変化
紗奈は2歳になり、母の希望で個人宅のピアノ教室に通うことになった。と、同時期に母に変化が起きた。
母は家に居る時より、職場に居るほうが楽しそうだった。
そう、母に好きな人が出来たのだ。
上司の、父よりかなり若い男。長身で、母の前ではいつも笑っていた。母もその男が傍に居る時は満面の笑みだった。しかし、帰り際になると母はとても寂しそうで、悲しそうな声のトーンで
「帰りたくないわ」
「また明日会えるだろう」
「、、、、、」
毎日私はそんなやり取りを見ながら、母が私に声かけてくれるのを待っていた。
母は上司に別れを告げると、私の手をグイと引っ張り、車まで歩いた。車中もただただ無言で、空気は重苦しかった。そんな空気が嫌だったのか、私はその日あった出来事をきゃっきゃと話すのであった。しかし母の返事は素っ気なく、しょんぼりとしていた。
父は、母が不倫をしている事を全く知らなかった。毎日ゆっくり会話する時間もなく、家が寝て食べるだけの場所になっていた。仕事も毎日激務で睡眠時間も短く、家庭の事を考える余裕など無かったのだろう。
この時から、母は日に日に笑わなくなった。父の唯一の土日休み、3人で出掛けてもただ並んで歩いているだけ。父と私は3人の時間が好きだったが、母がいつも上の空で心此処にあらずだった。
「ママ、パパ、ブランコやってー」
私は父と母にいつもやってもらっている、手と手を繋いでぶらぶら宙で浮くのが大好きだった。だから、3人の時はいつもお願いしていた。
「お!いいぞ~、ブランコやろうか!」
父はいつも笑顔で手をギュッと握り返してくれた。
「、、、、いいよ」
最近の母はあまり乗り気じゃない、どうしてだろう、、、、?
「、、、、、、」
3人の心が、段々とすれ違っている事を父は気づかなかった。
私はその微妙な空気を静かに感じ取り、母を観察するようになった。