第一曲人形、1節
この物語はよくありがちなお話をわたしなりに書いたものです。かなり前に書いたもののリメイクなので、理解しづらい文もあるかと思います。ご了承ください。
時はまだ薄暗い頃。
一人の男が小高い丘から町を見下ろしていた。
大きな帽子とのび放題の髭で顔が分かりにくい上、ぼろぼろになった黄土色の上下にポンチョ型のマント姿。肩からかかったこれまたぼろぼろの鞄から笛がとび出て、ポケットからは簡素な生地でできた人形が顔を出している。
「まっ…町だ。」
と言って、そんなみるからに怪しい男がよろよろと町を目指して降りて行った。
第一曲ドール
1節《笛吹は××マスター?!》
町には果物や野菜などの屋台がちらほら出て、さほど大きくないが男たちもいて家の造りも王族ほど豪華でないにしても庶民が住むには充分すぎる家々。それが連なって間に道が出来ている。
町としては大きくはないが小さくもない。賑やかな町だ。
男は革紐をほどき、小さな袋の中を見てため息まじりに呟いた。
「…よし、まずは金を稼がないと。」
っというと腹の音が賛成と言わんばかりに音をたてた。
そのまま歩いて行くと円形に開けた、町の広場と呼べそうな場所にたどり着いた。そこには、十人近い子供達が走り回っていた。それを見て、男は広場の真ん中辺りに腰をおろした。
「おじさん、そこにいると邪魔だよ。」 遊んでいた男の子が男に行った。すると、おもむろに鞄から人形と笛を取り出し人形を地面に置いた。
「……?」
男の子は地面に置かれた手のひらサイズの人形を不思議そうに見た。
男はそれを確認し、笛を構えて軽快なリズムを奏でた。
すると地面に置かれた人形が男の笛のリズムに合わせて、跳んだり回って側転、バック転とまるで生きているかのように動きだした。
「わぁ…すげぇー!」
その光景に興奮した男の子の声が周りの子供達を集めた。
「かわいい!」
「どうなってるんだぁ?」
「お人形さんすごい、すごい!」
子供達が思い思いの言葉を言う。
男は笛の音をフィニッシュにふさわしい音色で終わり、人形はそれに合わせて最後はお辞儀をした。
「はい、面白いと思ったり楽しんだ分のお代をよろしく。」
髭ずらからは想像できないおっとりした声は、帽子をひっくり返し前に出して行った。
「あんた…もしかして人形マスターかい?」
「…!!」
いきなり後ろから声がして振り向いた。そこには少し小太りなおばちゃんが荷車を引いて立っていた。
「さっきのやつ。凄いねぇ〜!笛で動かしてるんだろ?」
おばちゃんらしいフレンドリーな話し方に男は、正気に戻って答えた。
「はい…そうです。」
「でも子供相手じゃ儲からないよ。ここの子供はそこまで裕福じゃないからね。」
「そうなんですか?!」
前に向き直ると、また人形が動かないか見ている子どもとキョトンとした顔をむけている子の二通り。
帽子をみても案の定何も入っていない。
町によって儲け方があるが、男はこの町ならこれが1番手っ取り早いと思ったのだ。しかし、読みがはずれておばちゃんに一蹴されて再びため息をこぼした。腹も鳴る。
「もしかして一文無しの腹ペコかい?じゃあ、うちにくるかい?」
「…え?!いいんですか?」
おばちゃんはニカッと笑って、
「あたしも踊り人形見たしね。それにあんたに少し頼みもあるんだ。」
言って荷車を持たされたが、かなりの空腹な男は鋭い洞察力のおばちゃんに喜んでついて行った。
着いたとこは小さな食事処だった。どうやらおばちゃんはここの店主らしい。男は店を見渡せるカウンター席に座り、豪快に盛られた特盛チャーハンを食べて人心地つき、周りを見渡した。
「…客がいない。流行ってないのか…?」
店の真ん中に小さなステージ、奥に蓄音機と丸いテーブルが8つほどあるが、男以外の客は一人もいない。
「うちの店の常連客は少し遅い時間に来るからね。心配しなくていいよ。」
男は口に出してしまった言葉におばちゃんは笑って返した。
また新しいチャーハンが出てきた。
外から笑い声が聞こえ近づいてきて、店の戸から3人の男たちが入ってきた。
「今日も来たったぞ、シエスタ。いつものな!」
っと言って客達は席に着いた。するとその客をかわきりに次から次へと客が入って来て、あっという間に店の席がほとんど埋まっていた。
「おーいシエスタ、まだか?そろそろだろ?」
最初に入って来た客の一人がおばちゃん、シエスタさんに問いかけた。
「…もう来るから。先に注文聞いとくよ。」
客達はシエスタさんに向かって席から注文し、シエスタさんはその声を聞き分けて紙に書いていった。一通り注文の声が止んだころにカウンターの奥の階段からパタパタと音をたてて、一人の女性が降りてきた。
「ごめんなさい!遅くなりました。」
女性はオレンジがかった金髪をみつあみに、肌の白さは透き通るよう。紫陽花を思いだたせるワンピースに白いエプロン。スラッとしたラインにあった手足は簡単に折れてしまいそう。
そんな彼女に男は目を奪われ、時間が止まった気さえしていた。
「ちょうどいい時間だよ、レミィ。」
シエスタさんがそう言うと女性、レミィはニッコリ笑って真ん中のステージに駆けた。
「待ってました!」
「よ!魅惑のダンシングドール!」
「今日もかわいいねぇ〜。」
客達はレミィに口笛や声をかける。それに笑顔で手を振る。
「遅くなりました。皆様、心地よいひと時をお楽しみください。」
ステージの上でスカートを少しつまんで頭を下げた。皆から拍手が贈られる。男がふと目線を広げると、蓄音機の側にいたシエスタさんがスイッチを入れた。
「…え!?」
男は蓄音機から流れた特殊な音に驚いて声をもらした。
「これ…ドールコード」
まだ序盤です。頑張って書き進めていきますので、よろしくお願いします。