⑤章[どちらの牙が相手を貫くか! 中堅戦――直線切りの鬼VSレザー狂犬! ケロベロス]
どんなに過程が劣勢でも、あんた達のカシラは最後のバングスできっと捲くってくれる!
この中堅戦でのトップ取りに、掛けてきたのはチームジャパンだった――事実上チームジャパンの要を務め、今日本のトップ美容師と名高い海外と日本各地に店舗を持つ美容室『ドリーム』の総括『徳永』を中堅戦にぶつける奇策をチームジャパンは擁してきた。
中堅戦、会場の誰もが会場に現れ準備をする徳永を注目していた――そんな注目の的である徳永の横を男が横切り、普段クールな筈の徳永がその男を見て度肝を抜いた。
中堅戦で決戦の会場入りをして皆が緊張で固まる中――その男はヘッドホンを耳にあて、持っている美容道具には鋏はなく……西洋剃刀とコームを手にして、鋭く睨みつける様な目つきで体を揺さぶりながらオラオラと、歩いていた。さながらその姿は獲物を探す狂犬の様に見える。
チームレインボウの控室にて――大将『マルゲリータ』、副将『ドッピオ』、中堅『フェーン』が中堅戦前に話し合いをしていた。
「いい? フェーン。けして油断せずいつも通りのあなたの作品を作ってきなさい! あなたは少々抜けている時があるからね! 心配だわ」
「ガッハハハ! 心配いらねーすっよ、御嬢! このフェーン、ドッピオ先輩みたいな抜け感がある名前してないんでそんなヘマしないっす! ガッハハハ! 俺はヤルときゃヤル男すっから、この中堅戦でドカっと、他のチームと点数離してドッピオ先輩と御嬢にバトンを回しますよ! ガッハハハ!」
「ふむ……実に頼もしいが、フェーン! 私の名前を抜け感があるとはどう言うことだ? お前、先輩に毒づいて滑ったら死ねよ! たく……まあ『レザー狂犬カットケロベロス』の異名を持つお前の野性的な作品なら負けることはないとは思うが、徳永という美容師はまあまあできるらしいから注意だけはしておけよ、くれぐれも御嬢の顔に泥を塗るなよ、必ず勝ってこい。勝ってから死ね!」
「ひゃはっ!? 死ぬのは確定なのかよ……ドッピオ先輩!? ジョークじゃないですか、ガハハハ! 大目に見てよね! あ、御嬢もドッピオ先輩も観戦とかいらないんで! 自分達の準備メインにやっといてください――その間に俺は裏で敵をボコボコに仕留めてくるんで!」
フェーンのその言葉を聞いたマルゲリータはクスッと、笑い会場にフェーンを送り出した。
「心配したのが、野暮でしたね……行ってきなさい! チームレインボウの恐ろしさはここからよ! 会場の選手全員をあなたの作品で喰い殺してきなさい、フェーン!」
マルゲリータとドッピオの激励を受けたフェーンは、西洋剃刀――美容道具で言う鋏の代わりとなるカット道具『レザー』とコームを握りヘッドホンで音楽を聴きながら会場に飛込んだ。
会場に出た矢先にフェーンは早速、徳永を見かけて、二人は目が合った。
「徳永っていうのはお前か……結構なオヤジだなぁ。あーん? なんか俺にビビってねえか? あ、そうか! 日本はマナーが良い国だったな! 俺がセックス・ピストルズをヘッドホンでガンガンボリュームで聴きながら来た事に驚いているのか、ファック! あー、パンクじゃねぇ~な! 俺は音楽聴きながらレザーで髪を削ぐ美容が一番好きなんだよ! 皆が警戒しろって言っていたからどんな奴かと思ったが……アーロンさんが前に日本人の美容師は大した事ないって言っていたし、その通りかよ! まぁ徳永とやら……――軽く俺の牙で噛み殺してやるか! 御嬢も喜ぶぜ!」
言葉が通じる筈もないので、徳永とフェーンのコミュニケーションはなく――フェーンのその一方的な暴言も空振りに終わり、そのままフェーンも自分の指定されているスペースに向かいスタートの準備をした。
チームレインボウの中堅『レインボウ』のトップスタイリストであるフェーンのカットは鋏を使わない――使うのは『レザー』と呼ばれる美容道具である。
レザーは髪を掴んで削ぎながら切る為、鋏より早く切れ、量の調節がやり易く髪を軽くするのに適している。だが、軽さはでるものの少し削ぎ方を間違えて髪を刃で傷めてしまうと、髪が広がりやすく変に癖が出て、セットがとてもしにくくなる。従ってそのリスクを回避する為、技術力の高さが大きく問われるこのレザーを使ったカット方法は、あまり日本の美容業界では浸透していなく、鋏を使わず全てをレザーで仕上げる美容師は殆どいない。それを世界一のレベルで施術する男、それがフェーンであった。
「ん、俺の隣は女か? あ、こいつ……なんて指してやがるっ! 滅茶苦茶パンクじゃねーかよ! まぁ、俺の隣とは不運だな! 俺の作品に驚く破目になるだろうからな! 果たして自分のカットが俺の隣でできるかねぇ~! ガッハハハ! って何言っても通じないか! 俺日本語喋れねぇ~しなあ!?」
ブツクサと、音楽を聴きながら独り呟きながら不敵に笑うフェーンの――隣の席で中堅戦を迎える鬼頭がフェーンの顔を覗き込んでヘッドホンをフェーンから外すと、宣戦布告をした。
「よろにゃん! 英語ならパンクロックで身に付けたぺこ~、中々私の相手がパンクな相手で嬉しいにゃん! 私の作品最後まで見逃すんじゃないぺこ~、お前を倒す私の――バングスカット楽しみにしているにゃん! 私のバングスはメインを張るにゃん! ガッデム!」
「ああ? ガッデム……ファ、ファック! なんだい! なんだい! 日本にも面白そうなビッチがいるじゃねーか! ハッ! 俺にそんなでけえ口叩きやがって――俺のレザーの切れ味みたら……お前は濡れて跪く! ガッハハハ!」
お互いがお互いを睨み合い早くも火花を散らしていると――そこに京街がコームを持って現れ、二人の中に割って入り鬼頭をドヤした。
「きぃ~と~う~! てめえ! やる気満々は結構だが……控室にコーム忘れるとか、舐めてんのか! 俺にパシリやらせやがって……うん? 隣のこのガキがチームレインボウの中堅か、あ~? 睨めつけやがって……こいつも舐めてんのか? この中堅戦にはどうやら徳永さんも出るみたいだ、大物喰いができるチャンスだぞ!」
ぽんと、京街は鬼頭の頭にコームを当てると、コームを鬼頭に渡した。
「京街さん! あ、ありがとうぺこ~、コーム持って来てくれて助かったにゃん! でもなんで京街さんが持って来てくれたぺこ~? 徳永さんの事を伝える為かにゃん? いや、そんなの誰が伝えても同じぺこ~、も、もしかして……京街さん……私の事が好きなんじゃ……」
ゴツン! と、京街のゲンコツが鬼頭におちて「いたっ!」と、鬼頭は声を上げた。
「バカかっ!? お前は……。俺が来たのはなぁ、お前に言っときたい事があったからだ――鬼頭、お前がもし負けたら、もうこの大会は終わりだ……分かってんな? この中堅戦が大事な意味! 俺は時蔵と頭さんの為にこんなところで終わりたくねえ! だから負けるなよ」
ゴツン! と、今度は鬼頭が京街にゲンコツをおとして「いてっ!」と、京街が声を上げた。
「誰に言っているにゃん! 京街さん、副将戦に備えてカラー剤でも練って待っているぺこ~、徳永さんも、隣のあの狂犬の牙も砕いてやるにゃん! 負けられない殴り合いは『鬼』の私の得意分野にゃん! 最後に私の作品の前に全員立ち尽くさせてやるぺこ~、私は覚悟を持って今日ここに来ているにゃん!」
「そうか、なら安心だ、俺はカットだけでみたらお前は頭さんをもう超えていると思っている。お前にはその『指』がある――そしてお前は天才だ! 大丈夫、お前なら勝てるよ、叩きのめしてこい! 時蔵の為にも、そしてお前というブランドについてくれたお客様の為にも、頑張れよ!」
鬼頭の意気込みを聞いて京街はそう言い残すと、安心して控室に下がっていった。
「私に出来る事……バングスカットを活かす為の土台を時間ギリギリまで丁寧に作って――作品に込めた魂を審査員のハートに届けることにゃん!」
鬼頭はそう自分に言い聞かせ、準備を整えた。そしていよいよ中堅戦がスタートしようとしていた――お題は『奇抜モード』、鬼と狂犬ケロベロスのパンクな牙が交差する殴り合いが幕を開けた。
中堅戦スタートと同時に観客の視線を集めたのは鬼頭でも、徳永でもなく――フェーンだった! 素早いコーミングにレザーを使った削ぎは、大胆に髪の毛を落としていき、その中で見せる繊細なテーパー入れ(表面に沿って削ぎ髪を軽くする技術)は美しく、でもどこか野性味が溢れていて、そこから仕上がる綺麗なシルエットの髪型に観客は魅了され、さらにフェーンの迫りくるような野性的な施術法を見て、会場が湧き歓声まで響いた。まるでライブ会場だ!
「御嬢の為に俺は負けないっ! 勝つのはレインボウだ! 御嬢に頂点を獲らす!」
ヘッドホンから音楽を聴きながら施術するスタイルで、『豹変した女神』というイメージで作品を作り狂犬ケロベロスは牙をギラつかせ見せまくりながらオーディエンスを湧かせ、ウルフスタイルの作品を作っていった。
「ファッキン! おい、女! さっきの威勢はどうした? なぜ牙をみせない? なんだか細かくデザインを作ってるみてえだが……。なんだぁ? それ? 全く奇抜じゃねーじゃねえか! ガッカリだぜ、俺のボルテージは今MAXなんだ! テンション下げさせねーでくれるか? ガハハハ!」
施術中にもありながら、鬼頭に対して闘争心剥き出しのフェーンが鬼頭に声を掛けて笑った――だが、それに対して鬼頭は動きを変えずに、最後に見せつける牙を温存していた。
「うるさいぺこ~、必殺技出しっぱなしとか……お前は化け物かにゃん! 私の牙は一噛みあればこの会場の全員に届くにゃん! 最後のとっておきにする為、今はその最高のクライマックスの瞬間の準備に徹底するぺこ~、それまでお前は前座として会場を盛り上げてろにゃん!」
「ああ~!? わりぃ~な、セックス・スピストルズのおかげでお前が何を言ってんのか聞こえねぇ~わ、ガッハハハ! お前は鋏でちまちまと、切っていればいい! 俺のレザーカットが一番はえ~んだよ、ファック! もう俺の牙は会場に刺さっているんだよ! お前の出る幕はない!」
残り時間五分――中堅戦の結果を見守る会場の観客席には鬼頭が働く『ソニック・ローゼス』のスタッフ達が祈るように観戦していた。
「カシラの作品ショートスタイルですね、確かに奇抜ですけど……。あのフェーンって人と、それと、やはり徳永さんも良い奇抜なデザインを作りますね……。ぐぬぬ!」
「何言っていんの? 相手が誰なんて関係ないじゃない――あそこに立っているのは直ちゃんよ、あんた達のカシラは銀座№1美容師よ……。大丈夫! 安心しなさい」
「そうだよね、さっちゃん先輩の言う通りだ、俺達はカシラの『鬼の直線ブランド』を毎日見て知っているじゃないか! 笑っちゃうほどすげーあのブラントカットを俺達は知っている!」
「頑張れー! カシラ! ソニック・ローゼスの実力見せてやりましょう!」
「みんな応援するわよ! 直ちゃん頑張れ、私に勝ちまくっといて負けたら許さないからね!」
ソニック・ローゼス一同の応援が熱を増すさなか、フェーンが中堅戦で一番に作品を完成させた。
「ザクザク削ぎ落してやったぜ! このスタイルに不要な髪の毛は全て削いだ――完成だ! これが俺の作品『豹変した女神』だ! どうだい、やべーだろ? お前らのヤル気も全て削ぎ落ちただろう! ケェッ! さっきからヘッドホン越しからで聞こえる騒がしい声援が聞こえるが、ソニック・ローゼス? そんな二流サロンの美容師が俺に勝てると思うなよ! 耳障りだし、目障りなんだよ! 消えろ!」
「騒がしいのはお前だにゃん! 中々パンクな作品を作ったみたたいだけど……ソニック・ローゼスをディスってタダで帰れると思うなにゃん! あと、残り時間3分か……――5秒だ、お前を黙らすのにラスト5秒あればいい……。それまでに必ずバングス以外のカットを完成させるから待ってろにゃん!」
叫び散らかすフェーンに鬼頭はそう宣言すると施術のラストスパートに入った。
「あ~ん? ファック! てめえ……偉そうな事言っているけど――まだバングスに手が一切掛ってねぇじゃねえか! ガッハハハ! タイムオーバーの未完成確定じゃねーか!」
「だ・か・ら! 私は――バングス以外完成させて五秒残っていれば十分なんだにゃん!」
「あ~? 言っている意味がよくわかんねーな……。あ? なんだ……あいつら!?」
施術を終えたフェーンが観客席に目をやると――さっきから騒いでいたソニック・ローゼスのスタッフ達が中堅戦終了時間残り五秒のこの土壇場で、スタッフ皆が拳を上げて鬼頭の勝利を確信する悲鳴を上げていた。
フェーンは隣の鬼頭を見て目を疑った――さっきまでバングスに手を一切掛けてなかった自分と差があった『鬼』が、一瞬で距離を詰めて追い越して行った幻覚が見えたからだ。
いや、それは幻覚ではなかった……。残り時間五秒――他の出場者が作品を完成させている中、鬼頭だけがバングスを丸々残し、まだ施術の最中だった。
そんな絶望の中、ソニック・ローゼスの仲間は鬼頭がこの後どうするのかを理解していた――だからスタッフ皆が歓喜し、拳を上げる事ができたのである。それは毎日、鬼頭の『鬼の直線ブランド』を間近で見ていたからできる確信であった。
「どんなに過程が劣勢でも、あんた達のカシラは最後のバングスできっと捲くってくれる! だって、直ちゃんはこの――一切りに、人生を賭けて今まで研ぎ澄ませてきたんだもん!」
「そうですよね、さっちゃん先輩! 最後に一発殴れれば……カシラは負けない。俺達の付いていっているカシラは地上最強の『鬼』だから! 鬼は――一切りあればいい!」
ジャキン! 一人だけまだ施術をしている会場に――鬼が一切り牙を剥けた。
鬼頭が放った最後の一切りが会場全体に響き渡ると――彼女は仲間のソニック・ローゼスのスタッフ達がいる観客席を向いて、高らかに拳を上げた。
その奇跡的な『指』から放たれたブラントカット、『鬼の直線ブランド』に会場は今までにない程に湧き、クールに施術を終えたチームジャパンの徳永も、狂犬ぶりを見せていたフェーンも、自分の相手が最強の鬼だったという事に残り五秒で気づきかされ凍りついた――最速のブラントカットの鬼が、ジャパンの要とケロベロスの牙を叩き潰すには十分な威力で、鬼頭の『鬼の直線ブランド』の牙は二人に突き刺さり貫いた。
「中堅戦結果発表! 今回のビューティフルワールド審査員の目は中々厳しく、平均得点は65点という厳しい現実を出場者の皆様に打ちつけています! おっと、今入りました情報によりますと……なんと! チームジャパンの徳永選手! 現時点でサルヴァトーレ選手が次鋒戦で叩いた『87点』を超えて大会最高得点の『88点』をマークだっ! 引き続き採点に移りますが、これは徳永選手で決まったか! 早速、徳永選手にインタビューしてみましょう! 徳永選手『88点』という現時点で大会最高得点を叩きましたが、今のお気持ちはいかがでしょうか? 徳永選手の作品名は『ジャンキー』、禍々しいオーラを放ち、ハズシを使った個性溢れる不気味でいてその上セクシーなデザインで、まさにミステリアス! 素晴らしいです!」
中堅戦は終了し、採点結果待ちの間に大会の実況を務めていた若いインタビュアーが徳永を呼びインタビューを始めた。
「ありがとうございます……。答えることは、特にないですね……。ごめんなさい」
「は、はぁ……。えっと! 徳永選手でした……皆様、拍手をお願いします……」
その時、インタビューを受けた徳永はとても悲しそうな瞳をしていた――日本の今の美容を引っ張っている徳永にはもう分かっていた。彼は美容を愛している。だから誰よりも美容に真剣に向き合っていたからこの敗戦をすぐに受け入れられた。自分より素晴らしい作品がこの中堅戦で生まれている事を彼はもう知っていた。だから徳永はここで終わったのだ、彼がインタビューで言える事は何もなかった。
採点結果の実況に戻ったインタビュアーはすぐにそれを知ることになって、声に熱が入った。
「え? い……今、入りました採点情報によりますと……な、 なんと! 『90点』を叩いた選手が現れました! 徳永選手を超えたその選手は――チームレインボウ! 作品名『豹変する女神』を作りました……フェーン選手です! ついに待望の90点台が出ました! 野性的な動きがあるシルエットを作り上げ、モードヘアーの頂点に立ちました! フェーン選手に今のお気持ちを聞いてみましょう! フェーン選手いかかでしょうか? え……な、泣いている!? あの……嬉泣きでしょうか、素晴らしいですね!」
インタビュアーはボロボロと涙を流して立ち尽くすフェーンに笑顔でインタビューを始めた。すると、フェーンはひったくるようにインタビュアーからマイクを奪いそのまま今の心境を声に出した。
「うるせえ! これが……嬉し泣きなんかに見えるのかよ、ガルルルル……ち、ちくしょう! 今度やる時は……ぜっ、ぜってえにぃ……負けねえぞ……。す、すまねええ……御嬢! 俺、鬼に喰われちまった……。まさかこんな奴が日本にはいるなんてな……。この悔しさを晴らすには、やる事は単純明確! あの鬼にいつか……リベンジだあああ! ファック! ガルルルルル……パンクな女だぜ、まったくよぉ……」
泣き叫ぶフェーンを前にして、インタビュアーは戸惑いながらも実況を続けた。
「え、えっーと……フェーン選手は現時点で一位なのですけどね……。いったい誰にリベンジを……って! え!? 嘘でしょ! す、すみません! 今、入りました情報によりますと――チーム美容スータビリティの……き、鬼頭さんの作品『鬼神の噛み切り』が……な、なんと! 『98点』を記録したもようです! し、信じられません! 『98点』ですよ! もしかして、徳永選手と、フェーン選手の二人は、この作品を見ていたから……なんだかおかしかったのでしょうか!? 兎に角、鬼頭さんの作品を見てみましょう!」
『鬼神の噛み切り』――鬼頭の得意なブラントカットと細かい彫刻の様なカットで、モード感のある鬼の角のようなシルエットにまとめ、顔周りに長短の激しいデザインをつけバングスの『鬼の直線ブランド』が生える奇抜な世界観のモードスタイルな作品。
その作品を見てインタビュアーは深呼吸をした後、中堅戦の結果を発表した。
「中堅戦! 全ての採点が終わりました――三位徳永選手、二位フェーン選手、そして一位が! チーム美容スータビリティ鬼頭選手です! 中堅戦これにて終了! 最後に見事に大きく差をつけて一位を取りました鬼頭選手のお話を聞きましょう! 鬼頭選手、今のお気持ちはいかがですか? 二位のチームジャパンとは点差なし、一位のチームレインボウとはこれで5点差まで点差を詰めましたが、良い活躍ができましたね!」
インタビュアーがそう言いながら鬼頭にマイクを渡し――鬼頭はそれを受け取った。
「私は今日、ソニック・ローゼスのトップとして、私を支持してくれるお客様に恥じないよう過去最高のデザインを描いてそこに自分が持っている美容技術全てをぶつけたにゃん! 応援してくれた店の仲間! そして私を使ってくれた美容スータビリティさん! 本当にありがとうぺこ~、私達のチーム美容スータビリティはこのビューティフルワールドに優勝する為に出場しましたにゃん! 後二戦、私達のチームを注目して欲しいぺこ~、と、言って……後ろに控える私の仲間にプレッシャーを与えておくにゃん! それではみんな! ありがとうぺこ~、銀座に来た際はこの私が作り出す『鬼の直線ブランド』を是非味わってくださいにゃん!」
鬼は一切りあればいい――ユニークな彼女が作った『ヘン』な作品が頂点を極めた。