プロローグ
「ねぇ、知ってる?」
───唐突に一人の少女が話を振った。
ファーストフード店で漫談に花を咲かせているのは一般の女子高生達だ。
平凡な容姿を無理に飾り立てた化粧は醜く───否───悍ましいくらいで。
そんな彼女達の話に耳を傾ける者はおらず、各々の世界に入り込んでいる。
───ただ一人を除いて。
「何?」
携帯電話を片手でいじりながら興味なさそうに問う。
金髪で明らかに軽そうな少女は彼氏へのメールを怠そうに打っているくらいなのだから、
どんな話も面倒くさいだけなのだろう。
そんな様子の彼女を気にもせず、少女は続ける。
「最近さ、巷で騒ぎになってる人達が居るんだけど、」
その刹那。
「知ってる!!」
弾かれたように立ち上がった一人は、興奮気味に叫んだ。
携帯をいじっていた少女も思わず視線を上げる。
「なんだ、ミナ。知ってるの?」
「当ったり前じゃんか!あんなに有名なんだよ!?
こっほん──基本情報!……えっとねぇ、通称”HERO'S”って呼ばれてるんだけど、
彼等は窮地に追い込まれた人たちを助けてるみたい。……それ以外の情報は皆無。」
肺全ての呼吸を吐き出したような重い溜め息を少女は出した。
その勢いのまま、ずるずると腰を下ろす。
「どっかに居ないかなぁ~?HERO'Sさん」
───”HERO'S”……か。
重い腰を上げ、席を立つ。
適当に頼んだ飲み物を 殆ど飲まないまま、ゴミ箱に捨てた。
外していたヘッドフォンを再度着用し、歩を進める。
華やかな街の”裏”には何が潜んでいるのかなんて誰も知らない。
ただ”日常”と呼べる範疇 は超えているものだろう。