王の双肩と、空席の癒やし
リュシアンの日常は、息つく暇もないほどに多忙を極めていた。
もちろん、自分一人の手で国を動かしているなどという、傲慢な不遜を抱いているわけではない。国とは巨大な歯車の集まりだ。数多の機関、役所、そして洗練された制度。それらが緻密に噛み合い、国家という大船の進むべき道を示している。
しかし、時代は常に揺れ動く。突発的な変事もあれば、旧態依然とした制度が綻びを見せることもある。
修正が必要な箇所には、専門家たちが知恵を絞った代替案や改正案が提出される。その知識の深さは、到底リュシアンの及ぶところではない。だが、王に求められるのは個別の専門知識ではない。膨大な知識を持つ者たちを適材適所に配し、正しく機能させること――それこそが、彼に課せられた至上命題であった。
扱う案件は、文字通り山をなす。
多くは実務者に任せられるが、国家の根幹に関わる重大案件となれば、初期の会合から出席し、議論の奔流を把握した上で、最適解へと導かねばならない。
結果として、彼の一日は、聞き慣れぬ専門用語が飛び交う会合の連続となる。神経を研ぎ澄ませ、張り詰めた糸の上を歩き続けるような時間は、心身をひどく摩耗させた。
(……酷く、疲れたな)
そんな時、彼には「癒やし」が必要だった。
かつて、最愛の妻が存命だった頃は、彼女の微笑みこそが至上の安らぎだった。彼女亡き後は、授かった息子がその役割を引き継いでくれた。
しかし、数年前からそれも叶わなくなった。成長したユーリは、学問に忙しく、父親からのスキンシップも露骨に嫌がるようになったのだ。
「父上、もう子供ではありません」
そう言って距離を置く息子の態度は、成長の証として喜ばしい。自分自身も、かつては親の慈しみを疎ましく感じた時期があった。
理屈では分かっていても、拠り所を失った喪失感は拭えない。
周囲は「新たな王妃を」と事あるごとに急かしたが、リュシアンにその気は微塵もなかった。亡き妻への情愛以上に、多感な時期のユーリに継母という存在を押し付けたくなかったのである。
王として、そして父として。
張り詰めた執務室の静寂の中で、彼はただ、乾いた心を潤してくれる何かを求めていた。




