任命のお時間です
「おめでとうございます! あなたは第445期、ヒロインに任命されましたぁ!!」
暗闇の中、女の声がした。返事をできないでいると、いらだった様子でさらに声をかけてくる。
「だーかーらっ。あなたは第445期ヒロインに」
「任命されたんだろ?」
俺があきれ声でいうと、女は「わかってるじゃない」と満足げにつぶやく。
「よし、んじゃー。さらばっ! 君は明日から悪と戦ってくれたまえ」
女の声が段々と遠のいてゆく。
「お、おいっ! ちょっと待て!」
訳が分からないまま、よくわからないことを頼まれ、俺は女を引き留めようと声を出す。すると、俺の口からはかわいらしい女の子の声が発せられた。俗にいうアニメ声というものに近い気がする。
「あ、あれ!? 俺の声? ……え? え?」
一瞬でパニックに陥る。女になった? なんで!?
「そういえば。「445期“ヒロイン”に選ばれました」って、言ってたような……」
さらにパニックに陥りかけるが、すぐに冷静になる。こんな非現実的なことが起きれば、誰だってパニックを起こすさ、そして気づくんだ。
これは夢だ。ってね。そう、これはきっと夢だ。夢に違いない。
男子中高生特有の、ナントカ病というやつに違いない。発症しないように気を付けてはいたが、夢の中となっては防ぎようもなかったんだろう。
そんなことを悟っていると、急に目の前が明るくなった。
体が重い、日差しがまぶしい。なるべくゆっくりと身体を起こす。
俺の部屋に姿見はない。しかし、ベッドのすぐ横に窓がある。そちらを向けば、うっすらとではあるが自分の姿が確認できる。
そう、窓に映る自分の姿が、アイドル急にかわいい美少女とかになってたら俺は……っ
「困っちゃうぜ!」
勢いよく横を向く、ついでに声を放つ。窓に映ったのは17年間共に過ごした俺の肉体、そして、発せられた声は「少し低いね」と評される、俺自身の声だった。
「……夢か。って、当たり前だよな」
急に恥ずかしくなって、先ほどの行為を全否定する発言をする。ああ、そうです、俺が馬鹿でした。
「夢じゃないですっ!!」
「ふぅ」と、ため息をついたとき聞き覚えのある女の声が聞こえた。俺は冷や汗をかきながら声のした方を見る。
「おはようございます❤ 正義のお時間ですよ」