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メイドカフェでクラスの清楚系貧乏美少女が働いていた!?~バイト禁止の学校に通う俺は、同じクラスの美少女と【秘密を共有】する~  作者: 早野冬哉


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6.カラオケ

「お待たせ。三時間コースでよかったんだよな?」


「うん……」


 カラオケボックスの中。心なしか緊張した様子の山下は、パネルを操作し曲を選ぶ。俺は荷物を置き、山下とは少し離れた位置に座った。


 ……なんか、これやばいな。変に緊張する……昼休みに山下さんと二人きりになるのにはもう慣れたはずなんだが……。


 カラオケボックスで山下と二人きり。その特殊な状況に、俺の鼓動は速くなっていた。心なしか俺の目には、山下がいつも以上に魅力的に映った。


「じゃあ、歌うね……」


 軽快なリズムが流れ始め、山下がディスプレイの前に立つ。そして山下はマイクを構え、凝り固まった表情で歌いだした。


「~~~~~~♪ ~~~~~~~~~~♪」


 決して上手とは言えないまでも、リズムや音程は押さえた、山下らしい真面目な歌声がカラオケボックスに響く。小さな口を目一杯開き、乏しい表情に反して一生懸命に歌う山下。彼女のひた向きで健気な歌唱姿から、俺は目を離すことができなかった。


「~~~~♪ ~~~~~~~~~~♪」


 ふいに、歌っている山下と目が合う。俺は笑顔で頷いた。すると山下の表情からも緊張が抜けていき、ほんのりと笑顔を浮かべた。歌声も自然と柔らかくなり、耳障りもよくなった。


「~~~~~~♪ ~~~~♪!」


 曲が終わり、山下がマイクを下ろす。


「どう、だった……?」


「…………」


 声を出せずにいる俺を見て、山下は俯く。


「やっぱり、わたしの歌……下手だったよね……」


「いや、すごくよかった! 歌ももちろんそうだけどそれ以上に、山下さんの歌う姿がかわいすぎてやばかった! ……とにかくもう最高だった!」


 声を昂らせ語彙力をかなぐり捨て──。俺は椅子から飛びあがり、オタクとして好きなアニメを熱弁するように、湧き上がる感動を真っすぐ山下にぶつけた。


「山下さんが頑張って練習してきたことが伝わってくる歌だったし、少しでもいい歌にしようと全力で歌ってる姿も健気でかわいくて……初めてカラオケで歌ったんだろ? それでこれだけ歌えるのはすごいって!」


 緊張なんて脱ぎ捨てて、俺は早口で山下の歌を誉めまくった。そうしなければ──山下自身に山下の歌の魅力を知ってもらわなければ気が済まなかった。


「しかも今の曲はテンポも速くて高音も多い難しめの曲だろ? それを歌いきるなんて──」


「……も、もういい! 町川くんもういいから……お願いだから落ち着いて」


 顔を真っ赤にした山下は、細々とした声で俺を制止する。山下は椅子に座ると、俺と反対側の壁を向いて水を飲んだ。その時、サラサラの黒髪から覗く彼女の耳は赤かった。


「……悪かった。山下さんの歌に感動してつい、話過ぎた」


 山下の声で冷静になった俺は、山下に向かって「かわいい」だの「健気」だの、偉そうで図々しくて恥ずかしい言葉を連呼した事実に死にたくなった。


 なにやってんだ俺……イタすぎるだろ。


 羞恥心に押しつぶされそうになりながら、俺はコップに入った水を一気に飲み干した。


「あの……町川くん」


 お互い水を飲んで冷静になった頃。山下が俺に向かって、遠慮がちにマイクを差し出す。


「次の曲はデュエットなの。町川くんがよければだけど……わたしと一緒に、歌ってほしいな」


 山下とデュエット!? あんなかわいい歌い方をする美少女と一緒に歌えるの? これは夢か? それとも明日俺は死ぬのか?


 そう。この時はまだ、俺の山下の歌に対する感動の熱はまったく冷めていなかった。俺は深夜テンション並みに舞い上がっていたのだ。


 そんな俺は山下の言葉を聞いた途端、FPSで鍛え上げた動体視力を最大限発揮してモニターをチラ見。コンマ一秒の間に曲名を一瞥し、山下の目を見て即答した。


「もちろんだ! ぜひ歌わせてくれ」


 俺はマイクを受け取り、画面の前に立つ。


 知ってる曲でよかったぁ……中学時代アニソンを叩き込んでくれた慎吾に感謝だな。


 内心安堵していた俺の横に、山下がマイクを持って並んだ。そうして俺たちは目線を交差させ、同時に息を吸った。


***


「町川くん、今日はありがとう。わたしの練習に付き合ってくれて」


 帰り道。日が沈み街灯が灯り始めた頃、俺と山下は人通りのない住宅街を歩いていた。


「俺の方こそ……今日は楽しかった。ありがとな」


 特に会話もなく、俺たちは無言のまま住宅街を歩く。それでも、不思議と気まずさはなかった。


「町川くん、ここでいいよ。わたしの家、この近くだから」


「そうか……なら、また明日」


「うん……」


 立ち去ろうとする山下の後姿を見て、俺は気になったことを口にする。


「あ、そうだ……山下さん。メイフィーでやるっていう歌のイベント、山下さんはいつ出るんだ?」


「えっ……!? 今週の土曜日だけど、なんでそんなこと……もしかして町川くん、来るつもりなの?」


 表情こそ冷静だが、動揺を隠せていない山下に、俺は素っ気なく返事を返す。


「いや、少し気になっただけだ」


「……恥ずかしいから……絶対、見に来ないでね」


「わかってる」


「本当に……?」


「ああ。もちろん朝一で行く」


 俺が抑揚のない声でそう言うと、山下はサッと顔を背けた。頬に右手のひらを当てて顔を隠し、耳たぶを触った。


「いや、冗談──」


「いいよ……」


「えっ!?」


 山下の小さな声に、俺は思わず驚きの声を上げた。


「えっ……!? ……冗談、だったの?」


「そのつもりだったんだけど……本当に見に行ってもいいのか?」


「……うん、いいよ。……でも町川くんの冗談、すごくわかりずらい」


「ハハッ……よく言われる。悪かった」


 すねた様子でジト目を向けてくる山下に、俺は苦笑いを返すしかなかった。


 その後の土曜日。俺は約束通り朝一でメイフィーに赴き、メイド服で歌う山下を堪能したのは、少々先の話だ。

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