ユーリの想い人
まずい。
リュシアンは、今日もオフィーリアの入れてくれた茶を飲みながらそう思った。
いや、お茶のことではない。
毎日、この目の前の少女とお茶の時間を楽しく過ごして、ものすごく癒されている。
自分だけが、彼女と仲良くなっている。
うむ。…まずい。さて、どうする?
オフィーリアの目は自分に向いていると感じ、困ったリュシアンは一計を案じた。ユーリにこの国の王都をオフィーリアのために案内させるのである。そう、デートである。そうすれば歳の近い二人は自然ともっと仲良くなってくれるのではないだろうか。出来ればそこに恋心が目覚めてくれるのでは。リュシアンは年若い側近たちと早速デートプランを組み立てるのだった。
数日後、護衛態勢もバッチリで、街の少年少女に身をやつした二人はリュシアンに行ってきますと挨拶に来たとき、リュシアンが二人を眺めてウ~ンと眉を寄せた。二人はキョトンと首を傾げる。
「いかがなされました、父上」
「うん、まるで庶民の子どもに見えない。王族が変装してやってきました感満載だ」
「はあ、変装とは難しいものですね」
「そうですわ」
オフィーリアが手をパチンと打ち鳴らした。
「庶民は外で働いて日焼けしている方が多いように思いますわ。陛下、ちょっと失礼いたします」
そう言ってオフィーリアはユーリを伴い退出した。
次に二人が入ってきたとき、リュシアンは声を上げて笑ってしまった。
そこにはよく日焼けした少年二人がいたからである。
「どうです、陛下。これで庶民の子どもに見えますでしょ?」
オフィーリアのドヤ顔に、笑いすぎて涙さえ出てきたリュシアンが言った
「ああ、見事だよ。驚いた」
二人が出かけていったあと、リュシアンは思った。
「いや待てよ、あれでデートになるかな」
二人がデートプランに従って出かけた先では何処でも変な顔をされた。それは仕方なかろう。少年二人の格好でオシャレなカフェデートだ。二人が好きな食べ物や学校、休日の過ごし方などいろいろなことを語って打ち明けたあと、オフィーリアは聞いてみた。
「ユーリ様には気になっている女性がいらっしゃいますよね」
この唐突の質問ならぬ確認作業に、ユーリは思わずうっと声を詰まらせた。
(どうやら当たりね)
「どういった方かお聞きしても?」
「いや、気になっていると言うか、お世話になっているだけなんだけど」
オフィーリアは無言の微笑みで続きを促す。
「いや、僕のような子どもが相手にされないのは分かっているから」
「いくつ年上なんですので?」
「…八つ」
「そんなの、誤差のようなものですわ」
(いや、24歳差の父上と比べたらそうだろうけど)
ユーリは内心のツッコミを引きつった笑顔に隠し、そ、そうかなと呟いた。
「その恋、わたくしが三年でキッチリ成就させてみせますわ」
「えーっ」
「お母さんにまかせなさい!」
オフィーリアは肝っ玉母さんよろしく、胸をぱんと叩いてみせ、ユーリは苦笑まじりで頷いた。
夕方、二人が無事デートプランを全てこなし王宮へ戻ると、リュシアンは二人の無事な姿を見てホッと安堵し、聞いた。
「どうだね、仲良くなれたかね」
「ええ、まあ」
と答えるユーリに対し、
「はい、とっても(いい親子関係の構築始めました)」
と言うオフィーリア。
安心する気持ちの奥でなぜだか胸がチクと痛んで、明日は医師に診てもらおうと思うリュシアンであった。
その夜、オフィーリアは自国から連れてきた影にユーリの意中の女性の身辺の調査と護衛を命じた。




