お前の笑顔
俺たちが襲撃を受けたその夜、国境へ入る手前で野宿をした。
国境を抜けるとすぐ見える所にソーラカの街があり宿屋に泊まる事はできるのだが、今のケイを人目にさらす事はできなかった。
襲撃を蹴散らし国境へ入る手前で休む。
その間ケイは休むことなく話続けている。
これだけ気分が高揚し続けると、その反動が恐い。
案の定晩飯を食べる頃から一言も話さなくなる。
食べ終えてただ一言「あの人たち………死んだの?」
と聞いてきた。
俺もジョーも暫く動けないように痛めつけてはきたが殺してはいない。そう告げると「そう……。」と一言帰ってきた。
フレアとユピィは当然、コスモもケイにくっついて離れない。マーゴですら心配そうに俺に「何とかすれ」と言ってくる。
何も思い付かないので、ジョーと二人でケイが住んでいた世界について聞いてみた。
ケイが暮らしていた世界は想像もつかない世界だった。
魔法は全くないと言うが、俺にしてみれば魔法より凄い。
馬も使わずに走る馬車、鉄の塊が空を飛ぶと言う。
地面も平らに整備されており、街は明かりで溢れているという。
それに電話という機械、ケイが持っていたものを見せてもらったが、あんなに小さなものが遠く何百キロと離れた人とおしゃべりできるという。
俺とジョーは口を開けてただ一人この世界に来てしまった少女の話を聞いていた。
「凄いな…。」
そんなありふれた言葉しか出ない程ケイがいた世界は想像を絶した。
それに治安がとてもいい。
人が殺される危険は、この世界ではいつも隣り合わせにある。
しかし、ケイは「人が殺される場面に出会う事は…あの世界にいればまずなかったと思う。私が住んでいた国は、特に治安がよかったから。
でも、犯罪に巻き込まれる可能性はあったんだよね。ただ、自分の身には起きないと思ってた……。
この世界に来てもまだ、自分とは別の所で起きているような気持ちでいたんだ。
だって、異世界に来るなんて小説の中だけだと思っていたんだもの……まさか自分に起こるなんて………。」
そうだ、ケイは突然自分の常識とは違う世界へ突然自分の意志も無視されて連れてこられたんだ。
まだこんなに小さいのに。
俺は考え違いをしていた。
ケイは年のわりに落ち着いているし、精霊の母になった事も納得していると思っていた。でもならざるを得なかったんだ。母にならなければ俺たちの庇護が受けられない事がわかっていたから母になろうとしていたんだ。
ジョーを見れば同じような事を考えているのがわかった。
俺は後悔と反省をした。
ただ、ここで立ち止まることは許されない。
これからはケイの負担が少しでも軽くなるようにしてあげよう。
先ずは明るい笑顔でいられるようにしよう。
ケイ、俺がお前の笑顔を守ってやるからな。
だからお前は笑っていてくれ、俺の分まで。