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桃太郎少女  作者: みいとそーす
第三章
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昔話をしよう

「ちいと、昔話をしよう」


長老は、文机の前に腰を下ろし皆の顔を見た。ましらは両手を合わし、親指をぐるぐる回している。


「ほー、昔話」


特に興味も無い様子で、ましらは胡座で手に顎をのせる。桃は土佐犬の顔を伺った。眉間に少し皺がよっている。でも先ほど怒鳴り散らしたのでぐったりと疲れたのか、怒る気力はもうないようである。 キギシはさっきの女にもらった饅頭を口に運んだ。それを見ながら、長老はゆっくりと口を開いた。


「この島には、もともと人は住んでおらんのじゃった。大昔の話だがの。


私等の先祖はお前さんらが来た方向の山奥で暮らしていた。


だが、ある日突然鬼がやって来てその集落の者はほとんど鬼に喰われてしまった。だが、


子供らはどういうわけか全員残った。その子供らは幼いながらに、新しい住処を探してここを見つけた」


キギシの、饅頭を食べる手が止まった。 顔は平常を装ってはいるが、その手が微かに震えている。


「これはの、さっきお前らが食っていた餅をついた鬼さんが聞かせた話じゃ。


山を襲った鬼の中に、そのことを後悔した鬼がいた。 山を襲う中で、その人々にも子供がいることを知ったのだ。 鬼はその子供の母親を殺したことをえらく罪に感じた」


「それで、その鬼の罪滅ぼしが始まったってわけか」


ましらが、間髪を容れずにその先を当てた。

その鬼の罪滅ぼしが今も変わらず続いているのである。


「左様、わしの話せるのはここまでじゃ」


長老は全てのことを話すと満足げに笑った。

桃達には、その話は受け容れ難いものだった。



「有難うございました」


桃は軽く頭を下げた。男達は後ろも見ずに先を歩く。桃も直ぐについていった。

広場に戻ると、島人達が焚火を囲んで晩食を作っていた。女達は、木を削って細くしたような棒に餅を巻き付けて焼いている。見るだけで男達の口からは涎が垂れていた。

帰って来た者たちを、島の者は少しおとおどしながらも温かく迎えた。


「明日、この島を出ます」


桃は、もらった餅焼きにかじりついて話を切り出した。


「あんね、そんなに早く行くのね?もうちいとゆうくりしとってくんさい」


一人の女が、そう言うと他の女も同じようなことを言った。それは、社交辞令ではないようだ。


「ありがとうございます。ですが、急ぎの旅ですので。早く故郷に帰らないといけないのです」


桃が、申し訳ない顔でそう頭を下げると女達は少し残念そうな顔をしたが、素直に聞き入れた。


「そうなのね、ゆうくりしておいきなさい。

寝床を用意してあげるさね」


あまりにも温かく迎いれてくれるので、桃はじんわりと涙を堪えた。


男達はその温かさに、もう鬼に怒る気力も失せもくもくと餅焼きを頬張っていた。


知られざる鬼の素顔、この島の者達の背景に潜む鬼は一体何者なのか、本人等は知る由もない。











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