38.プレゼント
「春馬、誕生日おめでとー!」
「おめでとう……」
「おめで、とう……町川」
夏休み前最後の登校日。正午前の下校道を俺、長谷田、愛希、鈴の四人で歩いていると、わかれ道で唐突に誕生日を祝われた。
「あ、ああ。……ありがとう」
そう言えば、長谷田には誕生日教えたんだったな……。
俺が驚いていると、三人はコソコソと何か話してから、そろって俺を見た。
「ほら長谷田。先にいいよっ!」
「う、ん……」
なにやら愛希に促され、長谷田が普段から鋭い目をいっそう鋭くして前に出る。そしてカバンから袋を取り出し、俺に差し出した。
「これ……た、誕生日プレゼント……」
「ありがとな長谷田。……開けてもいいか?」
「うん」
袋を受け取り中を確認するとそこには、白のブックスタンドが入っていた。
「これって……」
「ぶ、ブックスタンド……町川、ラノベとか漫画、好きだって……それに、ベットの近く、本置く場所なくて不便って、言ってたから……」
「ああこれ、ベットにくっつけられるやつか。すごく助かるぞ長谷田。ありがとな」
「う、ん。……喜んでもらえて、よかった……」
長谷田は視線をそっと柔らかくしたのを見て、俺も少しだけうれしくなった。
「じゃ、次はあたしの番だよっ!」
そう言うと愛希は、赤を基調とした小袋を握った手で俺の胸元を小突く。俺が反射的に小袋を受け取ると、愛希はニッと口を広げ微笑んだ。
「春馬っ。早く開けてみてよー!」
「ああ……」
愛希に言われるがままに小袋を開けると、その中には上質そうな白の小箱が入っていた。
これってまさか……いや、さすがに愛希でもそれはないよな?
某指輪を想像してしまった俺は心の中でその可能性を否定し、唾を呑む。それから恐る恐る小箱を取り出し、ふたに手をかけた。
「開けるぞ」
「うんっ!」
俺が自分に言い聞かせるように開封宣言をすると、愛希の小悪魔的な満面の笑顔がいっそう強まる。
大丈夫だ……いくらなんでも高校生の財力じゃそれは買えないだろ。
俺は意を決し、小箱のふたを開けた。
「……っ」
小箱のふたを開けた途端、眩い光が俺の目を焼く。思わず目を細めた俺は、目が光に慣れてくるのを待ち箱の中身を見た。するとそこには、太陽の光を反射して輝く、ハートのペアネックレスが入っていた。
「どお? あたしのプレゼント、気に入ってくれたっ?」
「いや、これカップル用のやつだろ……。俺たちって友達だったよな……?」
俺が白い目を向けてつっこむと、愛希はさっきまでの小悪魔的な笑みを消した。
「だから今はまだ、それは二つとも春馬が持っててよ」
そう言うと愛希は一瞬鈴の方に視線を送り、それから俺に向かって一指し指を立てた。目を細くし、キリッと唇を結んだ不敵な笑みを浮かべて。
「見ててよ春馬! あたしが必ず春馬を惚れさせて、そのハートのネックレスを一緒につけてみせるからっ!」
「……っ! 俺は、愛希とは付き合わないって言ってるだろ」
俺は不覚にも、愛希の大胆すぎる宣戦布告にたじろいでしまった。無意識のうちに鈴に目を向けると、鈴が愛希を見る目にはどこか対抗心のようなものが見えた気がしたが、おそらく気のせいだろう。
話題変えないとヤバいなこれ……。
「……そう言えば長谷田。長谷田のことも亮って下の名前で呼んでもいいか?」
「あー! 春馬今、露骨に話題変えたよねー? あたしのこと意識しちゃった?」
「うるさい……それより長谷田。亮って呼んでいいか? 俺も春馬でいいから」
俺は愛希に頬をツンツンとつつかれながらも強引に話題転換を図る。それに長谷田──亮は応えてくれた。
「う、ん。いいよ……は、春馬……」
「にひひっ! 今はみんなの前だし誤魔化されてあげるけどっ、次こそは絶対あたしのこと好きだって言わせてあげるからねっ!」
危なかった……。
なんとか勢いで誤魔化しきった俺は、そっとため息を吐いた。
***
「お邪魔します……」
午後二時。鈴は一度家に戻って昼食を食べてから、俺の家に来た。
「ああ。裕太たちが通話入ってくるのは三時くらいからだから、それまでは基礎練習だな」
鈴が毎日家に来るようになってからもう十日以上も経っている。だから俺も鈴も変に緊張することなく、自然体でガンドランの練習に打ち込めるようになっていた。
けれど今日は、鈴は玄関で靴も脱がずに固まっていた。
「ん? どうしたんだ?」
鈴の異変に気付き声をかけると、鈴は肩をすぼめて申し訳なさそうに目を伏せた。
「……ごめんね春馬くん。わたしだけ何にもプレゼントあげられなくて……」
「あー、それなら別に気にしてないから大丈夫だぞ」
俺は部屋の奥に歩を進め、鈴にも部屋に上がるように促す。しかし、鈴はその場を動かずに目を上げ、首を横に振った。
「ううん。春馬くんにはずっとお世話になってばっかりだから、わたしもお礼がしたいの」
「いや、別に無理しなくてもいいって。それより早くガンドランやらないか?」
鈴にこれ以上気を遣わせないようにと話題を変える。けれど鈴は胸に手を当て、なおも首を横に振った。それから鈴は真っすぐに俺を見て、そっと口を開く。
「ねえ春馬くん。今日はガンドランをする前に、わたしに部屋の掃除と洗濯をさせてほしいの。……それから、夕食もわたしが作りたい……」
鈴の手料理か……食べたいな。まあ、このまま鈴のお礼を拒み続けてもらちが明かないし、お金を使うわけでもないからいいか。
そんな風に自分に言い訳しつつ、俺は鈴の手料理が食べたくて首を縦に振った。
「わかった。けど、洗濯も鈴がやるのか?」
「えっ……? どういうこと……?」
真顔でそう聞かれて少し恥ずかしくなり、俺は前髪を弄りながら答えた。
「いや。鈴が気にしてないならいいんだけど、洗濯ってことは俺の下着にも触ることになるだろ?」
「あっ……!?」
途端に顔を紅潮させた鈴は、耳を触り顔を隠す。そんな彼女の様子に、俺は苦笑いをするしかなかった。
「やっぱり、気付いてなかったんだな」
「うん……」
「じゃあ洗濯はなしで掃除と夕食作るのだけやってくれるか?」
「うん……そうするね……」
それからは部屋の掃除を終えるまで、鈴は一度も顔を合わせてくれなかった。
***
夏休みに入ってからは、鈴のバイトと折り合いをつけつつ、ガンドランをやり込んだ。そうこうしているうちに夏休み開始から一週間と少しが過ぎ、ガンドランの四人制世界大会当日はあっという間に到来した。
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