チートマシマシで転生して逆ハー狙ったのに気がついたら未婚で28歳。 この理不尽に決着をつけるべく私は棒を手に魔王城へ向かった。
「げぶらッ!」
私のクォータースタッフがグレーターデーモンの顔面にめり込みました。
そのまま私はグレーターデーモンをホームラン。
グレーターデーモンは☆になりました。
「ほわちゃー!!!」
私はポーズをとりました。
かけ声は適当です。
でもこれはお約束なのです!
案の定、前からはゴーレムやらドラゴンがやってきます。
全員ぶっ殺す。
すでにこのとき私の目は緑色ではなく危険色の赤になっていました。
そう。このとき私はキレていたのです。
なぜ私がここまでキレているのか?
それは話すも涙、聞くも涙の物語なのです。
◇◇
私がこの世界に生まれ変わったのは28年前のことです。
ええ。ワタクシ転生者です。
前世での私は売れない演歌歌手でした。
ある日、営業でスナックに訪問していつものように歌っていると、焼酎をものすごい勢いで飲んでるハゲが私に言いました。
「ねえちゃんケツ触らせて。なあなあ」
「来世で美形に生まれたらな。このクソハゲ」
つい反射的に言ってしまいました。
ええ。私は……少しだけ……少しだけ口が悪いんです。
あ、まずかったかなあって思ったんです。
思ったんです。
少しだけ反省したんです。
それなのに。
何かが飛んできました。
それが私の顔面にクリーンヒット。
ぶべら!
それはビール瓶でした。
ビール瓶を顔面で受け止めた私はそのままテーブルに激突。
さーよーおーなーらー♪
おお ああああ よ。死んでしまうとはなにごとじゃ!
『ああああ』なのは前世の名前がどうがんばっても思い出せないからです。
で、気がついたらお約束。
神様登場です。
「おお、ああああよ! し、げぶら!」
ムカついた私は瞬時で起き上がり飛び膝蹴りを入れました。
そのまま本能の赴くまま殴りつけ髪の毛を引っ張り押し倒しました。
そしてトドメとばかりにエルボードロップ。
……神様に。
「はあはあはあはあ……おどりゃああああああああああッ!」
それは獣の咆吼でした。
私の中に眠っていた野生が解放されたのです。
自虐ネタは自分で言うから許されるのです。
調子こいた他人に言われるとこれ以上無いくらいムカつきますよね?
「ひいいいいいいッ! な、殴らないで!!!」
やだワタシ殴る。お前シネ。
私はさらに馬乗りになってマウントパンチの体勢に入ります。
「キシャアアアアアアアアッ!」
私の獣の咆吼に怯えて体を丸くする神様。
あとで考えるとたいへんな美形でしたが、その時の私は完全に理性を失っていたのです。
たぶん……ビール瓶を投げつけられて脳のどこかを悪くしてたのでしょう。
そしてオラオラモードに入った私に神様が叫びました。
「っちょ! ちょっと待って! あのね! ら、来世はち、チートマシマシにしてあげるから!!!」
私の手が止まりました。
チートマシマシ。
私の大好きなモヤシ大盛りラーメンのような響き。
あの悪魔的山盛りのような甘美な響き!!!
「チート……マシマシですと……」
ごくり。
「そうそう! 君が死んだのはボクのミスなんだ。だから(略)」
生前『なろう』を愛読していた私は瞬時に理解しました。
超イージーモードの人生の予感!!!
男を手玉にとりながらの史上最強の生物みたいに好き放題できる人生。
努力!
正義!
秩序!
鬱展開!
あと挫折!
私の大嫌いな全てを超越する力を代償ナシにもらえるのです。
あと私の大好きな金と権力も。
みなさんも大好きですよね?
やばい……
完璧すぎる!
完璧すぎる人生なのです!
私の時代来たアァァァァッ……
私は目をキラキラさせながらつぶやきました。
そして神様との話し合いの結果、私はありとあらゆるチートを頂きました。
金! 美貌! 権力! 魔法! 物理! 運! あと毒耐性とかも。
おっしゃー!!!
これで美青年を侍らし好き放題できる生活が待っているのです。
ですが私は不安でした。
そう性格です。
私の性格は……まあ正直言うとあまりよろしくありません。
理屈っぽく斜に構え、そして皮肉っぽく口が悪いです。
……それとやや暴力的です。
これでは男が寄ってきません。
男性のみなさんはなんでも言うことを聞いてくれてハーレム容認の心の広い女が好きですよね?
よくわかります。
よくわかりますとも!!!
だって私も男に同じ事を求めてますからね!!!
ですので、私は言いました。
「性格を良くしてください」
「無理。じゃあ転生先に送るね♪」
神様は大量の粗大ゴミを出したあとのようにさわやかな顔をしてました。
そして私の意識はそこで消えました。
クッソ! お前顔覚えたからな!!!
逃げられると思うなよ!!!
◇◇
28年後。
詐欺だ! なんだこのクソ人生!!!
私は心の中で叫びました。
ええ。
私はまわりから全力で愛される努力をしましたとも!!!
なのに……なのに!
28歳の誕生日を迎えました。
フラグを一切立てずに。
私が生まれたのは中世ファンタジーの世界。
そこは魔王軍と人間が戦争を続ける荒廃した世界でした。
幸いなことに私は人間に貴族に生まれました。
それも領土がやたら広い公爵家。
生まれながらの勝ち組です。
しかも王族じゃないので魔王軍に負けてもいきなり殺されたりはしません。
と言いつつも、殺される可能性はゼロではないので全力で軍備を整えました。
超必死で。
……気がついたら家になくてはならない存在に。
……婚期が遅れました。
だって家から出せないもん。
知られたらダメな秘密も、外に出したらダメなあのノウハウも私が握っていますから。
はふん。
そんな私も婿を取るという話はありました。
それは花も恥じらう16歳の時です。
相手は37歳。
貴族の5男。
職業はニート。
……年と職業はアレですが、さすがは貴族の息子です。
この世界の貴族は長年美形同士が結婚しているので彼も美形でした。
美中年ウェルカムです!
ところが……
……戦死しました。あっさり。
いえね。
相手の両親がニートじゃ世間体が悪いと騎士団にぶっ込みました。
安全な後方でうろうろしているだけの簡単なお仕事です。
一年ほどしたら騎士として従軍という経歴をひっさげ英雄扱いで私と結婚です。
まあ私のチート能力で領地経営はこれ以上無いくらい儲かってます。
ニートの旦那の一人や二人問題ありません。
美形ですから!!!
美形ですからね!!!
ところが……
……あっさり魔王軍に包囲されました。
包囲と言っても人質に取られる程度です。
あとで身代金を払えば帰ってきます。
人道的っていいですねー。
……ヘタに抵抗して殺されました。
まあそういうことです。
戦争慣れしてないヤツはこれだから……
ということで婚約者を失った私にいろいろミソがつきました。
でも公爵ですので!
さらに縁談は続きます。
さあ来い!
貴族のニートたちよ!!!
……なんかみんな死にました。
さすがに三人ほど死ぬと噂が立ちます。
死神に取り憑かれているとか何とか。
まずい!
私は思いました。
私もすでに20歳!
この世界では適齢期後半!!!
結婚相手を自分で探さなければ!!!
まず私は領地の騎士団に目をつけました。
身分?
なあにガキさえ作っちまえばいいんですよ!(ゲス顔)
この状況だったら両親も親戚も文句は言わないでしょう。
「……きょ! 教官殿!!!」
私が手料理片手に騎士団の駐屯所へ行くと全員が直立不動で敬礼しました。
えー。ほら、魔王軍が攻めてきたら命が危ないじゃないですか。
なのにコイツらぬるーい訓練してたんですよ。
だもんでちょっとしごいたんですね。
ハート○ン軍曹っぽく。
私の設置した地雷原でランニングとか。
私の作った榴弾砲けしかけたりとか。
ロープの上でチェーンデスマッチとか。
巨大怪獣をみんなで討伐したりとか。
たくさん、たくさん遊びました。
今では美しい思い出です。
そのおかげか我が領地の騎士団は魔族を殲滅。
領地は平和になりましたとさ。
めでたしめでたし。
でも知ってるんですよ!!!
鬼軍曹と思っていた女性が実はか弱い女の子だった。
本当の姿を知って身分の差を超えて愛をはぐくむ。
少女漫画で見ました!!!
……たぶん。
「今日は何のご用でありますか!!! マム!!!」
さすが私の騎士団です。(ダブルミーイング)
話が早い!
では本題を切り出しましょう!!!
「婿を探しに来た!!! さっさとパンツを脱げ!!!」
やや下品ですが軍隊というのは簡潔明瞭にものを言うところです。
ですので私もはっきりと簡潔にものを言いました。
「こ、殺さないでくださいであります。マム!」
命乞いされました。
おかしいです。
少女漫画と違います。
つうか破壊活動でなくて生産活動にいそしもうという話なのですが?
好きでしょ?
そういうの。
「む、無理であります!!! マム!」
だとコラァッ!!!
私はメンチを切りました。
「貴様ぁッ! なにが気にくわない? 公爵家の婿だぞ! 美形だぞ!!!」
「はッ! 教官殿と一生をともにするのが無理であります!!! マム!」
なんだとてめえ!!!
くっそ!!!
私は逃げ出しました。
だって反論できないじゃん。
ちょっとやりすぎたと思ってたのよ!
思ってはいたのよ!!!
うわあああああああんッ!!!
……そして私はターゲットを変えました。
大商家。
大農家。
(レベルを落として)そこらの兄ちゃん。
……旅人。
……ヤー公。
全員に断られました。
しかももれなく命乞い付きで。
あ、ヤー公は全員タコ殴りにして壊滅です。
どうやら私の悪評は遠い地までにも響き渡っていたようです。
熊を素手で倒した。本当です。
盗賊を一人で倒した。本当です。
悪徳商人を広場で裸で逆さ吊りにした。本当です。
巨大怪獣を殴り倒してペットにした。ドラゴンのポチのことを怪獣言うな!!! かわいいんですからね!
全て真実のようです。
女の一生は重荷を背負って遠きモテを行くがごとし。 私。
そんな感じで色々あきらめてから数年。
私は28歳になりました。
栄える実家。
勇猛果敢で戦功をあげまくる騎士団。
金まわりが良すぎて笑いの止まらない商人。
収穫量アップで暮らしの良くなった農民。
みんな笑顔です。
私のチートはみんなを幸せにしました。
ええ。みんなを……
……で、私の幸せは?
なんで私はこうなった?
性格が悪い?
やりすぎた?
うるせー!!!
そのへんは言われなくても理解しとるんじゃ!!!
私は外部に原因を作らないとやっていられないほど精神的に追い込まれてました。
そうです。
外に敵がいればいいのです。
そうすれば私の精神の均衡は保たれるのです。
そして私は考えました。
考えて考えて私は答えを出しました。
全部魔王が悪いんじゃね?
全部あの野郎がいなければ起こらなかったんじゃね?
◇◇
そこまでわかれば行動あるのみです。
私はクォータースタッフを持って旅に出ました。
というか魔王城へ真っ直ぐに突き進みました。
武器なんてなんでもいいのです。
私に倒せない相手などいませんから。
途中、船や岩山が行く手を遮ります。
なあに海などバタフライで泳げばいいのです。
山など私のパンチでどうにでもなります。
魔王を倒す聖剣?
空を飛ぶ道具?
全部無駄です。スルーです。
「ふはははは! ワシが魔王四天王! 力のげぶらッ!!! っちょ! 名乗りの間に殴らないで! っちょ! や、やめ! うぎゃあああああああ!!!」
私は四天王や魔王軍をタコ殴りにし突き進みます。
そしてたった数日で魔王城に辿り着きました。
そう。それが冒頭の出来事なのです。
◇◇
「ふはははははは!!! 我が四天王最後の……ぎゃああああああああッ!」
私の裏拳が最後の四天王の顔面にめり込みました。
ふおおおおおおおおおッ!(呼吸法)
「魔王どこじゃああああああッ!!!」
私はふしゅるーふしゅるー言いながら魔王城へなだれ込みました。
親衛隊? トラップ?
全部物理的に壊しましたとも。
私はクォータースタッフを振り回します。
途中、物理無効の敵が出ましたが魔法で吹き飛ばしました。
あ、ワタシ魔法の方が得意なんですよ。
加減ができないだけで。
圧倒的な力で魔王城を蹂躙する私。
そんな私のいるところへ大きな存在がやってくるのを感じました。
魔王でしょう。
「騒がしいと思ったら人間か……とうとう勇者が来たのだな……」
勇者ちゃいます。
「とうとう来ましたね魔王。私の幸せのために滅んでもらいます」
私はポーズ、いわゆるジョジョ立ちをしました。
ドドドドドドドド!!!
「ふはははは! 来い勇者よ!」
スルーです。
ひどい!!!
そして我々の戦闘が始まりました。
「ワシが公爵領令嬢じゃあアアアアッ!」
どごーん!
なんというか……一発でKO?
この体……チートすぎです。
そして私はポーズを決めアレをやります。
喧嘩には演出が不可欠です。
そう大きい攻撃が必要なのです。
大きく息を吸い。
魔力を使ってブーストをかけます。
そして大きく声を出しました。
「ああああああああああああああああー!!!!」
この発声法。
難しいんですよ。
でもねこれは宴会芸としてすっげーウケるんですよ!
私の声は反響し増幅されました。
そして魔王城が私の声によって揺れました。
そして粉々に砕け散ります。
地震?
違いますよ。
共振ってヤツです。
ワイングラスを声だけで割るのと同じ原理です。
前世で金がないときはワイングラス割る芸でメシおごってもらってました。
「……な!」
魔王は目を丸くし絶句していました。
喧嘩のコツは相手の心を折ることです。
そう言う意味では私のこのパフォーマンスはそうとうの効果があったと言えるでしょう。
精神的に優位にたった私はここではじめて魔王の顔を見ました。
負け犬のツラを拝みたかったからです。
黒髪。
どことなく中性的な顔立ち。
精悍でいながらも知的な表情。
……あらいい男。
そしてある悪魔的考えが脳に現れたのです。
私はニッコリ笑いました。
「さて。私はあなたと交渉しに来ました。選びなさい。ここで死ぬかそれとも……」
◇◇
あれから一年半が経ちました。
私ももうすぐ30歳です。
魔族が大人しくなった世界は戦と謀略の戦国時代へ。
ただし圧倒的戦力をもつ公爵家以外は。
私は公爵家を継ぎました。
パパンもママンもどうしようもなくなって私に領地を丸投げと。
と、言いますか……
「魔王様! 領地の運営ですが……」
執事さんが紙の書類を山ほど持ってきました。
執事さんの頭には人間にはない角が生えています。
えーっとね。
結局、私は魔族全員を子分にしました。
……領地ごと。
公爵家は世界の半分ちょいを手に入れたわけです。
人間が魔族の親分っておかしくね?
よくわかります。
……なぜか魔族の皆さんは私が魔族だと信じて疑いません。
それは人間も同じでした。
ですが相手は王族の親戚である公爵家の娘です。
おいそれとは糾弾できません。
はい私は安全です。
……いまのところは。
そして魔族さんたちの扱いも問題でした。
滅ぼす?
どうやって?
私を除けば全人類と同程度の戦力ですよ。
諸侯ではかないません。
全人類が団結すれば別ですが、三人集まれば争いが起きるのが人間です。
大丈夫でしょう。
私がどちらにつくかは言うまでもありませんし。
虐殺は許しません。
そんなことしたら全員横一列に正座させて端から殴っていきます。
めっ! です。
という訳で魔族さんは私に押しつけることが決定しました。
すべて丸く収まり一件落着。
うまく行きすぎてる気がします。
……じゃあ魔王は?
私は紅茶を口に運びます。
すると私の座っている椅子が言いました。
「マイハニー……そろそろ限界なんだ。許してくれ」
「あらあなた。相変わらず根性がないのね」
そう言うと私は持っていた乗馬用の鞭で魔王のお尻を軽く叩きます。
「あふん♪」
魔王はうれしそうな声を出しました。
このへんの力加減に信頼関係があるといえるでしょう。
あれから魔王は開けてはいけない扉を開けてしまいました。
女性にボコにされ、屈辱的な敗北を迎え、そしてその相手に全てを征服される。
そこに快感を見いだしてしまったのです。
要するにMです。
私があのとき出した条件。
それは……
「さて。私はあなたと交渉しに来ました。選びなさい。ここで死ぬかそれとも私の夫になるか!!!」
確かにこういうプレイはビジュアル的にきついかもしれません。
私も最初は抵抗がありました。
ド変態キモイ?
よく耐えられるな?
いえね、そうでもありませんよ?
よく考えてみましょう。
彼は私が本気で殴ってもヒールで治らないような重篤な怪我はしません。
それに美形で仕事もできる男で、こうやって遊びにも喜んでつきあってくれます。
なにより……
「あ、愛してるマイハニー」
私にべた惚れなのです。
私はその顔にゾクゾクとしました。
そう。
開けてはならない扉を開けたのは彼だけではありませんでした。
私もまた扉を開けたのです。
ええ。
私たちはこれからもこうやって生きていくのでしょう。
ダラダラと。
私はもう一度紅茶を口に含みました。
すると何者かが走ってくる音が聞こえてきました。
「魔王様!!! ……と元魔王様。全人類が『この戦国時代はお前らが全部悪いんじゃ!』と宣戦布告をしてきました!!!」
あらまあ。
うふふふふふふふ。
まだしばらくは退屈しないですみそうですね。
私は持っていた鞭をぴしっと振りました。