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反省会とぬぐえぬ不可解

「それではこれよりぃ、第一回『クーリアと愉快な仲間たち反省会』をはじめま~す」


 高らかに宣言された謎の会は、ここ、再び戻ってきた我が部屋にて行われることになった。というか何だ、『クーリアと愉快な仲間たち』って。

 ちなみに俺は全身包帯でぐるぐる巻きにされて、その上で自室のベッドに括り付けられて身動きが取れないようになっている。その横に椅子に座ったアリリ、そして定位置の床下にディンという配置だ。


「まずはリザルト報告からですね~。とは言え、今回階異から得られた光石や素材はぁ、殆ど被災者復興の支援金に充てられるのでほぼタダ働きとなりますぅ。一応、『トロール・シャドー』の光石は融通してもらいましたが~」


 アリリの言う通り、今回の戦いでの戦利品は殆どが復興に充てられることになった。そもそもが大量発生した『ゴブリン・シャドー』はその場で戦える者たちが適宜応戦して対処したわけで、正確に誰が何体倒したかなど誰も把握出来ていない。勿論戦いながらでも光石を回収した抜け目のない者もいくらかは居ただろうけれど。そういった例を除いた、事態収束後に改めて回収された光石や素材に関しては、全て復興の為に使用される取り決めが成されたのだった。

 そんなわけで、戦利品として得られたのは確実に俺達が討伐したと言える『トロール・シャドー』の光石のみで。素材も取ることは出来たが、あえて復興支援に回すことにした。人道的なこともあるけれど、正直な所このまま『上』に登るのは忍びないという個人的な思惑も多分にあって。『立つ鳥後を濁さず』とは少し違うか。何にせよ少しでも後ろ髪を引かれる要素は無くしておきたかった。


 新たに入手した『トロール・シャドー』の光石は、高純度光石へ精製して俺の武装に組み込むことにした。それまで使用していた光石はその『トロール・シャドー』との一戦で遂に決定的な劣化が始まってしまい、このまま実戦で使用を続けるのは危険と判断されたためだ。精製に掛かる費用は恐ろしい話ではあるけれど、アリリに用立ててもらうことになった。借り、というやつで。

 ステッキから外された劣化光石は売却せず、そのまま俺が所持している。まだ、これには別の『使い方』がある。


「怪我人も沢山出たからな。治療にはお金が必要になるし、そんな貯えがある人ばかりじゃない。――っていうかさ。アリリ、お前って薬草も栽培してたんだな」


 怪我の治療に使う薬草をなぜかアリリが卸すという話。どうやら『例の花』以外にも育てているものがあったらしい。


「私は花売りでもありますけどぉ、薬師でもあるんですよぉ? そりゃあ、薬草くらい育ててます」


 当然とばかりに言ってのけるけれど。結果的に、今回の一件で彼女だけは大幅に利益を上げているのは何と言うか……本当に強かな女性だと思う訳です。ええ。


「私のことは良いんですよ~。それよりですねぇ。今回の戦いの反省に入りたいと思う訳ですけどぉ……ねえ、クーリアさぁん?」


 にっこり笑顔が空恐ろしい。反省と言うが一体何が問題だったのだろうか。頑張って敵を倒した。それも仲間内に犠牲無しで。……完璧じゃないか。

 一人首を捻って考えてみるが何をそんなに怒っているのかが分からない。大怪我を負ったのは確かに俺の不手際だけれど、この程度ならあのレベルの階異相手で考えれば上等な方だと思う。


 そんな俺の胸の内を読み取った訳ではないだろうけれど、うん、ないとは思うけれど、どうしてかアリリから感じるプレッシャーはより迫力を増して。何。何だよう。


「…………はぁ。私、クーリアさんのこと誤解していたかもしれません~。もう少し利己的というかぁ、上手く人を使う方なのかと思ってました~。実際、最初に出会った時はディンさんを囮に使ってましたしぃ」


 その言い方だと何だか俺が酷い奴みたいに聞こえるんだけど。そりゃ、必要なら仲間を頼るくらいはしてみせるけど、さ。


「何が言いたいのさ」


「ですからぁ。クーリアさんって、割と自分の犠牲を勘定に入れずに行動したりしてませんかって話ですよ~。今回の戦いでは、クーリアさんが前に出る必要は全く無かったじゃありませんかぁ。百歩譲って一撃受けるまでは油断していたからとして理解できますけど、その後のあれは何ですかぁ? ボロボロのぐちゃぐちゃのまま『ゾンビ・シャドー』みたいに立ち上がって。大人しく寝ていれば後は私とディンさんで片付けることも出来たんですよ~? もしかしてトドメは自分が刺さないと安心できないタイプですかぁ? それって仲間を信用しきれてないってことですかぁ? もしそうならとっても悲しいです。っていうかそもそもあの攻撃でその程度の怪我っておかしくないですか、何かまだ秘密にしてることあるんじゃないですか」


「待って待って、ずれてるずれてる!」


 ゆったりとした口調のまま早口になる器用なアリリを宥めて、呼吸を整えさせる。


「はあはあ。……とにかく。私が言いたいのはぁ、クーリアさんはもうちょっと自分を大切にすべきだということですぅ。本来は当たり前のことなんですけどぉ、もしかしたら自覚がないのかもしれませんから言っておきますね~。クーリアさん、貴女は――『女の子』なんですよぉ?」


 ――――。


 ああ。少し、虚をつかれた感はある。正直、一体なぜこんなにも怒っているのか理解しきれていなかった。でも、そうか。そういう心配をされてたのか。

 ふと、視線を横に向けて。ベッドに横たわっている状態では、床下にいるであろうディンを確認することは出来ないけれど。もしかしたら、彼も怒っているだろうか。怒っているだろうな。そう思えた。


「まあ? クーリアさんに限っては傷物になっても貰ってくれる相手がいますしぃ、問題ないのかもしれませんけど~」


「僕は傷物でも大丈夫です。でもどうせなら綺麗なクーさんが欲しいです」


「何言ってんのお前ら何言ってんの」


 特にディンはようやく喋ったと思ったらいつも通りというかいつもに増して欲望に忠実過ぎてどうなんだ。――もしかして怒ってるから?


 ぐだりそうな流れの中、でもまだ残っている違和感、と言うより解決しきっていない謎が思い起こされて。口にする。


「ところで、結局あの『トロール・シャドー』が『ゴブリン・シャドー』を扇動して居住区を襲ったってことで良いんだろうか」


 あまりにも不可解な襲撃。ともすれば人為的なものすら感じさせる階異らしからぬ行動。そして居住区近辺では生まれようもない強力な階異の存在。これらの謎が解けない限り、完全に安心することは出来ない。


「安易にそう決めつけるのは危険かもしれませんね~。あの『トロール・シャドー』にしても、いかに強力な個体といえど階異は階異ですからぁ。他の階異を統率するような真似が出来るとも思えません。仮に出来たとしても数体が良い所ではないですかぁ?」


「なら、『人』か?」


 あまり、考えたくないことだけれど。黒幕が『人』であれば可能なことではある。可能だろうというだけで、簡単にとはいかないだろうけれど。


「個人ではあり得ませんね~。となると組織だった犯罪行動になるわけですけどぉ。それで誰の情報網にも引っかからないのはあまりに不自然です~」


 結局、今のところは何も分かっていないに等しいということか。準備が整えばすぐにでも『登る』つもりだったけれど、この謎を放置しては心残りになりすぎる。

 どのみち怪我が治るまでは動けないし、しばらくは様子見になるだろう。



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