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妖銃戦姫  作者: 夢見るうさぎ
第一章 〜妖銃戦姫とトリガー〜
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降って来た 美少女フィギュア 本物か?

 仕事も終わり、制服から私服に着替える際にカバンの中を確認するも、やっぱりアレは眠ったままだった。しかし玉子焼きのカケラが見当たらない。持ち上げた際の振動などで奥の方に転がり落ちてしまったのだろうか。


 朝とは違い、バスに揺られながら駅を目指す。田舎のバスは本数が少ない為、今朝は丁度良い時間のバスがなかったのだ。


 駅の隣にある警察署にチラチラと視線をやりながらカバンの持ち手を無意識に強く握りしめる。何だか悪い事をしている気分だ。もしも本当にアレが人形なら私は泥棒にならないだろうか。

 そうは思うが、家に持ち帰って安心出来る所でジックリと見て写真を撮りたい、という欲求には逆らえなかった。


 いつも通り電車に揺られ、5分置きくらいの間隔でカバンの中をチラ見する。

 客観的に見たら本当に悪い事をした人か、何かをめちゃくちゃ気にしている人に見えるだろう。大丈夫です。後者ですよ。




 最寄りの駅に着き、早歩きで帰路に着くと玄関の鍵をかけ、即行でカバンを開いた。


 まだ眠っているようなので、取り敢えずカバンから出して玉子焼きのカケラを探すことにする。後で腐った状態で見つかるのは嫌だ。


 ハンカチ越しにそっとソレを持ち上げ、床に置こうとしたその時、ソレが瞼を開いた。


 再度呼吸が止まったまま硬直する私を尻目に、それは腕を伸ばして軽く身体をほぐすと徐ろに立ち上がった。

 ソレはそのまま周りを見渡し、最後に私の顔を見上げると、背中のデザインだと思っていた薄い水色のトンボのような羽を広げて、私の顔の高さまで飛んできた。


 朝も見た銀色混じりの青色の髪と瞳が、人口の明かりによって少しだけ本来よりも明るい色に見える。

 ソレは私を頭の上から爪先までじっくり観察すると、無表情のまま首を軽く下げた。


 俯くような仕草によって、その長い睫毛がよく見える。顔の造りが整っている分、無表情だと冷たく鋭利な威圧感を感じて心臓が高鳴るが、それ以上に綺麗な顔が目の前にあることで変にドキドキする。


「お昼の黄色い食べ物は美味しかったです。ありがとうございました」


 突然喋りかけられた事に驚き、返答に遅れる。

 慌てて何を言われたのかを頭の中で飲み込み、口を開く。


「ど、ういたしましてっ、えーっと、あの、君は誰なのっ?」


「私は妖銃戦姫(ようじゅうせんき)です」


 しどろもどろに口にした少しおかしな質問を、ソレは表情を一切変える事なく淡々とした口調で答えた。


 はて、ヨウジュウセンキとは一体何ぞや。


「ヨウジュウセンキって?」


「貴女は見たところ日本人でしょう? 漢字という言葉で伝えるなら妖精の妖、そしてこの銃––––」


 そう言いながら腰に挿していた小さな黒い棒状の物を上に持ち上げる。よく見たらそれは猟銃のような形状をしていた。だが、本物の銃なんて生まれてこのかた一度も見たことがないので、それがどんな種類なのかは分からない。取り敢えず、持ち手のような出っ張りが2本あるようだが、何か意味があるのだろうか。1本では駄目なのか。


「––––それからセンは戦い、キは姫と書くのです。私達の種族は人間で言うところの、女という者達しか生まれないので、姫という字が付いていると聞いています」


「……詳しいんですね」


 字ではなく生態を聞いたつもりだったが、予想を遥かに超える発言があった。


 コレ、さっき私が日本人って当てなかったか?

 何かのプログラム?

 それとも自動的に誰でも日本人認定されちゃうの?


 私が無言で百面相をしていると、その妖銃戦姫とやらは首を傾げた。


「貴女のお名前は何と仰られるのでしょうか?」


「……あ? あっ、私⁈ 私は日本人ですっ、じゃない違う、えーっと、美山四季(みやましき)です、はい」


 またもしどろもどろに答えるが、妖銃戦姫は無表情のままだ。

 何のリアクションもないのは逆に恥ずかしい。寧ろ笑い飛ばしてほしい。


「ミヤマ、シキ……覚えました。改めまして、初めまして私のトリガー。ミヤマシキ様」


 私は無言で笑顔を作る。会話が理解出来ないのだ。


 また意味の分からん単語が出たぞ! トリガーって何ぞや。


「あのさ、トリガーってな……」


 トリガーって何、と聞こうとしたタイミングでそれを遮る音が響いた。妖銃戦姫のお腹辺りから聞こえた低音に私は思わず黙り込む。

 いつもなら聞かなかったフリをして話を続けるところだが、今の私は緊張気味なので適切な反応を取れなかった。


 嫌な沈黙が流れる。


「先程の、」


「大丈夫! こんな時間だし、そりゃあお腹も空くよねっ。私もお腹空いてるから気にする必要はないよっ」


 食い気味に言葉を遮ると、妖銃戦姫は瞬きをしてから首を傾げ、無表情ながらも不思議そうな声色で言葉を紡ぐ。


「いえ、お腹の音は元より気にしておりません。それよりも先ほどの、あの黄色い食べ物は何という名なのでしょうか」


「あ、あ、玉子焼きのこと? さっきも美味しいって言ってたね。お口に合ったようで何よりです」


 私の作る玉子焼きは母親譲りの甘い味付けだ。クレ-プの生地を想像して欲しい。そこに少しだけ甘さと卵の味を付け足した物だと思ってもらうのが一番近い。

 昔からデザート感覚で食べている慣れた味だ。褒められると嬉しい。

 ちなみに高校時代の友達はそれを食べて「うぇっ」と声を漏らしていた。きっとえづいてしまう程に美味しかったのだろう。


 ……あれっ、玉子焼き食べたの?

 人間の食べ物を食べられるの?


 無意識に上がっていた口角が引きつる。

 今更ながらやっぱりコレはフィギュアや人形ではないと思う。


 今なら私は靴を履いたままだし、玄関の鍵も腕を伸ばせばすぐに開けられる。

 空を飛べるとはいえ、さっきの浮遊速度なら私が扉から出るのが早い。大丈夫だ、きっと行ける。


 目の前の妖銃戦姫は俯いたまま、玉子焼きという言葉を繰り返し呟いている。

 気に入ってくれたのは嬉しいが、その前に確認しなければならないことがあるだろう。


「ねぇ、妖銃戦姫ってどんな生き物なの? というか、本当に生きてるの?」


 私の質問に顔を上げた妖銃戦姫は私の鼻の辺りをジッと見つめ、眉を顰めた。

 初めて見る無表情以外の表情だ。


「答えられる質問には全てお答えします。その代わりと言ってはなんですが、先にお食事をいただきたいです。玉子焼きを希望します」


 そう言い切る妖銃戦姫のお腹から、先程よりも大きな音が響いた。


「あぁ、うん……」


 半ば睨み付けるように私を見つめる妖銃戦姫をリビングに案内することになり、逃げ道が早くも潰れた事を悟った私は、無性に虚しい気持ちになりながら乾いた笑顔を浮かべるのだった。

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