紗奈産まれる
産まれてきた事実を変えたいと、何度思ったことだろう。この世の全てが平和ならどれだけの人が幸せなのだろうか、、、。人だけではなく、空気すら汚染されたこの世の中で、幸せになる道標を模索する旅。それがこの作品です。
冬の寒さも本格的になる12月19日、程よく拓けた田舎の総合病院。朝の10時半に呻き声をあげ、私は産まれた。
3500g超えの、最近の子供にしては大きな体だった。母は5時間も分娩室で出産に立ち向かっていた為、息をするので精一杯だった。
父も母も、健康体で産まれて来た事に安堵の溜息だったが、2週間経っても私の目が開かない事をとても心配していた。しかし、看護師さんやお医者様は「時期に開きますよ」と笑って過ごされてしまった。父達の不安は余所に、案の定私の小さな瞳は開いたのだった。
私は一歳になった。母は大手宅配業に勤務していた為、会社に併設してある託児所に預けられる事になった。私の周りも赤ちゃんばかりだった。
母は安心して働くことが出来た。だが、母子手帳には母親特有の悩みや不安が書かれてあった。
『紗奈が産まれて3週間、漸く目を開けてくれた。円らな瞳は私を見つめて、小さな手でギュッと握ってくれた。この子とこれから頑張っていこう』『紗奈の夜泣きが酷くて寝不足の日々、、、身体がしんどい』『紗奈は他の赤ちゃんに比べて大きいことが心配。成長したら太ってしまうのではないか、、、』『他の子はもうハイハイから歩いてタッチが出来るのに、なんで紗奈はまだハイハイすらちゃんと出来ないのだろう、、、』『母乳を上げすぎなのだろうか、胸が萎んできてしまったし、紗奈もどんどん大きくなる、、、』
ノートには嬉しいという内容は一切無く、ママ友の子供と比べた焦りや劣等感が記されていた。看護師さんとのやり取りからも、新米ママらしさが伝わった。
こうして父と母、私の三人暮らしは始まったのだった。