40.決勝戦
「三人とも、そろそろ始まるぞ」
決勝開始まで残り五分を切ったところで、俺たちはウォーミングアップを切り上げる。
「よしっ! あとは勝つだけだなっ!」
「裕太それ、簡単に言わないでよ」
「じゃあ慎吾は勝つ気ないのか?」
「そんなことはないけど……」
裕太と慎吾の普段通りの会話に思わず口元が綻ぶ。隣を見ると、鈴も予選の時よりは余裕を纏っていた。
「鈴、いけるか?」
俺がそう聞くと、鈴は画面に集中したまま頷く。その横顔は凛としていて、鈴ははっきりとした声を発した。
「うん。大丈夫」
「そうか……じゃあ、勝とう」
「うん」
鈴も緊張してないみたいだし、あとはもう、勝つも負けるも俺次第、だよな。
俺は深く息を吐き両手を擦り合わせ、集中力を研ぎ澄ます。そのルーティーンが終わった瞬間、実況が流れた。
『さあいよいよ! ガンドランカルテット最強のチームが今決まるッ! 世界屈指のプレイヤーたちよ、準備はいいかぁッ! この決戦を見ている全世界のガンドランファンたちよ、新たな世界王者の誕生に立ち会う覚悟はあるかぁッ! ガンドランカルテット世界大会、決勝戦、スタートだあぁッ!』
***
「よし、近くに実力上位チームはいない。殲滅して物資を整えるぞ!」
「おうっ!」
「うん」
「わかってるよっ!」
決勝戦開幕直後。激戦地に降り立った俺たちは、最初のアイテム争奪戦に飛び込む。
一番実力と経験が出やすい最初のアイテム争奪戦では、俺、裕太、慎吾の三人が最低限のアイテムで敵を打ち倒し、その間に鈴がアイテムを根こそぎ回収。それから俺たち三人に分配する形にすることで、初心者の穴を埋めた。
『さすがはトリオ世界大会王者! スリースの圧倒的な個人技とガンナー、グリムリーパーの阿吽の呼吸。とんでもない殲滅力だ! 他のチームは手も足も出ていないぞぉ!』
俺の「スリース」というプレイヤーネームを叫ぶ実況。その間に俺たちは周囲の敵を全滅させ、マップ中央に陣取ることに成功した。
「よし、ここからだな春馬っ! 山下ちゃん! 期待してるぜ」
「うん。頑張ります」
「じゃあ、配置に着いてくれ」
それから俺たちは中央で敵を待ち構えた。しばらくは接敵することなく、最初は二十五あったチームも、生き残っているのは八チームまでに減った。そしてついに、一つのチームが俺たちに近づいてきた。
「あれは……世界一位の!」
「鈴、始めてくれ」
「うん」
***
──相手チーム視点──
「よし、このまま中央に陣取って迎撃態勢を取る──」
リーダーが指示を出していたその時、目の前に「ソネット」というプレイヤー──鈴が突如姿を現し、射撃を始めた。
「散れ!」
チーム四人は一瞬にして物陰に隠れ、そこからソネットに反撃。するとソネットはすぐさま工場跡のような地形に逃げる。
「追うぞ! だが、あいつは確実におとりだ。途中まで引っかかったふりをして、例のポイントから待ち伏せしているやつらを一方的にハチの巣にするぞ!」
「「「オーケー!」」」
***
「鈴。そのまま例のポイントまで走ってくれ」
「……っ。うん」
鈴は敵チームに射撃されながらもその攻撃を掻い潜り、練習通り最短かつ最も遮蔽物の多いルートを鮮やかに駆け抜ける。
その時、敵チームが突如鈴を追うのをやめた。代わりに絶好の待ち伏せポイントを一方的に狙えるコンテナの陰に潜り込んだ。
「……っ春馬っ!」
「すごいよ。完全に──」
「ああ……かかったな」
俺たち三人は、敵チームのがら空きの背中に向けてゼロ距離でショットガンを放った。そう、俺は敵チームがおとりに気付き、待ち伏せポイントを抑えにかかることを読み、敵チームの背後に先回りしたのだ。
「鈴!」
逃げ出した一人が何の遮蔽物もない空間に飛び出し、鈴に銃口を向ける。──が、それも読み通り。
相手チームも鈴が予選ですぐに脱落したことを知っている。しかも鈴の動きはまだ初心者感が否めない。だからこそ、無意識に鈴をなめる。相手をなめれば当然、動きも単調に──直線的になる。
だから俺は鈴に、おとりとしての逃げ方と、真っすぐ突っ込んでくる相手の倒し方だけを叩き込んだんだ……!
言うまでもなく鈴は、敵を倒すことに成功した。
「よしっ! 世界一位にもこの作戦は通用する。このまま勝つぞ!」
俺は周囲の警戒をしつつも、自分の考えた作戦が完璧にはまったことに声を昂らせる。
「うん……!」
鈴も、決勝という大舞台で練習の成果を発揮できて興奮していた。
それからも俺たちはおとり作戦を成功させ続け、最後のチームは真っ向から射ち合った。そうして、俺たちは誰一人やられることなく、最後の一人を倒した。その瞬間俺は椅子を倒す勢いで立ち上がり、拳を握り締めた。
「よしっ! 俺たちの勝ちだ!」
『け、決着ッ! なんとなんとなんとッ! カルテット世界王者は現トリオ世界王者、スリースチームだぁッ!』
「やったぜ春馬、慎吾! やっぱおまえらすげぇよ!」
「前人未到の二冠だよこれって! これでボクたち最強だね」
実況とともに、ヘットフォンからは裕太と慎吾の上擦った歓喜の声が流れてくる。
「ああ、二人ともありがとな。裕太と慎吾がいたから勝てた」
画面に向かって声を飛ばした後、俺は隣に座る鈴を振り向く。鈴は、キーボードとマウスに手を置き、画面に表示された「ナンバーワン」の文字を見つめたまま固まっていた。
「鈴も最高のおとりをありがとな! あれがなかったら、俺たちはたぶん勝てなかった」
こみ上げてくる熱に浮かされて、俺はいつになく大きな声でまくしたてた。すると鈴は、信じられないというように、かすかな声を震わせる。
「本当に、優勝したの……?」
「ああ。俺たちの優勝だ! これで鈴のお母さんの病気も直せる」
「……っ!」
ようやく実感がわいたのか、鈴は息を呑み両手で口元を押さえた。そして彼女の目からは涙が零れる。鈴は今までで最高の、冷たい雪を溶かす春の日差しのような温かい笑顔を浮かべた。
「春馬くん……!」
鈴は、俺の胸に飛び込んできた。
「えっ……はっ!? 鈴!?」
背中に回される小さく柔らかい手。肌に触れる、サラサラの黒髪。そしてなにより、胸の中にある温もりに、俺の体は大会優勝以上の熱を持ち始めた。
「春馬くん。……ありがとう。春馬くんがいてくれたからわたし……」
俺の胸に顔をうずめたまま、鈴は澄んだ声を上げる。彼女のうれし涙が、俺の服を濡らしていく。
俺は、鈴の役に立てたんだよな……? ……なら、今だけは、いいよな……?
俺は鈴の背中に左腕を回し、右手で彼女の頭を撫でた。すると、俺を抱きしめる鈴の腕の力が強まり、鈴はより深く俺の胸に顔をうずめた。
明日は夜に投稿します




