?」


 凄く失礼なことを聞いている自覚はある。だが私は語彙力がない為、こういう言い回ししか使えない。

 仕事柄、本には毎日触れているが中身を読む事は殆んどないのだ。


「先に生き物であるかについて答えます。私達の先代が昔この世界に降りたった時は、妖精と呼ばれていたそうです。先代達はその時に物を食べ、睡眠を取るという事を学習し、私達の代にそれに近しい機能を植え付けました……。食事と睡眠が必要なことは生き物であるとの証明にはなりませんか?」


 淡々とした口調で説明をされると、内容を理解していなくても頷いてしまいそうになる。

 しかし、ここはちゃんと聞かなければならないだろう。


「ん? 前にも来たことがあるの?」


 そんな情報は知らない。まさかアメリカやNASAが隠しているという宇宙人とか何かか?


 私は思わず身を乗り出して妖銃戦姫に顔を近づけた。だがすぐに椅子に座り直すとわざとらしく咳払いをした。

 まだコレが危険な生物ではないとは言い切れない。結構さっきから距離感が近い気もするけど大丈夫。走れば逃げられるはず。


「続けてもよろしいですか?」


「すいません。どうぞ」


 先に全て聞いてから質問した方が良いかもしれないと考えた私は、手振りで先を促す。

すると妖銃戦姫はまた淡々とした口調で話し出した。


「次に妖銃戦姫についてですが、そもそもこの名を付けたのは先代達のトリガーだと聞いています。日本ではこの名ですが、他国では違う名で呼ばれておりますし、日本での名の由来はこの背中の羽と、それぞれの個体が所持している銃からだそうです」


 立ち上がってから此方に背中を向けた妖銃戦姫は、服に張り付いていたデザインが自然と剥がれるようにスルリと羽を伸ばした。

 やはり羽を閉じている時は、間近で見ても服の一部にしか見えない。それ程に薄く柔らかいようだ。


「私達が何かと言われましても、それは私自身分かりかねます。私達が何であるかという情報は植え付けられていないようです。先代の時代は新種の生物として扱われたこともあるようですが」


「新種か……そう言えばさっき、妖精がどうとか言ってなかった?」


「はい。先代達は羽や属性から妖精と呼ばれる者が大半だったようです」


 また分からない単語が出た。

 属性って何だ。それにさっきのトリガーっていうのも分からん。


 私は髪の先を指で弄りながら小さく唸る。


「うーん、先に話だけでも聞こうと思ったけど、理解出来ない単語がちょくちょく出るね。時間があるならその都度分からない単語の意味を教えてほしいところだけど……」


 現在時刻は22時を回ったところだ。

 明日も仕事があるので、さっさと片付けをして風呂にも入らないといけないだろう。

 そもそも本来なら警察にも連れて行かないといけないのに、まだ写真も撮っていなければ、親にも報告していない。


 圧倒的に時間が足りない。


「突然だけど写真撮っていい?」


「嫌です」


 取り敢えず写真を撮ってから明日の朝にでもどうするか考えようと思ったが、即行で出鼻を挫かれた。


「な、何でっ? 写真は嫌いなの?」


「はい」


 食い下がろうにも一言で断られてしまった。

 私は本気で落ち込みながらも、嫌いなら仕方がないと諦めるしかなかったのだった。

 そもそも写真を知っていた事にも驚きだった。いつ、どうやってこういった知識を手に入れているのか疑問である。

 だがしかし、これだけは聞いておかなければならないだろう。


「じゃあもう1つ質問。君は昨日の流れ星と一緒に落ちて来たの?」


「近いですが違います。そもそも昨日の流れ星だと認識されている物自体が私達だと思われます」


 昨夜の流れ星=妖銃戦姫。

 つまり昨日見た沢山の光の軌跡は大気圏で燃えていた妖銃戦姫達だったということか。

 神秘的な光景だと思っていたのに、実は悲惨かつ無惨な現状だったのだろう。


 私は笑顔で沈黙した。


「よく……無事だったね」


「燃えていたのは卵の殻に付着していたゴミか何かでしょう。妖銃戦姫の卵は地上の微生物に分解されない限りは、温度や衝撃を全て吸収して内部にいる私達のエネルギーに変換してくれるのです」


「スゲェな、その卵‼︎」


 カップを持っていない方の手の平を机に勢いよくつける。もはや叩きつけたとも言えるだろう。


 なんて夢溢れる卵なんだ。

 まるでゲームや漫画に出てくる宇宙船の避難用カプセルのようだ。

 是非とも御目にかかりたい。


 私が机を叩いたことで若干浮かび上がった妖銃戦姫は、そのまま羽を広げて正座のまま空中に静止するという器用な格好をしてみせた。

 しかも不機嫌そうに眉を顰めて私を睨んでいる。


「私のことは随分疑っておいででしたが、卵のことはアッサリと信じるのですね」


 どうしてだろう。

 窓も開けていないのに部屋の空気が一気に冷えた気がした。


「い、いや、卵というより微生物凄いよねっ。たったの数時間で殻を全部食べちゃうなんて流石だと思うわ! あんなに小さいのに全く侮れないよねっ」


 今だに眉間に皺が寄ったままの妖銃戦姫に慌てて言い募る。

 卵の話題を変えようと思ったがこれではまるで私が微生物大好きな奴みたいだ。だがそれもこの部屋の空気を感じれば仕方ないと言えるだろう。


 妖銃戦姫の後ろに位置する棚の上には気温と湿度も表示される時計が設置されている。

 そしてその気温にあり得ない文字が刻まれているのだ。


 error(エラー)


 お分りいただけただろうか。気の所為ではありませんでした。何コレ。


 部屋がパキパキと軋むような音を立て、カーテンの隙間から覗く窓ガラスが白く見える。

 既にこの数10秒で残り少なかったカップの中身が全く動かなくなってしまった。

 そしてそのカップ自体に体温を奪われそうになり、私は慌ててそれを机に置いたのだった。


 カップに触れていた指が張り付かなかったのは幸いだったと思う。

 これで張り付いていたらバリバリと引き剥がさなければならなかった。いや、お湯で先に温めれば良いのか。


 今私が震えているのは寒さのせいか、恐怖のせいなのか分かったものじゃない。

 死という言葉が頭の中で20mシャトルランのように速度を速めながら行き交う。


 どうして私はコレを持って帰ってしまったのだろう。

 どうしてすぐに警察に連れて行かなかったのだろう。

 こんなところで死にたくないんだけど。

 家の中で凍死とか絶対嫌だ。

 しかも今日は比較的に暖かい気温だったのに。

 そうだ、外の方がきっと暖かいぞ。


「私が地上に降りたのは5日程前です。昨日降りて来た者達はまだ卵の中でしょう。微生物の分解速度は通常より少し早い程度だと思われます」


 外に飛び出すことを検討し始めたところで、ずっと沈黙していたソレが喋りだした。

 いや、体感時間が長いと感じただけで、まだ1分も経っていない。だが長いと錯覚を起こす程の恐怖と寒さが混じった時間だったのだ。


 ソレが言葉を発したタイミングで冷気は去り、ゆっくりと部屋の温度が上昇し始める。

 ジワジワと身体が暖まり、自然と鳥肌が立っていく。

 カラカラに渇いた喉を無理矢理口内に集めた唾で潤そうとして、量とは比例しないようなゴクリという大きな音が出た。


 片付けは明日で良いだろう。風呂も朝入れば良い。だから今日はもう寝よう。そしてコレをさっさと追い出そう。


「また警戒されてしまいましたね。大丈夫ですよ。妖銃戦姫が自分のトリガーに危害を加えることは出来ないようになっておりますから。現に液体が一瞬で凍る程の冷気を発したにも関わらず、ミヤマシキ様はそれ程の影響を受けていないように見られます」


 寒さは和らいだが、歯がカチカチと音を立てる。

 私はあまりにも非現実的な現象を前に現実逃避に走ることにした。

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