第一章
唐突に魔法失敗;
「今日は魔法陣教えてやる」
ヘルギがジュリアーノに魔法陣を白墨で描きながら、くどくどと説明をしていた。
「おまえはアホだから、なんべんでもいうがな。ぜってー間違えるんじゃねーぞ!」
ジュリアーノはへらへら笑って、
「わぁかってるってぇ。いちいちうるせぇなあ。俺は先生の愛弟子なんでしょ?」
「う、ううむ。認めたくはないが・・・・・・」
ヘルギが腕組みをしながらジュリアーノから視線をはずす。
「だったらじぇ〜んじぇん、問題ないっすよ〜」
「いや; おまえの『問題ないっすよ〜』は、いつでも問題を起こせる、といっとるようなもんだろが;」
「あ〜。ひ、ひでえこという〜」
ジュリアーノは白墨を投げ捨て、床に落とす。
するとその白墨はぽっきりまっぷたつに折れてしまった。
「あ〜あ、もったいねえ」
ヘルギはそれを拾い上げた。
ものを大切にする、貧乏性のヘルギ(泣。
「ぬ!?」
ヘルギがジュリアーノの描いた魔法陣を見て、さーっと顔色を悪くした。
「ジュリアーノ。おまえこれ、ラテン語だよな?」
「そうだよ」
ヘルギは今度は真っ赤な顔をして怒りだし、ジュリアーノの襟首を揺さぶる。
「ててててめぇぇぇ! ラテン語はラテン語でも、ありゃあサバトの使う文字じゃねーか!」
「だって俺、悪魔使いジャン」
(サバト文字は魔術師によって使うものもいたので。でもヘルギは違うと考えてください^^;)
これを聞いたヘルギ、へらへらと性懲りもなく笑うジュリアーノを杖でひっぱたく。
「俺の忠告を聞かなかった貴様には、地獄の釜ゆでを体験してもらうことになるが、覚悟はイイか・・・・・・?」
「え〜っ、俺はゴメンだぜ先生」
「だったらまともな魔法陣を描け、このヴァカが!!」
言い合いをするウチ、魔法陣が黄金色を放って、ヘルギとジュリアーノを吸い込んでしまった。
「あちゃ〜、シマッタ・・・・・・」
「わ〜い、冒険できるねぇ先生」
ヘルギは再び、杖を握る。
変な世界
魔法陣に吸い込まれたヘルギとジュリアーノは、ものすごくのどかな村へとやってきて、拍子抜けしているようだった。
ぼけ〜っとした表情で、周囲を見回すヘルギ。
「ここは?」
ジュリアーノに話しかけたヘルギ、顎をはずす勢いであんぐり口を開いていた。
ジュリアーノが娘を引っかけて、でれでれしていたからであった・・・・・・。
「あのヤロ〜、ただじゃおかね〜」
ヘルギは懐から小型の槍グングニルをとりだすと、コンコンと軽く地面をたたいて
『きやがれ、焔のスルト!』
と叫ぶ。
炎を身にまとった巨人の姿があらわれ、ジュリアーノの背後に立つ。
娘はおびえて逃げ出し、当のジュリアーノも腰を抜かした。
「先生、ひでえよ〜。せっかくナンパがうまくいってたのにぃ」
「地獄に堕ちろ; と、それよりもだ。おまえ、そのキモイ能力、このあたりの貴族にでもつかえって; そんで、情報を集めてこれからのことを検討しようぜ」
「あ、なるほど。さすがだね先生。あったまい〜」
ジュリアーノにほめられ、苦笑するヘルギ。
「おめえにほめられても、うれしくねえよ; かわいこちゃんならわかるけど」
「先生、自分で逃がしたくせに・・・・・・」
ヘルギはグングニルで再び地面をたたきつけようとかまえる。
「おまえの嫌いな精霊を呼ぶぞ」
「分かったから・・・・・・やめてくださいよ;」
「まあ、俺は貴族と契約を結ぶ。そうすることで俺もその貴族も、富と名誉を得られる」
「先生なら」
とはジュリアーノ。
「先生なら向かうところ敵なしだものなぁ。うらやましいよ。何せ世紀の大天才!」
ヘルギは得意満面という顔をし、
「とーぜんだ、かっかっか」
と声を張り上げ大笑い。
とたんにふたりの腹が鳴りだした。
「困ったな。俺、金持ってこなかった。ピエトロおじさんにもらってくるの忘れちまって・・・・・・」
ジュリアーノはミラノ貴族の血を引く若者だったため、お小遣いはいつもおじさんにもらっていた。
「たまには、てめぇで稼ぐのも、おもしれーぞ」
ヘルギはにやりと邪悪そうに微笑んだ。
1リラの価値もねぇ・・。
ヘルギは何を始めるのかと、ジュリアーノはぼんやりヘルギの様子を見ながら、あくびをする。
「退屈なら手伝えよ、スカタン!」
ヘルギは杖でジュリアーノの頭をひっぱたこうとする。
「あの〜」
と声をかけるカワイイ声が聞こえた。
「なあに?」
ヘルギもジュリアーノも、鼻の下を伸ばして振り返った。
「あたしミミルっていいますう。観光協会のものですがぁ・・・・・・」
「か、観光協会・・・・・・。そんなもんあったのか・・・・・・」
ヘルギがぶつぶついうと、ミミルは言いにくそうに、
「ここで商売するなら、女王様の許可をもらってくださいね」
「女王だと?」
ヘルギの目が輝いた。
ジュリアーノはと言うと・・・・・・。
ああ、いうまでもないでしょう^^;
「にゃにぃ〜、まじで女王たまいらっしゃるのぉ? ひひひ、タマランチ会長! これから会いに行きマッスル!」
「だぁぁ、マテ、マテマテ;」
鼻息荒くして走り出そうとするジュリアーノの首根っこをつかみ、ヘルギが必死で彼を引き留める。
「そのまえにだな、俺たち腹へってんだ。メシをくわにゃあ、俺がいかに天才錬金術師であろうが、のたれ死んでしまうだろ。そこで大道芸でもして一稼ぎしたかったんだが」
「大道芸なんてやる気マンマンだったのかよ、先生・・・・・・」
ヘルギは、おまえは黙れとジュリアーノを殴りつける。
「そうでしたか。じゃあやっぱり、今日にでも女王様にお会いします?」
ヘルギは間髪入れず答えた。
「よろこんで」
ヘルギはうまくすれば、取り入って専属の錬金術師に、とほくそ笑んでいたのだ。
なんてあくどい;
ジュリアーノはミミルが気に入ったようで、へらへらとえげつない微笑みを絶やさなかった・・・・・・。汗。
どうなる、こいつら;
というか、1リラの価値もねぇ野郎どもだったり;