気配りのトリスタン
国王シグルド崩御の報を受けて、他国から真っ先に到着してくれたリュシアンとユーリを出迎えたオフィーリア一家。オフィーリアは馬車から下りてくるリュシアンとユーリの姿も今でもありありと思い浮かべることができる。リュシアンは幼いわが子をさも大事そうに腕に抱き、眠っているユーリを起こさないようにそっと馬車から下りてきたのだ。
オフィーリアには衝撃だった。乳母でもメイドでもなく国王自らがわが子を抱いている。それも公の場で。オフィーリアはそんなことをしてもらった記憶はない。いつも使用人の誰かが自分を抱き、あるいは手をつないでくれ、公の場では父である国王の後ろを遅れないように速足で歩いた。これはシグルドが特別冷たい訳ではなかった。いや、いたって王族として普通のふるまいなのである。しかし、リュシアンは違った。我が子を抱き、人前に立った。オフィーリアには彼らの周りに温かい春の光が満ちているように見えた。
このときのオフィーリアはこれを何と形容するのかまだ知らないが、彼女はリュシアンの包容力に魅了されていたのである。
彼の持つこの優しい雰囲気をもって、人々は彼を「包容力の王」と呼んだ。父シグルドは「威厳の王」であった。また、のちに兄トリスタンは「気配りの王」と呼ばれることになる。高貴な生まれにも拘らず、何かと気配りのできるひとなのである。自由な弟妹を持つ「お兄ちゃん」は知らず知らずのうちにそのような特性を身に着けたのだった。
次の日の朝、皆で朝食の席を囲んでいると、トリスタンは気が付いた。
「リュシアン陛下、ご気分が優れないのではありませんか?」
ただでさえ多忙な一家に気を遣ってもらっては申し訳ないとリュシアンはそのことを気取られないようにしていたつもりだった。しかしトリスタンは見抜いてしまった。さすがのお兄ちゃんなのである。
「ああ、旅の疲れが少し出たようで。気を遣わせて申し訳ないね。いや、大したことはないのだよ」
「それはいけません。今日は一日お休みください。ご子息のお世話は弟たちが致します。ウィリアム、ライアン、頼めるかい?」
「はい、兄上、喜んで」
「もちろんです兄上。ユーリ殿下、何をして遊びましょう?」
実際に彼らは喜んでいたのである。父の訃報からこちらずっと重苦しい空気に包まれていて、それでいて兄の国王即位の儀礼に大忙しだったのだ。こうして他国からのお客様をもてなすという立派な大義名分を得て、彼らは堂々と遊びに行けるのである。トリスタンはそれも承知していた。まだ幼い彼らには気分転換が必要だ。さて、オフィーリアは・・・
「兄上、わたくしはリュシアン陛下の看病をいたします」
オフィーリアのこの言葉には全員が苦笑した。
「いいや、オフィーリア。陛下のお邪魔をしてはいけないよ。ウィリアムたちと一緒に殿下のお世話を頼むね」
「はい、承知いたしました」
オフィーリアは殊勝にうなずいた。




