34.調理実習①
山下、金城と三人で会った翌日。火曜日の三、四時間目の授業は調理実習だ。
「ではまず好きな人と四人グループを作ってくださぁ〜い」
ほんわかな笑顔を浮かべる中年女性の家庭科教師──渡辺先生がパンッと手を叩くと、クラスメイトたちはガヤガヤとグループを作り始めた。
はぁ……自由グループやめてくれよ。
一応俺には、山下鈴、金城愛希、長谷田亮の三人の友達がいるにはいる。だが、山下との関係は教室では隠しているし、金城は芦田ひまりたちといつも四人で行動している。つまりは、長谷田以外にも二人、グループメンバーを探さなければならない。
「町川……一緒の、グループ……いい?」
「ああ」
金髪の高身長で目つきが鋭く、クラスメイトたちからは恐れられている長谷田。実際はコミュ障で優しい彼の誘いに頷いてから、俺は周囲を見回した。
「……あと二人どうする?」
「どう、しよう……」
次々と四人グループが出来ていく家庭科室の中、俺と長谷田はエプロンが入った巾着を手に立ち尽くしていた。そんな時──。
「町川ー! ……と長谷田!? 二人って仲良かったの!?」
横から聞こえて来る聞き馴染みのある声に振り向くと、そこには山下の手を引いて向かってくる金城の姿があった。
「まあいいや。じゃあこの四人でグループ組まないっ?」
「俺は構わないけど、芦田さんたちはいいのか?」
「ひまり? 全然ダイジョーブ! ひまりたちに言ったら、雪音が背中叩いて送り出してくれたよ」
「そうなのか……」
金城は胸を張って得意げに親指を立てる。彼女の横で成り行きをうかがっていた山下も、小さく頷く。
「わたしも大丈夫……」
確かに、俺と山下の関係はクラスには秘密だが、金城の友達として俺と一緒に居る分には問題ないだろう。
残る長谷田に目を向けると、長谷田は持って生まれた鋭い目つきで金城を見ていた。よく見ると──本当によくよく注視すると、長谷田はほぼ初対面の女子と話すことに緊張し、不安に目が揺らいでいた。
「大丈夫か長谷田? 無理そうならやめるけど、どうする?」
「大……丈夫。……頑張って、みる」
「そうか」
長谷田は額に汗を浮かべながらも頷く。彼もコミュ障を克服しようと頑張っているようだ。
「大丈夫そ? じゃ、よろしくねー!」
「ああ。よろしく」
「よろしくお願いします……」
「……よろ、しく……」
そうして俺たちが調理台の席に着いた時、クラス中の男子の視線が集まった。
「なんでっ……! なんで町川と長谷田が春歌高校一年の二大美少女二人ともと一緒なんだよ! 羨ましー!」
「クソっ! 町川死ね長谷田死ね。あの二人に呪いあれ」
普段長谷田のことを恐れているクラスメイトたちも、今だけは俺ともども憎悪と妬みのこもった敵対心剥き出しの視線を向けてくる。そんな中、何も気づいていなそうな渡辺先生が声を上げた。
「どのグループにも入れていない子はいませんかぁ~?」
俺と長谷田に向けられた罵詈雑言は消え、家庭科室が静まり返る。
「いないようですね~。では早速、今日作るカレーの作り方を説明しますね~」
***
「じゃあまず役割分担決めよー! 誰かやりたいところあったりするっ?」
渡辺の説明が終わり実習時間に入ると、黄色のエプロンを纏った金城がそう聞いた。だが、ベージュのエプロンを着た山下も、黒のエプロンをした長谷田も黙ったまま。俺はその様子を見て、口を開いた。
「なら俺、炒めて煮るのやってもいいか?」
「オッケー! じゃああたしはジャガイモ切ろっかな。……あとは玉ねぎとにんじんだけど、鈴と長谷田、どっちがどっち切る?」
金城がそう聞くと、二人は無表情のまま互いの様子をうかがう。そしてコミュ障の長谷田と、いつも自分は余りものでいいと思っている山下の二人は動かなくなってしまった。
「山し──長谷田はどっちを切りたい?」
ここは少し、コミュ障を克服しようと頑張っている長谷田に喋る機会を与えようと、俺は長谷田に話を振った。すると長谷田は口を開きかけては閉じ、何度目かに口を開けた時にようやく声を絞り出す。
「……ぁ……に、にんじん……切る……」
しどろもどろする長谷田の様子を見て、俺の対面にいた金城はわざわざ調理台を回り込み、俺に耳打ちしてくる。
「ま、町川。……長谷田が無口なのってもしかして──」
「ああ。コミュ障だ。ちなみにあの鋭い目つきは生まれつきらしいぞ」
「そうなんだ……」
金城はポカンと口を開けたまま、クラスのイメージとまるで違った長谷田をまじまじと見つめる。それから金城は自分の席に戻ると、気を取り直して明るい声を上げた。
「まあとにかく役割決まったし、早く始めよっ!」
その直後。
「……金城さん。ジャガイモ、どうしてそうなった……」
調味料を渡辺のところまで取りに行っていた俺が戻ると、金城が皮をむいたジャガイモは最初の半分くらいの大きさになっていた。
「しょ、しょうがないじゃん! あたし料理とかしたことないしっ! それに高校生で料理できる人なんてそんなにいな──へっ?」
顔を赤くして開き直った金城は、主語を大きくして責任転嫁を図ろうと山下と長谷田の手元を見る。だがそこには、きれいにくし切りされた二玉の玉ねぎと、包丁で完璧な皮むきをされたにんじんが並んでいた。
「鈴は料理できそーだなぁって思ってたけど長谷田まで!? ……もしかして、町川も料理できたり……?」
「ああ、できるぞ。俺は一人暮らしだからな」
「マジかー……この班料理できる率高くないっ!?」
金城は愚痴を嘆きながらももう一個のジャガイモと包丁を手にする。そしてガリッと、皮むきでは出ないはずの音を鳴らし、皮以外のものもくっついた短い皮がまな板の上に落ちた。その時、包丁の刃は大きく跳ね、金城の手に当たりそうになっていた。
怖っ! 危なすぎるだろ……。
「金城さん。皮むくの代わるか?」
「えーでも、これやらなかったらあたしなんもやることないじゃん」
変なところで律儀な金城は、またもおかしな角度で包丁の刃をジャガイモに突き立てる。
「愛希……! わたしも、やめた方がいいと思う……」
玉ねぎを切り終えた山下も金城がジャガイモの皮をむく様子に危機感を覚え止めに入る。だが金城は止まらない。
「もー二人とも心配しすぎー! あたしだってさっきの失敗で成長してるから大丈夫だって!」
「いや、まずその包丁の刃の角度間違ってるから」
「えっ、そうなの?」
「ああ。角度はもっと浅くしないと、またジャガイモ小さくなるぞ」
「こう?」
金城が包丁の角度を変えると、今度は角度が浅すぎて、そもそも皮をむけない角度になっていた。
「それは浅すぎる……」
「えーじゃあどのくらいならいいのさ?」
なんて言えばいいんだ……?
口では伝えにくく、俺は山下に助けを求める視線を送った。すると山下はコクリと頷く。
「愛希。ちょっと触るね……」
「うえっ!? 鈴!?」
山下は金城の後ろから抱きつくようにして金城の両手に触れると、包丁の角度や持ち方を教える。そのおかげで、金城は山下に手を動かされる形でジャガイモの皮をきれいにむくことができた。
「やったできたっ! ありがとね鈴!」
「うん……」
皮むきを成功した金城と、友達の役に立てた山下。二人はそれぞれの理由で笑いあった。




