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レオナ・“スイーツイーグル”・アトキンソン

作者: まうまう

女の子はみんな、おっきなのが大好きなのです。

 レオナ・アトキンソンは僕のボディガードだ。身長150センチ(公称)の小柄なのに、二挺のデザートイーグルを両太もものレッグホルスターから0.89秒でドローして、10枚のマンターゲットを5秒以内に全てダブルタップしてみせる。

 そのくせに、普段は淡いピンクのゴシックメイド服に、ブロンドの髪をツインテールにして、まるで日本のアキハバラにいるオタクみたいな格好をしている。

 そんな甘々の格好をして、デザートイーグルを使いこなすものだから、僕の周りの連中をはじめ、“こっちの稼業”の人たちは、レオナのことを“スイーツイーグル”って呼んでいる。

「視線誘導よ。貴方が見られる前に、私に目が行くことで、敵を二つの発想に導くことが出来る。一つ、『何だ、あの変テコリンな女は、狂ってるのか?』と思う敵ならば、そうやって怯んでいる隙に、あなたを逃がすことも、敵を制圧することも出来る。二つ、『やばい、レオナ・“スイーツイーグル”・アトキンソンだ、勝ち目は無い』と思わせることが出来る敵なら、襲ってこないから、既に『見せる警備』が完了しているってこと」

 レオナは自分の前腕ほども長さがあるデザートイーグルをメンテナンスしながら、僕にそう言ってみせる。

 その細い腕は、こんな大きな拳銃を片手で支えられるほど、筋肉がついているようには見えないけれど、レオナはまるでドラムスティックを振るうジャズドラマーみたいに、いとも簡単に撃ってみせるのだ。

「アイキドーよ。相手の力を使ってコントロールするの。強い反動が来ることを予測して、それを力で押さえ込もうとしないで、導くように操って撃つことが出来れば、どんなに強力な弾丸だって、的に当てられる。きっとフェイファー・ツェリザカだって撃てるはず、撃ったこと無いけど」

 僕がマフィアやテロリストのテリトリーで商談を行っているときも、レオナはこんな感じで余裕シャクシャクだ。

 屈強で明らかに目がイッてる男たちに睨まれても、まるでグラビア雑誌のフォトジェニックみたいに笑顔を返してみせる。その笑顔は下っ端のチンピラにも、大組織のボスに対しても、まったく変わりなく振りまかれる。

 そしてもちろん、相手が銃を抜こうものなら、そいつの眉間には1秒以内に、.44マグナム弾がぶち込まれる仕組みになっている。

「セールスマンと同じ、あなたのやっていることと同じだよ。笑顔でいることで、三つのことを相手に伝えられる。『私はあなたに対して敵意はありません』『私はあなたと友好的になりたいの』『私を怒らせたくなければこの笑顔を保たせるような努力をしなさい』っていうことをね」

 確かに僕は武器商人だから、レオナの言っているように笑顔を絶やさないようにしているけれど、自分で銃や武器は持たない主義だし、そもそも暴力が得意じゃない。

 僕は自分が怒ることによって相手を追い詰めるようなヤクザな商売はせず、十分な利益が出る範囲内で出来る限り相手の要望に応え、喜ばれるように商売している。

 でも、そういうポリシーだけでは乗り切れ無いヤバいケースも沢山あるのは事実なので、そういうときにレオナの存在は欠かせない。

「私がデザートイーグルが好きなのは、とにかくデカイってこと。デカイ銃からデカイ弾がデカイ音で出て、相手をぶち抜くっていうことは、銃を持ってる連中ならみんな知ってる。だから、太ももからぶら下げているだけで、相手を威嚇できる。つまり戦略ね。心理戦。ヤバイ状況になるのを避けるためにも、相手より強い武器を使いこなせるんだぞって、アピールしないとね」

 アピールと言っているけれど、実際にレオナがデザートイーグルで戦うと、その射撃の腕には誰もが驚かされるだろう。とにかく『見えない』のだ。

 銃撃戦が始まる瞬間が訪れると、まず、誰よりも速くレオナが銃を抜く。それがまず『見えない』。そして一発目が発砲される。そのときに銃口から漏れる火と大音量にびっくりして、目が『見えない』。そしてその射撃があっという間に終わって、気がついたら部屋一面、頭をぶち抜かれた男たちの真っ赤な血しか『見えない』のだ。

 でもそんな光景を目の前にしても、レオナはさも当たり前のように振舞ってみせる。まあ確かに、その光景を作り出しているのはレオナ自身だし、銃を撃っている瞬間、レオナはずっと目を見開いて、弾丸が敵の頭をぶち抜いて鮮血が飛び散るのを見詰めているだから、改めて驚く必要もない。

 そのうえ、僕に出会う前からデザートイーグルの二挺拳銃姿だったので、レオナ自身はそんなシーンを毎度のごとく見てきたのだろう。けれど、初めて見せ付けられたときは、同様に普通の世界に暮らしていない僕でも “フツーじゃない”と思った。

「全然普通だよ、サラリーマンと同じ。自分の得意分野で貴方に食べさせてもらってるってだけなんだから。あらゆる難しい仕事も、自分のスキルに対する自身を胸に、我慢と度胸で乗り越える、それだけだよ。ちょっと違うのは、私の最期はきっと弾丸を食らって死ぬけれど、サラリーマンの最期はきっと自殺してしまうことね」

 レオナはどんな危険な状況だって、身に纏っているパステルカラーのドレスのように、明るく、ポジティブに乗り越えてしまう。

 一度、プルトニウムの売買でテロリストとの商談がこじれたとき、室内で取り囲んでいる連中全員が、僕たちに向かって手にしていたカラシニコフを構えた時があった。そのときはレオナも入り口でホルスターを外すように指示されていたので、二人とも完全な丸腰だった。

 そのときレオナは何をしたかというと、手元にあったプルトニウム入りのトランクに手をかけて、こう言ったんだ。

「このトランクをガンっ! て開けてドガンっ! てこぼしたらここにいる皆がガン! になるよ! オーケイ?!」

 その言葉に、テロリストの連中は露骨に怯んで、中にはドアから駆け出ていく奴までいた。商談相手のボスは頭を抱えて、こちらの条件を“笑顔で”飲んでくれたのだった。

 こんな感じで乗り切れてしまっているあたり、レオナには運も味方についているとしか思えない。でも、そうやって僕が褒め言葉を口にすると、レオナは首を振って、寂しそうな顔をするのだ。

「運がいいって言うのは、あらゆるものが整った環境で、満たされて生まれてくることを言うんだよ? 昔の私は満たされない、かわいそうな女の子だった。でも、それじゃいけないと思って、理想の自分を、自分の力で手に入れたの。だから、これは運じゃなくて実力。それは絶対」

 そう言って、レオナはライムグリーンやワインルージュのゴシックドレスをとっかえひっかえしながら、実力で手に入れた“理想の自分の姿”を楽しんでいる。

 そして、ガーターベルトのストッキングを履くと、その上からレッグホルスターを巻きつけて、鏡の前でファストドローの練習を始めるのだ。

「知ってる? 2004年にアメリカで開かれたハンドガンの射撃大会で、日本人が優勝したこと。そいつは銃規制が厳しい日本でエアガンを一日1万発撃って、大会2週間前にアメリカ入りして銃を買って、毎日リアルガンを撃っている連中に勝ったのよ。私はエアガンは撃たない主義だし、リアルガンを一万発も撃ったら体壊しちゃうけど、どんな形であれ、勝つための努力は絶対に欠かせないって思った」

 そんな感じで、レオナはホテルにいるときは、弾の抜いてあるデザートイーグルを、太もものホルスターから抜いて、構えて、引き金を引いて、を繰り返し、繰り返し、練習する。反動が無ければ練習にならないんじゃないの? と言うと、レオナは据わった目でこちらを見詰める。

「反動も含めてイメージトレーニングしてるに決まってるじゃない。何もしないよりはマシでしょ。さっき言った日本人と同じだよ」

 そんなレオナは、ドローの練習をしているときに、スカートがめくれてパンツが見えていることを全く気にしない。

 ひらひらのスカートがふわりと舞い上がって、チラチラとストライプのパンツが見えるのが、すごく気になる僕は、ネクタイを緩めて、ベッドの上に座って、レオナを手招きする。

「あと10回。ちょっと待ってて」

 そう言って、10回のドローが終わると、レオナはデザートイーグルに、弾を込めたマガジンを戻す。

 そして、それまでの鬼気迫るようなオーラから一転、レオナはどこにでもいる女の子のようになって、僕に抱きついてくる。

「好き。ダーバンの香水と貴方の体臭って最高の相性だと思う。こんなにいい男の匂いって他に無い」

 僕の服を脱がせながら、レオナは体中にキスをしてくる。でもレオナは服を脱がないし、ホルスターを取ることもない。

 いつ、どこから敵が現れても、銃を抜いて、撃てるようにしているのだ。でも僕はそれで全然構わない。このドレスを着て、パンツをはいたままのほうが、ほら、盛り上がるしね。

「大好き! 絶対にずっと一緒だからね! 貴方を守るから! 絶対に死なせないから! 私も生きるから!」

 彼女はいつもそう言って、涙を流しながら上に乗ってくる。銃の暴発が怖いので僕は手を上げたままでいるけれど、彼女がこんなにまで自分のことを必死に愛してくれていることを考えると、そんなことはどうでもいいこと。

 そして、自分の仕事についても、改めて考える。こんな綱渡りな稼業だけれど、この仕事をしてなければ彼女に出会えなかっただろう。ひょっとすると、幸せな人生なのかもしれないと思う。

「今度の地域は三つ巴で戦ってるんだってね。上手いこと3方面に沢山売りつけて、沢山稼いで、またタヒチに行こうね。誰かを幸せにするなんて余計なこと考えないで、私たちだけでも幸せにならなくちゃ」

 僕の横で添い寝しながらそう言って、レオナはゆっくりと眠りに落ちていく。その満たされた笑顔を見詰めながら、僕は改めて彼女の言葉に頷く。

 そう、僕たちは神様の都合で生きているんじゃない。だからせめても、自分たちだけでも、幸せに生きなくっちゃね。


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