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メイドカフェでクラスの清楚系貧乏美少女が働いていた!?~バイト禁止の学校に通う俺は、同じクラスの美少女と【秘密を共有】する~  作者: 早野冬哉


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4.鬼教師「本堂」

「この問題は……そうだな。山下、前に出て解いてみろ」


「はい」


 四時間目の数学。角刈りで、鬼教師として名高い本堂先生に当てられた山下が席を立つ。


 山下が無表情のまま黒板まで歩く。それだけで、山下はクラス中の男子の視線を集めた。


「正解だ。流石だな山下。戻っていいぞ」


 スラスラと回答した山下に、本堂は含みのある笑みを浮かべた。


「やっぱ山下さんってめっちゃ頭いいよな。鬼の本堂は出題も鬼レベルなのにあんなに早く解くとか、他に誰がまねできるんだよ」


「顔も体も頭もいいとか、完璧美少女すぎるぜ鈴ちゃん……おれの彼女になってくんないかなー」


 ひそひそと山下の魅力について語り合う男子たちの表情は明るい。だが、教室全体はすぐに重苦しい雰囲気に包まれた。


「またあれがくるわね……」


「勘弁してくれよ。おれにだけは当たるな」


「今日だけはやめてくれよ……今日は新作ゲームの発売日なんだよ……」


 山下が問題を解いた後、クラスメイトの大半が目を伏せ、祈る。これが本堂の授業での恒例行事だった。


 どうでもいいから早く授業を終わらせてくれよ……。


「山下が解けるってことは、俺の授業をちゃんと聞いていれば解ける難易度の問題ってことだよな? ってことで次の問題、解けなかったら補修だ。……さて、今日は誰に解かせるか……」


 本堂は差し棒を肩に担ぎ、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべ教室全体を見回す。


 数学の教師というより熱血体育教師と言った方がしっくりくる本堂は、生徒に補修を受けさせるのが大好きな変態──自分の時間を削ってまで毎日のように補修を開き、生徒たちをしごくことに愉悦を感じるドSなのだ。


 そして本堂の補修は、問題を百問解くまで帰れないという地獄のような物だと、クラスメイト全員が知っている。


「よし決めたぞ」


 本堂の一言に、何人かの生徒の肩が跳ねた。


「町川。おまえがこの問題を解け」


 俺かよ……最悪だ……。


 俺は仕方なく席を立つ。


「よかったぁ……一瞬おれかと思った」


「今日の犠牲は陰キャくんかぁ……ってあれっ? 名前なんだっけ?」


「今さっき町川って呼ばれてたじゃん! 沙紀ひどーい!」


 ぱっとしない帰宅部男子からクラスカースト上位の陽キャ女子たちまで、大半の生徒が俺に哀れみの視線を向けてきた。


 終わった……あの問題まじでわからん。


 黒板に書かれた等式や条件式を見れば見るほど何をどうしたら解けるのかわからなくなる。本堂から地獄の補修を言い渡されるためだけに、俺は重い足を動かした。


「町川くん」


 その時、横から小鳥がさえずるような聞き心地のいい、山下の声が聞こえた。俺にだけ聞こえるように小さくした山下の声は、俺の視線を彼女のノートへと誘導した。


 そこには、黒板に書かれた問題の計算過程が書かれていた。


 ああなるほど。そうすればいいのか。助かったぁ……。


 俺は足を止めずに山下が見せてくれた計算過程を読み取り、黒板の前に立った。


「さあどうした町川? 早くチョークを持て。まさか解けないのか? 解けないなら今日はおまえが補修──」


 本堂が勝ち誇った笑みを浮かべる。その眼前で、俺はチョークを使って黒板に計算式を書き始めた。コツコツコツと軽快な音を鳴らして五行に渡る計算を書き終え、俺は本堂を振り向いた。


「終わりました」


「はっ!?」


 本堂が目を見開き、俺が書いた答えを凝視する。


「……せ、正解だ」


「……す、すげぇ! すげぇよおまえ! あの本堂の鬼問題を解くなんて天才かよ!」


 前列に座っていた、体育会系のムードメーカー男子の声を皮切りに、教室中がざわめく。


「山下さん以外で本堂の問題解けたのって初めてじゃない!?」


「やっぱ陰キャって頭いいんだな!」


「見てよあの本堂の驚いた顔! 大傑作じゃん!」


「ああスカッとしたぁ!」


 やめてくれ! ……これは山下さんのおかげで、俺は何もしてないんだ。


 俺は気まずくて、クラスメイトたちの視界から逃げるようにして席へと戻った。


 席に戻る途中、いつも無表情な山下の口元が緩んでいるように見えたのは、たぶん俺の気のせいだろう。


***


「山下さん。さっきはありがとな」


 昼休み。空き教室に入ると俺は開口一番、山下にお礼を言った。


「いいの……もとはと言えば、町川くんやクラスの人たちが補修を受けさせられそうになるのはわたしのせいだから……」


 細い腕を抱えて俯き気味になる山下。彼女の横に並べた椅子に座り、俺は弁当袋から弁当を取り出す。


「そんなことはないだろ。あれは全面的に本堂先生が悪い」


「そうだと……いいな。でも、わたしが本堂先生の問題を解かなければって、きっとみんなそう思ってるよ」


「たしかにそう思ってるやつらもいそうだな」


「……そうだよね。やっぱりわたしが悪──」


「けど、山下さんは優等生でいなくちゃならないんだろ?」


 ここ春歌高校は私立だ。隠れてバイトしなければならないほど貧乏な山下が通うには、授業料免除の特待生でいる必要がある。


 特待生の条件は学年十位以内。それと内申点。


 だから山下は朝も昼休みも勉強していたのだろう。


「だったら、答えを教えてもらった俺がこう言うのもなんだが……周りに合わせて成績を下げるなんてしなくていいと思うぞ」


「だけど……」


 山下さんは自己肯定感が低いんだろうな……すぐに自分が悪いって考える。


「あれは本堂先生が悪い。山下さんより頭が悪い俺やクラスの連中が悪い。誰が何と言おうと山下さんは悪くない! ほら、これでこの話は終わりだ」


 ぶっきらぼうに自分の考えを言い捨て、俺は山下の隣で弁当箱を開ける。


 隣で、山下はなぜか一瞬固まっていた。だがすぐにその華奢な体を揺らし、山下は鈴を転がすような優しい笑い声を奏でた。


「ふふっ……そう言ってくれると、嬉しい」


 ……っ! かわいすぎるだろ……。


 山下が浮かべる、思わず守ってあげたくなる微笑みに、今目の前にいるのが学年トップの美少女だということを思い知らされる。


「ほら、さっさと弁当食べるぞ」


 黄色の四角い弁当箱を山下の前に置き、俺は青色の四角い弁当箱に箸をつけた。隣ではちょうど、山下が玉子焼きを噛んでいるところだった。


「おいしいか?」


「うん。やっぱり、町川くんが作ってくれるお弁当はおいしいね」

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